報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“Gynoid Multitype Cindy” 「DCJロボット未来科学館」

2016-09-01 19:30:20 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月28日09:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー 敷島孝夫&3号機のエミリー]

 敷島:「な、何ですって!?平賀先生が襲われた!?」

 敷島は社長室で、絶叫にも近い声を上げていた。
 手には私用のスマホを握っている。

 平賀:「参りましたよ。幸い、うちの七海とルイージのやり取りのおかげで助かりましたけどね」
 敷島:「エミリーは……って、こんな時に故障中か!」
 平賀:「運が悪いことです。でもまあ、助かったことですし、警察の事情聴取が終わったら、またエミリーの修理に当たります」
 敷島:「すぐ、そちらに行きますよ。シンディに護衛してもらいます」

 敷島は傍らに立つシンディを見て言った。

 平賀:「お気持ちはありがたいのですが、それだと逆に敷島さんの方が手薄になりませんか?奴等がそれを見逃すとは思えませんが……」
 敷島:「大丈夫ですよ。こう見えても私は、KR団から『不死身の敷島』と呼ばれた男ですから」
 平賀:「……いや、やっぱりお受けできません」
 敷島:「そんな、遠慮なさらず……」
 平賀:「いえいえ。それで敷島さんに何かあったら、自分が一生後悔します。自分の身は自分で守りますよ」
 敷島:「困りましたなぁ……」

 すると、シンディがとんとんと敷島の肩を叩いた。

 敷島:「何だ?」
 シンディ:「マルチタイプは他にもいるじゃない」

 シンディは北の方を指さした。

 敷島:「アルエットに?しかしあいつ、科学館さんに長期レンタル中だし……」
 シンディ:「科学館さんに頼んで、姉さんの修理が終わるまでの間だけでも戻してもらうのよ」
 敷島:「うーむ……。あー、もしもし、平賀先生」
 平賀:「ええ、聞いてます。アルエットもなかなかどうして戦闘力がありますから、それなら安心ですね」
 敷島:「分かりました。科学館さんと交渉してみます」

 敷島はそう言って電話を切った。

 敷島:「じゃあ、科学館さんに連絡だ。西山館長、首を縦に振ってくれるかな?」
 シンディ:「ボーカロイドのイベント、タダで行う約束してあげたら喜んで貸してくれると思うわ」
 敷島:「……タダでやるのはMEGAbyteだぞ?」
 シンディ:「いいから早く電話しなって」

 MEGAbyteのイベントをタダで行う条件を出したら、喜んでアルエットの戻しを快諾してくれた。
 今度はプロデューサーの井辺に連絡した。
 井辺はMEGAbyteのプロデューサーだからである。

 敷島:「あー、井辺君。確か今度の日曜日、MEGAbyteのスケジュールは空いてただろう?科学館さんのチャリティーイベントへの参加を決めたから」
 井辺:「さ、さすが社長です。一体、どうやって?」
 敷島:「取り引きだよ、取り引き。そうだ。キミはそのMEGAbyteのプロデューサーだし、妖精ロイドの萌もキミに会いたがってる。MEGAbyteを連れて、科学館さんに行ってもらえないか?」
 井辺:「分かりました」

 科学館の申し入れで、さすがにすぐ連れて行かれるのは急過ぎる為、今日の閉館後にしてほしいとのことだった。

[同日16:00.天候:曇 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館 井辺翔太、MEGAbyteの3人、西山潔館長、マルチタイプ8号機のアルエット、妖精型ロイドの萌]

 井辺はMEGAbyteの3人(未夢、Lily、結月ゆかり)を車に乗せて、一路さいたま市郊外へ向かった。
 事務所の地下駐車場を出ると、首都高速の豊洲出入口に向かう。
 そこから首都高速に乗って、さいたま市へ向かうというルートだ。

 井辺:「チャリティーイベントではありますが、DCJの役員さんも視察に来られる大きなイベントです。今日はアルエットさんを回収しがてら、館長に挨拶をしてきます」
 未夢:「分かりました」
 ゆかり:「はい、頑張ります!」
 Lily:「ヘタなテレビの仕事よりも、こっちの方がいいかもね」

 そんな話をしながら、西日が眩しい中を科学館に到着する。
 日曜日なので、もともと集客しやすい日であったようだ。
 そして、毎週月曜日が定休日である為に、西山館長は今日のアルエットの回収をやめてほしいと申し入れて来たのだろう。
 車を業務用駐車場に止め、そこから通用口に入る。

 井辺:「失礼します。私、東京の敷島エージェンシーから参りました井辺と申します。本日、西山館長に来週のイベントについて御挨拶させて頂きたいと……」
 警備員:「あ、ハイハイ。敷島エージェンシーさんですね。ちょっとお待ちください」

 警備員は受付で井辺の姿を確認すると、室内の内線電話で西山館長を呼んだ。
 その間、廊下の向こうでは、セキュリティロボットがこっちをジーッと見ている。
 目の部分に赤いランプが点いている。
 これが初音ミクや巡音ルカなどの売れっ子であれば、任務を放棄して握手をねだりにやってくるところだが、MEGAbyteはまだそこまで人気が出ていないせいか、セキュリティロボット達も無関心である。
 そこから西山館長がやってくる。

 西山:「おー、井辺さん、来てくれましたか」
 井辺:「お久しぶりです。アルエットさんの回収の前に、来週のチャリティーイベントにMEGAbyteを参加させて頂けるということで、御挨拶に参りました」
 西山:「敷島エージェンシーさんのボーカロイド達は定評がありますからね、是非ともよろしくお願いしますよ」
 井辺:「ありがとうございます。精一杯盛り上げさせて頂きますので、よろしくお願い致します」

 井辺が頭を深々と下げると、MEGAbyte達もそれに倣って頭を下げた。

[同日16:30.天候:曇 同館内1F]

 萌:「井辺さん!会いたかったですよー!」
 井辺:「おっと!……まだ開館時間中なんですから、ちゃんと展示ブースにいないとダメですよ」

 井辺の姿を見つけた萌は、高速で井辺の胸の中に飛び込んできた。
 井辺とは、KR団の秘密研究所から一緒に脱出した戦友同士でもある。
 その為か、人間の中では1番井辺に懐いている。

 Lily:「今日はピアノなのね。エミリーやシンディと違って、色んな楽器ができるんだね」
 ゆかり:「素晴らしいです」
 未夢:「何だか一緒に歌いたくなってきたわー」
 Lily:「いや、あのピアノ曲、歌詞無いから」

 井辺が展示室ホールにて萌と会っている間、MEGAbyteの3人はアルエットがイベントを行っている場所にいた。
 前回はハープを弾いていたというアルエットだったが、今はエミリーと同様にピアノを弾いている。
 エミリーの故障はアルエットも知っているのだろう。
 エミリーのテーマであるピアノ曲を弾いていた。
 エミリーの放つ識別信号を曲の旋律に変換したもの。
 それが終わると、アルエットは来客にお辞儀をした。

 ゆかり:「何だかアルちゃん、元気が無さそうです」
 Lily:「そりゃまあ、1号機が故障ってなったら、テンションも下がるよね」
 未夢:「心配よねぇ……」

 そんなアルエットがバックヤードに入ると、井辺が話し掛けた。

 井辺:「アルエットさん」
 アルエット:「井辺……プロデューサー。お久しぶりです」

 アルエットは井辺を見てお辞儀をした。
 来たのが井辺だったことで、ガッカリしたようなお辞儀であった。

 井辺:「どうか、しましたか?あまり、元気が無いようですが……。どこか、体の具合でも……」
 アルエット:「いえ……。エミリーお姉ちゃんが故障したって聞いて、心配で……」
 井辺:「確かに不具合が起きてしまいましたが、平賀先生が鋭意修理を行っています。ちょっとした不具合程度でしたら、平賀先生がすぐに直します」
 アルエット:「……用向きはそれだけ?」
 井辺:「いえ。あなたには、これからここを出て、その平賀先生の護衛をして頂きます。エミリーさんが修理中の間、向こうのセキュリティが手すきでして……」
 アルエット:「それって……?」
 井辺:「すぐに出発の準備をしてください。大宮駅で社長達と合流します」
 アルエット:「敷島社長さんと……ってことは、シンディお姉ちゃんと一緒ってこと?」
 井辺:「はい。あいにくと社長は多忙ですので、あなたを仙台まで送った後、また明日には東京に戻らないといけないのですが……」

 それでもシンディと一緒に行動できることを知ったアルエットは、それまでのローテンションから、パアッと顔を明るくしたのだった。
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“Gynoid Multitype Cindy” 「研究棟からの脱出」

2016-09-01 15:26:36 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月28日03:30.天候:晴 東北工科大学・研究棟 平賀太一]

 平賀は棟内の非常事態を通報する為、警備室に向かった。
 この時間は詰めている警備員も仮眠中であると思われたが、

 平賀:(おおっ!電気が点いている!)

 警備室の受付の窓から、室内の明かりが漏れている。

 平賀:「すいません!すいません!平賀です!非常事態です!ここを開けてください!」

 平賀はドアをノックした。
 だが、中からは全く応答が無い。
 もう巡回に行っているのだろうか。
 それとも……。

 平賀:「参ったなぁ……」

 平賀は警備室のドアノブに手を掛けた。
 すると……。

 ガチャ、ギィィィィ……。

 平賀:(開いた!?)

 ドアには鍵が掛かっていなかった。
 ということは……?

 平賀:「……?」

 中に入ると、警備員が入口を背にして座っていた。
 一見すると、監視カメラのモニタを監視しているようにも見える。

 1:警備員に駆け寄る。
 2:改めて様子を伺う。

 平賀:(何か、おかしいぞ)

 警備室内に隠れられそうな場所は無い。

 平賀:「すいません、警備員さん?」

 平賀が声を掛けるが、警備員の反応は無い。
 平賀は警備員に近寄り、後ろから肩を叩いた。

 平賀:「あの……」

 ポロッ……ドンッ!(←警備員の首が落ち、床に落ちた)

 平賀:「わあああっ!?」

 既に警備員は殺されていた。
 平賀は危うく腰を抜かしそうになった。
 いや、普通なら腰を抜かすところだ。
 それを堪えることができたのは、やはり平賀も“東京決戦”などの死線を潜り抜けたことがあったからか。

 平賀:「くそっ!」

 平賀は警備室内の固定電話を取った。
 それで110番通報しようとしたが、

 平賀:「!?」

 全く発信音らしきものが聞こえて来ない。
 電話線は一応繋がっているみたいだが……。
 よく見ると、巡回用に使っていたと思われるガラケーも壊されていた。
 あの電ノコ野郎は、完全に外界との連絡手段を断ったのである。
 平賀は連絡を取るのを諦め、すぐ警備室の前にあるエントランスから外に出ようとした。

 平賀:「な、なに!?」

 確かに夜間や休日は、外から入るにはカードキーが無いと入れないようになっている。
 だが、中から外に出るにはフリーでドアが開くはずだ。
 何も無ければ、いつもの通り、ドアが開いたのだろう。
 しかし、どういうわけだが、24時間閉じるはずのないシャッターが下ろされていたのである。
 それは電動シャッターで、しかもスイッチボックスは……。

 平賀:「く……!あいつ、本気だな……!」

 スイッチボックスは壊されていた。
 そして、再び接近してくる電動ノコギリの音。

 電ノコ:「…………」

 電ノコ野郎は足を引きずるようにしてやってきた。
 どうも、足の形と体の形のバランスが合わない。

 平賀:「やはりお前は、ジャニスかルディのどっちかか!」

 足の形が悪いのは、彼らが急な間に合わせで作ったものだからだろう。
 その為、足を引きずるように移動しなければならず、素早く移動することはできないものと思われる。
 平賀はすぐ近くにあった消火器を拾い上げた。
 電ノコ野郎も、右手に装着した電ノコを振り上げる。

 平賀:「そりゃっ!」

 平賀は消火器を投げつけた。
 電ノコ野郎はそれを電ノコで切りつける。
 すぐに爆発して、消火剤の粉が飛び散った。

 平賀:「今だ!」
 電ノコ:「……!?……!!」

 消火剤の粉を浴びた電ノコは一瞬、視界が無くなった。
 その隙に平賀は電ノコ野郎の傍を通り過ぎて行った。

 平賀:「非常口だ!非常口から出るぞ!」

 反対側の非常口に急いで走って行く平賀。
 そこならシャッターも無いから、内側から鍵を開けて出られるはずだ。

 平賀:「あ、あいつめ……!」

 非常口の鉄扉を開けることはできなかった。
 何故なら、ドアノブが壊されていたからである。
 電ノコでスッパリと切り落とされていた。
 ご丁寧にも、内鍵まで接着剤を塗りたくられているという綿密さ。

 平賀:「ま、まずい……!エミリーは動けないし……!どうする……!?こういう時、敷島さんならどうする……!?」

 平賀は3階の仮眠室に戻った。
 もちろんそこは血の惨劇が起きた場所の1つである。
 そこでスマホを回収しようと考えたが、スマホが壊されていた。
 連絡手段は完全に断たれてしまったのである。
 取りあえず平賀は、ここでサンダルから普通の靴に履き替えた。
 仮眠スタイルから普通の服に着替える間はあった。

 平賀:「ん?」

 その時、ふと平賀が思ったことがあった。
 たまたま、仮眠室の壁を修理した跡が目に入ったのだ。
 日本初のメイドロイド、七海の起動実験の際、七海が暴走して研究棟の壁に穴を開けまくったというエピソードは今となっては懐かしい。
 さすがの七海も、今では命令を誤解・曲解する不具合はほぼ修正されている。
 その七海、実はルイージに惚れられている。
 ルイージは七海にアタックする為、ある方法を取って、他のロボットが立ち入り禁止となっているメイドロイド控え室に侵入しようとしたことがあったのを思い出した。
 その方法とは……。

 平賀:「そうか!その方法を逆手に使えば、脱出は可能だ!」

 平賀は仮眠室を飛び出すと、再び警備室に向かった。
 電ノコ野郎と鉢合わせにならないように気をつけて、首無し死体の警備員が転がっている警備室に入る。
 平賀は警備員の事務机の上を調べた。

 平賀:「あった!」

 それは、『設備不具合報告書』が綴じられているファイル。
 それを開くと……。
 『2階機械室内のダクトの金網が経年劣化により、固定が緩んでいる』
 『1階西側の外気取り入れ口の鉄格子、経年劣化による錆びが進んでいる』
 などとあった。

 平賀:「これだ!」

 そして平賀は、

 平賀:「すいません、ちょっとお借りします」

 首無し死体と化している警備員のズボンのポケットから、カールコードに繋がれた鍵を外した。
 それは警備室内のキーボックスの鍵。
 これを開けて、機械室の鍵を取り出した。

 平賀:「よし、これで……」

 平賀は2階の機械室に向かった。
 警備室から持ち出した鍵で、機械室の鍵を開ける。

 平賀:「あれだ!」

 エアダクトの金網。
 普通はネジで固定されてるところ、養生テープで止められていた。
 『只今、応急処置中』という貼り紙もされている。
 平賀はこの養生テープを剥がし、金網を取り外した。

 平賀:「ルイージは七海に会う為に、外からダクトを通って、メイドロイド控え室に忍び込んだって話だ。まさか、これの逆パターンを実行することになろうとは……」

 尚、機械室の中にはヤスリが置いてあったので、これも持って行くことにした。
 そして、ダクトの中を進む。

 平賀:「確か、方向的にこっちだ……」

 途中で分岐している所がある。
 方向を間違えないようにしないといけない。
 と、下から電ノコの音が聞こえた。
 所々にある穴から下を覗いてみると、電ノコ野郎が平賀を探して1階廊下を徘徊していた。

 平賀:(危ない危ない)

 平賀は腹這いになって、ダクトの中を進んだ。

 平賀:「あとはここを……」

 ダクトの出口の鉄格子。
 確かに錆びている。
 平賀は機械室から持ち出したヤスリを手に、その鉄格子を外した。

 平賀:「よっし!」

 こうして平賀は、研究棟からの脱出に成功した。
 そして、すぐ近くの駐車場に止めている自分の車に急いで乗り込むと、急いでそこから離れたのである。

 平賀:(まさか、ロイド達の昔のことが大きなヒントになってくれるとはな……)
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