[8月28日09:00.天候:曇 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー 敷島孝夫&3号機のエミリー]
敷島:「な、何ですって!?平賀先生が襲われた!?」
敷島は社長室で、絶叫にも近い声を上げていた。
手には私用のスマホを握っている。
平賀:「参りましたよ。幸い、うちの七海とルイージのやり取りのおかげで助かりましたけどね」
敷島:「エミリーは……って、こんな時に故障中か!」
平賀:「運が悪いことです。でもまあ、助かったことですし、警察の事情聴取が終わったら、またエミリーの修理に当たります」
敷島:「すぐ、そちらに行きますよ。シンディに護衛してもらいます」
敷島は傍らに立つシンディを見て言った。
平賀:「お気持ちはありがたいのですが、それだと逆に敷島さんの方が手薄になりませんか?奴等がそれを見逃すとは思えませんが……」
敷島:「大丈夫ですよ。こう見えても私は、KR団から『不死身の敷島』と呼ばれた男ですから」
平賀:「……いや、やっぱりお受けできません」
敷島:「そんな、遠慮なさらず……」
平賀:「いえいえ。それで敷島さんに何かあったら、自分が一生後悔します。自分の身は自分で守りますよ」
敷島:「困りましたなぁ……」
すると、シンディがとんとんと敷島の肩を叩いた。
敷島:「何だ?」
シンディ:「マルチタイプは他にもいるじゃない」
シンディは北の方を指さした。
敷島:「アルエットに?しかしあいつ、科学館さんに長期レンタル中だし……」
シンディ:「科学館さんに頼んで、姉さんの修理が終わるまでの間だけでも戻してもらうのよ」
敷島:「うーむ……。あー、もしもし、平賀先生」
平賀:「ええ、聞いてます。アルエットもなかなかどうして戦闘力がありますから、それなら安心ですね」
敷島:「分かりました。科学館さんと交渉してみます」
敷島はそう言って電話を切った。
敷島:「じゃあ、科学館さんに連絡だ。西山館長、首を縦に振ってくれるかな?」
シンディ:「ボーカロイドのイベント、タダで行う約束してあげたら喜んで貸してくれると思うわ」
敷島:「……タダでやるのはMEGAbyteだぞ?」
シンディ:「いいから早く電話しなって」
MEGAbyteのイベントをタダで行う条件を出したら、喜んでアルエットの戻しを快諾してくれた。
今度はプロデューサーの井辺に連絡した。
井辺はMEGAbyteのプロデューサーだからである。
敷島:「あー、井辺君。確か今度の日曜日、MEGAbyteのスケジュールは空いてただろう?科学館さんのチャリティーイベントへの参加を決めたから」
井辺:「さ、さすが社長です。一体、どうやって?」
敷島:「取り引きだよ、取り引き。そうだ。キミはそのMEGAbyteのプロデューサーだし、妖精ロイドの萌もキミに会いたがってる。MEGAbyteを連れて、科学館さんに行ってもらえないか?」
井辺:「分かりました」
科学館の申し入れで、さすがにすぐ連れて行かれるのは急過ぎる為、今日の閉館後にしてほしいとのことだった。
[同日16:00.天候:曇 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館 井辺翔太、MEGAbyteの3人、西山潔館長、マルチタイプ8号機のアルエット、妖精型ロイドの萌]
井辺はMEGAbyteの3人(未夢、Lily、結月ゆかり)を車に乗せて、一路さいたま市郊外へ向かった。
事務所の地下駐車場を出ると、首都高速の豊洲出入口に向かう。
そこから首都高速に乗って、さいたま市へ向かうというルートだ。
井辺:「チャリティーイベントではありますが、DCJの役員さんも視察に来られる大きなイベントです。今日はアルエットさんを回収しがてら、館長に挨拶をしてきます」
未夢:「分かりました」
ゆかり:「はい、頑張ります!」
Lily:「ヘタなテレビの仕事よりも、こっちの方がいいかもね」
そんな話をしながら、西日が眩しい中を科学館に到着する。
日曜日なので、もともと集客しやすい日であったようだ。
そして、毎週月曜日が定休日である為に、西山館長は今日のアルエットの回収をやめてほしいと申し入れて来たのだろう。
車を業務用駐車場に止め、そこから通用口に入る。
井辺:「失礼します。私、東京の敷島エージェンシーから参りました井辺と申します。本日、西山館長に来週のイベントについて御挨拶させて頂きたいと……」
警備員:「あ、ハイハイ。敷島エージェンシーさんですね。ちょっとお待ちください」
警備員は受付で井辺の姿を確認すると、室内の内線電話で西山館長を呼んだ。
その間、廊下の向こうでは、セキュリティロボットがこっちをジーッと見ている。
目の部分に赤いランプが点いている。
これが初音ミクや巡音ルカなどの売れっ子であれば、任務を放棄して握手をねだりにやってくるところだが、MEGAbyteはまだそこまで人気が出ていないせいか、セキュリティロボット達も無関心である。
そこから西山館長がやってくる。
西山:「おー、井辺さん、来てくれましたか」
井辺:「お久しぶりです。アルエットさんの回収の前に、来週のチャリティーイベントにMEGAbyteを参加させて頂けるということで、御挨拶に参りました」
西山:「敷島エージェンシーさんのボーカロイド達は定評がありますからね、是非ともよろしくお願いしますよ」
井辺:「ありがとうございます。精一杯盛り上げさせて頂きますので、よろしくお願い致します」
井辺が頭を深々と下げると、MEGAbyte達もそれに倣って頭を下げた。
[同日16:30.天候:曇 同館内1F]
萌:「井辺さん!会いたかったですよー!」
井辺:「おっと!……まだ開館時間中なんですから、ちゃんと展示ブースにいないとダメですよ」
井辺の姿を見つけた萌は、高速で井辺の胸の中に飛び込んできた。
井辺とは、KR団の秘密研究所から一緒に脱出した戦友同士でもある。
その為か、人間の中では1番井辺に懐いている。
Lily:「今日はピアノなのね。エミリーやシンディと違って、色んな楽器ができるんだね」
ゆかり:「素晴らしいです」
未夢:「何だか一緒に歌いたくなってきたわー」
Lily:「いや、あのピアノ曲、歌詞無いから」
井辺が展示室ホールにて萌と会っている間、MEGAbyteの3人はアルエットがイベントを行っている場所にいた。
前回はハープを弾いていたというアルエットだったが、今はエミリーと同様にピアノを弾いている。
エミリーの故障はアルエットも知っているのだろう。
エミリーのテーマであるピアノ曲を弾いていた。
エミリーの放つ識別信号を曲の旋律に変換したもの。
それが終わると、アルエットは来客にお辞儀をした。
ゆかり:「何だかアルちゃん、元気が無さそうです」
Lily:「そりゃまあ、1号機が故障ってなったら、テンションも下がるよね」
未夢:「心配よねぇ……」
そんなアルエットがバックヤードに入ると、井辺が話し掛けた。
井辺:「アルエットさん」
アルエット:「井辺……プロデューサー。お久しぶりです」
アルエットは井辺を見てお辞儀をした。
来たのが井辺だったことで、ガッカリしたようなお辞儀であった。
井辺:「どうか、しましたか?あまり、元気が無いようですが……。どこか、体の具合でも……」
アルエット:「いえ……。エミリーお姉ちゃんが故障したって聞いて、心配で……」
井辺:「確かに不具合が起きてしまいましたが、平賀先生が鋭意修理を行っています。ちょっとした不具合程度でしたら、平賀先生がすぐに直します」
アルエット:「……用向きはそれだけ?」
井辺:「いえ。あなたには、これからここを出て、その平賀先生の護衛をして頂きます。エミリーさんが修理中の間、向こうのセキュリティが手すきでして……」
アルエット:「それって……?」
井辺:「すぐに出発の準備をしてください。大宮駅で社長達と合流します」
アルエット:「敷島社長さんと……ってことは、シンディお姉ちゃんと一緒ってこと?」
井辺:「はい。あいにくと社長は多忙ですので、あなたを仙台まで送った後、また明日には東京に戻らないといけないのですが……」
それでもシンディと一緒に行動できることを知ったアルエットは、それまでのローテンションから、パアッと顔を明るくしたのだった。
敷島:「な、何ですって!?平賀先生が襲われた!?」
敷島は社長室で、絶叫にも近い声を上げていた。
手には私用のスマホを握っている。
平賀:「参りましたよ。幸い、うちの七海とルイージのやり取りのおかげで助かりましたけどね」
敷島:「エミリーは……って、こんな時に故障中か!」
平賀:「運が悪いことです。でもまあ、助かったことですし、警察の事情聴取が終わったら、またエミリーの修理に当たります」
敷島:「すぐ、そちらに行きますよ。シンディに護衛してもらいます」
敷島は傍らに立つシンディを見て言った。
平賀:「お気持ちはありがたいのですが、それだと逆に敷島さんの方が手薄になりませんか?奴等がそれを見逃すとは思えませんが……」
敷島:「大丈夫ですよ。こう見えても私は、KR団から『不死身の敷島』と呼ばれた男ですから」
平賀:「……いや、やっぱりお受けできません」
敷島:「そんな、遠慮なさらず……」
平賀:「いえいえ。それで敷島さんに何かあったら、自分が一生後悔します。自分の身は自分で守りますよ」
敷島:「困りましたなぁ……」
すると、シンディがとんとんと敷島の肩を叩いた。
敷島:「何だ?」
シンディ:「マルチタイプは他にもいるじゃない」
シンディは北の方を指さした。
敷島:「アルエットに?しかしあいつ、科学館さんに長期レンタル中だし……」
シンディ:「科学館さんに頼んで、姉さんの修理が終わるまでの間だけでも戻してもらうのよ」
敷島:「うーむ……。あー、もしもし、平賀先生」
平賀:「ええ、聞いてます。アルエットもなかなかどうして戦闘力がありますから、それなら安心ですね」
敷島:「分かりました。科学館さんと交渉してみます」
敷島はそう言って電話を切った。
敷島:「じゃあ、科学館さんに連絡だ。西山館長、首を縦に振ってくれるかな?」
シンディ:「ボーカロイドのイベント、タダで行う約束してあげたら喜んで貸してくれると思うわ」
敷島:「……タダでやるのはMEGAbyteだぞ?」
シンディ:「いいから早く電話しなって」
MEGAbyteのイベントをタダで行う条件を出したら、喜んでアルエットの戻しを快諾してくれた。
今度はプロデューサーの井辺に連絡した。
井辺はMEGAbyteのプロデューサーだからである。
敷島:「あー、井辺君。確か今度の日曜日、MEGAbyteのスケジュールは空いてただろう?科学館さんのチャリティーイベントへの参加を決めたから」
井辺:「さ、さすが社長です。一体、どうやって?」
敷島:「取り引きだよ、取り引き。そうだ。キミはそのMEGAbyteのプロデューサーだし、妖精ロイドの萌もキミに会いたがってる。MEGAbyteを連れて、科学館さんに行ってもらえないか?」
井辺:「分かりました」
科学館の申し入れで、さすがにすぐ連れて行かれるのは急過ぎる為、今日の閉館後にしてほしいとのことだった。
[同日16:00.天候:曇 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館 井辺翔太、MEGAbyteの3人、西山潔館長、マルチタイプ8号機のアルエット、妖精型ロイドの萌]
井辺はMEGAbyteの3人(未夢、Lily、結月ゆかり)を車に乗せて、一路さいたま市郊外へ向かった。
事務所の地下駐車場を出ると、首都高速の豊洲出入口に向かう。
そこから首都高速に乗って、さいたま市へ向かうというルートだ。
井辺:「チャリティーイベントではありますが、DCJの役員さんも視察に来られる大きなイベントです。今日はアルエットさんを回収しがてら、館長に挨拶をしてきます」
未夢:「分かりました」
ゆかり:「はい、頑張ります!」
Lily:「ヘタなテレビの仕事よりも、こっちの方がいいかもね」
そんな話をしながら、西日が眩しい中を科学館に到着する。
日曜日なので、もともと集客しやすい日であったようだ。
そして、毎週月曜日が定休日である為に、西山館長は今日のアルエットの回収をやめてほしいと申し入れて来たのだろう。
車を業務用駐車場に止め、そこから通用口に入る。
井辺:「失礼します。私、東京の敷島エージェンシーから参りました井辺と申します。本日、西山館長に来週のイベントについて御挨拶させて頂きたいと……」
警備員:「あ、ハイハイ。敷島エージェンシーさんですね。ちょっとお待ちください」
警備員は受付で井辺の姿を確認すると、室内の内線電話で西山館長を呼んだ。
その間、廊下の向こうでは、セキュリティロボットがこっちをジーッと見ている。
目の部分に赤いランプが点いている。
これが初音ミクや巡音ルカなどの売れっ子であれば、任務を放棄して握手をねだりにやってくるところだが、MEGAbyteはまだそこまで人気が出ていないせいか、セキュリティロボット達も無関心である。
そこから西山館長がやってくる。
西山:「おー、井辺さん、来てくれましたか」
井辺:「お久しぶりです。アルエットさんの回収の前に、来週のチャリティーイベントにMEGAbyteを参加させて頂けるということで、御挨拶に参りました」
西山:「敷島エージェンシーさんのボーカロイド達は定評がありますからね、是非ともよろしくお願いしますよ」
井辺:「ありがとうございます。精一杯盛り上げさせて頂きますので、よろしくお願い致します」
井辺が頭を深々と下げると、MEGAbyte達もそれに倣って頭を下げた。
[同日16:30.天候:曇 同館内1F]
萌:「井辺さん!会いたかったですよー!」
井辺:「おっと!……まだ開館時間中なんですから、ちゃんと展示ブースにいないとダメですよ」
井辺の姿を見つけた萌は、高速で井辺の胸の中に飛び込んできた。
井辺とは、KR団の秘密研究所から一緒に脱出した戦友同士でもある。
その為か、人間の中では1番井辺に懐いている。
Lily:「今日はピアノなのね。エミリーやシンディと違って、色んな楽器ができるんだね」
ゆかり:「素晴らしいです」
未夢:「何だか一緒に歌いたくなってきたわー」
Lily:「いや、あのピアノ曲、歌詞無いから」
井辺が展示室ホールにて萌と会っている間、MEGAbyteの3人はアルエットがイベントを行っている場所にいた。
前回はハープを弾いていたというアルエットだったが、今はエミリーと同様にピアノを弾いている。
エミリーの故障はアルエットも知っているのだろう。
エミリーのテーマであるピアノ曲を弾いていた。
エミリーの放つ識別信号を曲の旋律に変換したもの。
それが終わると、アルエットは来客にお辞儀をした。
ゆかり:「何だかアルちゃん、元気が無さそうです」
Lily:「そりゃまあ、1号機が故障ってなったら、テンションも下がるよね」
未夢:「心配よねぇ……」
そんなアルエットがバックヤードに入ると、井辺が話し掛けた。
井辺:「アルエットさん」
アルエット:「井辺……プロデューサー。お久しぶりです」
アルエットは井辺を見てお辞儀をした。
来たのが井辺だったことで、ガッカリしたようなお辞儀であった。
井辺:「どうか、しましたか?あまり、元気が無いようですが……。どこか、体の具合でも……」
アルエット:「いえ……。エミリーお姉ちゃんが故障したって聞いて、心配で……」
井辺:「確かに不具合が起きてしまいましたが、平賀先生が鋭意修理を行っています。ちょっとした不具合程度でしたら、平賀先生がすぐに直します」
アルエット:「……用向きはそれだけ?」
井辺:「いえ。あなたには、これからここを出て、その平賀先生の護衛をして頂きます。エミリーさんが修理中の間、向こうのセキュリティが手すきでして……」
アルエット:「それって……?」
井辺:「すぐに出発の準備をしてください。大宮駅で社長達と合流します」
アルエット:「敷島社長さんと……ってことは、シンディお姉ちゃんと一緒ってこと?」
井辺:「はい。あいにくと社長は多忙ですので、あなたを仙台まで送った後、また明日には東京に戻らないといけないのですが……」
それでもシンディと一緒に行動できることを知ったアルエットは、それまでのローテンションから、パアッと顔を明るくしたのだった。