報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスターⅡ” 「AIは人類蹂躙の夢を見るか?」 2

2019-04-24 19:16:23 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月21日11:30.天候:晴 静岡県富士宮市上条 日蓮正宗大石寺]

 対象者にこの世で会えぬと分かった以上、急いで帰京する必要があった。
 取りあえず敷島とエミリーは大石寺境内にあるタクシー乗り場へ向かい、そこからタクシーに乗ることにした。
 改修工事中の三門の南には国道が通っており、その更に南側にタクシー乗り場はある。
 幸いそこに空車のタクシーが止まっていて、敷島達はそれに乗り込んだ。

 エミリー:「新富士駅までお願いします」
 運転手:「あ、はい。新富士駅ですね」

 タクシーがバス停と一緒になっているロータリーのような所から公道へ出ようとした時だった。
 『特急 大石寺』と書かれた路線バスが入線して来たのである。

 運転手:「だいぶ遅れたな……」

 運転手はそのバスを横目で見てポツリと呟いた。
 だがその時、敷島は電話中だった。

 敷島:「……そうなんですよ。行ってみたら、とんでもないことになってましてね。取りあえず、現場から離れることにしましたよ」
 平賀:「そうですか。それは残念です」
 敷島:「あのKR団最後の女性科学者の親族ならガチだったんですけどねぇ……」
 平賀:「ガチだったからこそ狙われたんでしょうね。1人だけピンポイントで狙ったのでは、例え死んだにしても、我々にはそれが誰なのかすぐに分かりますから。無関係の人間も複数集まってて、対象者が特定できないうちに全員殺せば、少なくともエミリーの生体反応は使えない。非常に残酷な話ですが、それがテロというものでしょう」
 敷島:「KR団も潰れて久しいのに、今度は一体何なんですかね?」
 平賀:「犯行声明も出ていないのでは、何とも言えませんね。警察には?」
 敷島:「地元の警察が出動していましたし、後、私の方で鷲田警視に連絡しておきました」
 平賀:「気を付けてくださいね。敷島さんも、本来は狙われる側の人間なんですから」
 敷島:「私にはエミリーがいますからね。ややもすれば、シンディも使えますし。平賀先生こそ、新たにマルチタイプを造ってみたらどうでしょう?」
 平賀:「簡単に言わないでくださいよ。製造費用だけで50億円はするんですから」
 敷島:「DCJさんの希望小売価格でしょ、それは?」
 平賀:「自分には七海がいるから大丈夫ですよ」
 敷島:「メイドロイドを強化した方が安上がりってわけですか。昔、何かそんな話をしたような気がしますね」
 平賀:「ありましたねぇ。確か、南里先生が御存命だった頃の話ですよ」
 敷島:「ああ、それくらい昔でしたか。いやいや……」
 平賀:「敷島さんは、東京に戻られるんですか?」
 敷島:「今日の所はそうした方がいいでしょうね。火事が鎮火した後は消防や警察の現場検証が入るでしょうから。鷲田警視からも、『現場を荒らすな』と言われてますしね」
 平賀:「なるほど。とにかく、自分も気をつけますから、敷島さんも気をつけて」
 敷島:「分かりました」

 敷島は電話を切った。

[同日12:00.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅]

 タクシーが新富士駅前に到着する。

 エミリー:「タクシーチケットで払います」
 運転手:「はい」

 エミリーがボールペンで金額を書き込んだ。
 手の動きが人間と比べて機械的な所は、やはりロイドと言える。

 運転手:「ありがとうございました」
 敷島:「どうも」

 敷島とエミリーはタクシーを降りて駅構内に入る。

 エミリー:「今度の列車ですが、凡そ10分で発車します」
 敷島:「マジか!まだ昼飯食ってないんだよなぁ……」
 エミリー:「駅弁にしては如何でしょう?」
 敷島:「朝も駅弁だったんだがな。まあいい。俺は駅弁買ってるから、エミリーはキップ買っといてくれ。自由席でいいから」
 エミリー:「かしこまりました」

 敷島は駅弁とお茶を買い、エミリーは自動券売機で東京までのキップを2人分購入した。
 この場合、エミリーは機械の体なので、本来は乗車できないことになる。
 Pepperが新幹線に乗車できるかどうかで揉めたことがあるそうだ(ソース不明)。
 そこは人間のフリして乗るということだし、エミリー達ならそれが可能だということだ。
 但し、検査が厳しい航空便では完全にアウトである。
 その為、アメリカに行く時は完全に『荷物』扱いで乗せることになる。

 敷島:「よし、行くぞ」
 エミリー:「はい」

〔新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、12時9分発、“こだま”644号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車と13号車から15号車です。……〕

 遠くの方からN700系車両がやって来て、副線ホームに入って来る。
 空いている後ろの車両に歩いて行くうち、進入した列車が巻き起こした風に、エミリーの赤いショートボブの髪とスリットが深く入った黒いスカートが靡いた。
 艶めかしい足がスリットの隙間から覗くが、この足でいとも簡単に非常口の鉄扉を蹴破ることができるのである。

〔新富士、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございます。……〕

 名古屋始発の“こだま”号ということもあり、編成の端の車両は空いていた。
 そこに乗り込んで、2人席に悠々と座る。

 敷島:「何の収穫も無く戻ることになるとは……。またアリスに嫌味言われることになるな」
 エミリー:「お疲れさまです」

 エミリーはそう言うしか無かった。
 そうしているうちに、後続列車が轟音を立てて通過していく。
 どうやらダイヤの方は何とか回復できたようだ。

 発車の時間になると、ホームから発車ベルが微かに聞こえて来る。
 東京駅では発車メロディだったが、新富士駅ではただのベル。

〔1番線、“こだま”644号、東京行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕

 敷島が弁当を食べている間に、列車はスーッと走り出した。

 敷島:「俺と同じオーラを放つ人間を見つけたってお前達が騒いだ時にはびっくりした。もしかしたら、俺と同じアンドロイドマスターになれる人間だったかもしれないのに残念だ」

 マルチタイプに命令できる人間として、オーナーとユーザーを登録している。
 しかし異様にAIが発達したマルチタイプには、それらの『言う事』には従っても『心服追従』はしない。
 ましてや登録外の人間の『お願い』は聞いても、『命令』は聞かないことも多々ある。
 エミリーはあくまで人間に対しては礼節や敬意を重んじているというだけであって、けして『心服』しているわけではない。
 それが『心服』した相手が敷島唯1人というだけである。
 そして、それはシンディも同じであるという。
 これではいつ反旗を翻されるか分からないので、他にマスターたる人間が必要という声は出ている。
 そしてその候補者は人間ではなく、彼女らが選ぶという形になってしまっているのだが、エミリーが反応した人間がいた。
 それを追って静岡まで来た2人であったが、結果は御覧の通りの有り様というわけである。
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“アンドロイドマスターⅡ” 「新たなテロ」

2019-04-24 13:34:14 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月21日10:40.天候:曇 静岡県富士宮市上条]

 国道139号線を走っていたタクシーは、『←大石寺』と書かれた灯篭風の道標に従って左折した。
 タクシーのナビにもエミリーのナビにも、国道から外れたと出ている。

 敷島:「前にも来たけど、随分と大きなお寺だ」
 運転手:「これが大石寺ですよ」
 敷島:「へえ……」

 

 敷島:「富士山もきれいに見えるし、こりゃいい絵葉書ができそうだ」

 敷島はタクシーの窓から富士山を眺めながらそう呟いた。
 再び国道を左折する為、交差点で信号待ちを行う。
 今度は国道469号線である。

 敷島:「あのでっかいプレハブは何だ?」
 運転手:「三門ですね。今、改修工事中なんですよ」
 敷島:「ほお……。完了したら、またいい絵葉書ができそうだ」

 タクシーが三門を通過した時だった。

 運転手:「うん?」

 背後からパトカーのサイレンが近づいて来る。

〔「緊急車両通過します!緊急車両通過します!道を開けてください!」〕

 運転手はハザードランプを点けて、タクシーを路肩へ寄せた。
 パトカーが通過すると同時に、今度は消防車が何台も通過して行く。

 敷島:「何かあったのかな?」
 運転手:「火事……ですかね。大石寺境内には文化財もあるので、少し心配です」

 だが、パトカーだの消防車だのが向かったのは国道の先だった。
 即ち、これから敷島達が向かう方向でもある。
 大石寺前はあくまでも通過点だ。

 敷島:「えーと……吉塚博士の家は、この先の住宅街だったな。エミリー、覚えてるか?」
 エミリー:「お任せください。こちらの道を入って……」
 敷島:「いや、ちょっと待て!」

 まず、国道がパトカーや消防車などで1車線塞がれていた。
 元々片側1車線で、オレンジ色のセンターラインが引かれている国道である。
 工事現場と違ってガードマンが交通誘導できるものではないから、警察官が交通整理に当たっていた。

 敷島:「おいおい、道が塞がれてるぞ!」

 吉塚家へ入る為の路地がそもそも緊急車両で塞がれていた。
 ということは、火事はその先……。

 エミリー:「吉塚家が現場となっている確率、98.89%です」
 敷島:「それもうガチじゃねーかよ!すいません、ここで降ります!」
 運転手:「あ、はい。すいませんが、交通規制の先で……」

 運転手は片側交互通行の先で車を止めた。

 運転手:「えー、長距離割引入りまして……」

 料金が5000円を超えると、確か1割引きになる。

 エミリー:「タクシーチケットで払います」
 運転手:「それでは……」

 エミリーが料金の精算をしている間、敷島は運転席後ろのドアを手動で開けて現場に向かった。

 敷島:「すいません!今、どこの御宅が火事なんですか!?」
 警察官A:「この先の住宅ですが……」

 敷島は交通整理をしている警察官に聞いたが、この警察官では分からないらしい。

 敷島:「失礼!」

 敷島は歩道を路地の入口まで向かった。

 警察官B:「危ないから下がって!」

 路地の入口では警察官が規制線を張っていた。
 しかしそこからもう煙や消防の消火活動が丸見えになっていた。

 敷島:「何か……場所的にガチっぽい……」

 敷島は野次馬で来ている近所のオバちゃんらしき人物に話し掛けた。

 敷島:「すいません。あれって、吉塚さんちで間違いないですか?」
 オバちゃん:「そうですよ。ずっと前から空き家だったんですけどねぇ……」

 それは敷島も知っていた。
 だが、吉塚が製作したと思われるロボット警備犬が襲い掛かって来たのである。
 もちろんそれは鋼鉄姉妹が何とかしたが。

 敷島:「火事になったということは、最近は誰かいたということですか?」
 オバちゃん:「今日は吉塚さんの命日ということで、親戚の人達が集まってましたよ」
 敷島:「やっぱりそうか。で、その親戚の人達は?どこかに避難しましたか?」
 オバちゃん:「どうなんでしょうね。いきなりガス爆発みたいな音がしたので、びっくりして見に来たらもう火事になっていたんですよ」
 敷島:「何ですって!?」
 救急隊員:「はい、すいません!担架通ります!開けてください!通してください!」
 敷島:「何たるちゃあ……」

 現場から救急隊員が毛布にくるまれた吉塚の親戚と思われる者達を搬出していた。
 確か、もう顔も含めて全身を覆っている場合は【お察しください】。

 エミリー:「私も手伝います!」
 敷島:「いや、余計な手出しはしなくていい!」
 エミリー:「でも……!」
 敷島:「要請があった時にでも手伝えばいいさ。ちょっと、連絡してみよう」

 敷島は一旦、現場から離れた。
 そして、スマホを手に取る。

 敷島:「もしもし。鷲田警視ですか?敷島ですけど……」

 敷島は今の経緯を鷲田警視に伝えた。

 鷲田:「何だって!?」
 敷島:「吉塚博士の親族は単なる親族だから、100%被害者でしょうがね。KR団最後の女性科学者の命日で、しかも法事で集まった親族が一気に被害に遭うなんて、どう見てもただの事故には見えんのですが……」
 鷲田:「新たなテロか!」
 敷島:「……かもしれません」
 鷲田:「よし、分かった。通報、感謝する」
 敷島:「エミリーが消火活動と救助活動を手伝いたくて、暴走し掛かってるんですが、協力しちゃっていいですか?」
 鷲田:「現場を荒らすことは控えさせろ!」
 敷島:「ですよね。了解しました」

 敷島は電話を切った。

 敷島:「なあ、エミリー。もしかして、あの搬出されている親族達の中に対象者がいるんじゃないのか?」
 エミリー:「公算は大きいです。ただ……」
 敷島:「ただ?」
 エミリー:「生体反応が無いと認識できません。今までの方々は認識できませんでした。それは即ち……」
 敷島:「死んでいるということか」

 現時点では『心肺停止』とされる。
 実際の死亡診断は医師でないとできないことになっているからだ。

 敷島:「くっそ!ここまで来てこれかよ!」

 敷島は地団太踏んだ。

 エミリー:「帰京して善後策を練るしか無いようです」
 敷島:「そうさせてもらうわ!」

 敷島は憤慨して、取りあえず大石寺の方向に向かって歩くことにした。
 別に大石寺に参詣するのが目的というわけではなく、境内のタクシー乗り場からタクシーに乗る為である。
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“アンドロイドマスターⅡ” 「JR新富士駅」

2019-04-24 10:12:45 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月21日09:07.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は静岡に止まります〕

 TOKIOの“AMBITIOUS JAPAN!”の車内チャイムが流れる。
 始発駅と終着駅ではイントロ部分が流れるが、途中駅ではサビの部分が流れるという。
 スマホを見ていた1号車の男性乗客はそれから目を離すと、そこでやっと富士山を車窓越しに見た。

 男性:(さすが新幹線だと早いな。いつもは高速バスばかりだったから、尚更だ)

 男性は脱いでいた黒い上着を羽織ると、空いていると隣の席に置いていた鞄を手に席を立った。

〔「まもなく新富士、新富士です。お出口は、左側です。ホーム進入の際、列車が大きく揺れることがあります。お立ちのお客様、お気をつけください。新富士駅で“のぞみ”号と“ひかり”号の通過待ちを行います。5分ほど停車致します。発車は9時12分です」〕

 本線からホームのある副線に入る時点で、まだ速度は時速70キロほどある。
 16両編成という長い有効長のホームにスムーズに入線する為には、ポイント通過もスムーズに行わなければならないということだ。

〔新富士、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕

 男性は他の旅客と一緒に列車を降りた。
 “こだま”しか停車しない小規模な駅ではあるが、下車客は意外と多い。
 “こだま”は空いている列車ではあるが、あくまで“のぞみ”や“ひかり”よりも空いているというだけであって、けして東北新幹線のように10両編成で良いようなガラ空きぶりではない。
 東京から離れれば離れるほど空いて来る東北・上越・北陸新幹線と違い、東海道新幹線は新大阪に近づく度に混んでくるのだ。

 男性:「! 何かおかしいぞ」

 男性がそう思ったのは、ホーム上にあるキヨスクの前を通り過ぎた時だった。
 “こだま”を追い越すはずの“のぞみ”が通過して来ないのである。
 男性はこの列車には以前も乗車したことがあって、新富士駅に到着して1分と経たずに“のぞみ”が轟音を立てて通過していく様子に感心した記憶があるからだ。

 男性:(ダイヤでも変わったかな……)

 ところが、そうでもなかった。

〔「お客様にお知らせ致します。先ほど新横浜〜小田原間におきまして、線路内立入りがあったもようです。その為、安全確認を行っております。東海道新幹線全線におきまして、運転を見合わせております。……」〕

 男性:(新幹線の線路入れんのかよw まあ、確か、あそこ、地上区間だったな……)

 男性は自分がギリギリ、ダイヤ通りに到着できた喜びを噛み締め、他の乗客には御愁傷様だと思いながら改札口の外へと向かった。

 男性:(そうだ。今日は日曜だから、大石寺へ行くバスが出てるんだった。あれに乗せてもらおう)

 一瞬、タクシー乗り場に向かい掛けた男性は方向を変えてバスプールの方に向かった。
 そして、バスプール内にあるキップ売り場の窓口に立った。

 男性:「すいませーん、大石寺まで大人1枚」
 係員:「往復ですか?」
 男性:「いえ、片道で。(同じバスに乗るとは限らないからな……)」
 係員:「それでは930円です」
 男性:「はい」

 男性はまるで電車のキップのような片道乗車券を手にした。

 

 男性:(このまま電車に乗れそうだw)

 男性は笑みをこぼしながら、バス停に並んだ。

[同日09:55.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、新富士です。新富士を出ますと、次は静岡に止まります〕

 今度は“いい日旅立ち・西へ”のサビ部分が流れる。
 これは敷島達の乗った車両がJR西日本のものであるからだ。

 敷島:「くっそォ!遅れやがって!」
 エミリー:「25分以上のタイムロスでしたね」
 敷島:「どっかのロボットが入ったんじゃないだろうな?」
 エミリー:「確率はゼロではありません。もしそうでしたら、私が鉄塊にしておきます」
 敷島:「よろしく頼むぞ。もし人間だったら、人間のことは人間に任せてくれ」
 エミリー:「かしこまりました」

 “こだま”639号が副線ホームに進入する。

〔「ご乗車ありがとうございました。新富士、新富士です。列車遅れまして、大変申し訳ございませんでした。これは新横浜〜小田原間で起きました線路内侵入により、安全確認を行ったものです。……」〕

 敷島:「線路内『人』立入りとは言ってないから、ロボットかもな」

 或いは何か物が投げ込まれたか……。

 エミリー:「後で全検索しておきますので」
 敷島:「分かった。それより対象者だ。対象者もこのダイヤ乱れの影響を受けてるといいんだがな……」
 エミリー:「そうですね」

 列車を降りた敷島とエミリーは、急いで改札の外に出た。

 敷島:「出口が2つあるか。どっちだ?」
 エミリー:「富士宮方面は北口です」

 
(現在、北口は『富士山口』という名称に変更されている)

 エミリー:「前回も私達は北口からタクシーに乗りました」
 敷島:「そうか。それじゃ、北口だな」

 敷島達は北口(現在は富士山口)から駅の外に出た。

 敷島:「さて、ここからどう行った?」
 エミリー:「可能性は5つです。1つはここからJR富士駅まで歩き、そこからJR身延線に乗ったルート。1つはJR富士駅までバスに乗り、そこからJR身延線に乗ったルート。1つは富士宮方面に行く路線バスに乗ったルート。1つはタクシー、1つは……大石寺直通のバスに乗ったルートです」
 敷島:「どれも可能性がありそうだが……。吉塚博士の家は、確かお寺の近くだったな」
 エミリー:「はい。正しく大石寺の近くです」
 敷島:「もし対象者が吉塚博士の親族なんだとしたら、あのバスで簡単に行けると知ってるかもしれない」
 エミリー:「それでは……」
 敷島:「タクシーで追い掛けるぞ。もし対象者がバスで向かったのなら、タクシー飛ばせば追い付けるかもしれない」
 エミリー:「(その確率は限りなくゼロに近いですが……)かしこまりました」

 エミリーは否定的な言葉を言うのをやめた。
 昔なら平気で言ってただろうし、その確率とやらを細かく計算して言っていたのだが、多くの人間がそれを望まないことを『学習』したエミリーは空気を読むことも覚えた。
 そして、タクシー乗り場に向かった。
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“アンドロイドマスターⅡ” 「JR東海の正式名称は東海旅客鉄道株式会社だが、鉄の字が違う」

2019-04-23 19:01:30 | アンドロイドマスターシリーズ
[4月21日07:43.天候:晴 JR東京駅・東海道新幹線ホーム]

〔新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく14番線に“こだま”637号、新大阪行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から7号車と、13号車から15号車です。この電車は、全車両禁煙です〕

 先頭車の1号車のドアが来る乗車位置に立つ1人の男性乗客。
 他のホームから発着する“のぞみ”や“ひかり”は混んでいるが、“こだま”は空いている。

〔「14番線、ご注意ください。7時56分発、“こだま”637号、新大阪行きの到着です。安全柵の内側までお下がりください」〕

 N700系と呼ばれる16両編成の列車が軽やかに入線して来る。
 基本的に東海道新幹線ホームは曲がっているが、『第7ホーム』と呼ばれる14番線と15番線はもっと曲がっている。
 これは旧国鉄時代、元々はこのホームを東北新幹線に使うつもりだったからだ。
 下り方向のどん詰まりが上野方面に向いているのは、この為である。
 東海道新幹線の本数が逼迫した為、やむ無く国鉄当局は第7ホームを東海道新幹線に転用し、民営化後もそれが続いている。

〔「14番線、ドアが開きます。乗車口までお進みください」〕

 安全柵のドアが開く際、“乙女の祈り”のメロディが流れる。
 かつてはJR東日本管内で、発車メロディに使われていたこともあった。
 スーツ姿の男性乗客は、空いている自由席の2人席に座った。
 テーブルを出して、コンコースの売店で買った駅弁を広げる。

〔ご案内致します。この電車は、“こだま”号、新大阪行きです。新大阪までの各駅に停車致します〕

 男性はスーツ姿……というより、喪服姿であった。
 そろそろ昼間は暑くなる時期に黒服に黒ネクタイは、さぞかし暑いだろう。
 もっとも、新幹線車内は空調が効いているが。

〔「おはようございます。本日も新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は7時56分発、“こだま”637号、新大阪行きです。終点、新大阪まで各駅に停車致します。名古屋、京都、新大阪へお急ぎのお客様は、18番線から発車致します“のぞみ”207号をご利用ください。静岡、浜松へお急ぎのお客様は、19番線から発車致します“ひかり”463号、岡山行きをご利用ください。……」〕

 明らかにバンバン他の後続列車に抜かれる案内など馬耳東風に、男性乗客は朝食の駅弁を一心不乱に食べていた。
 で、発車時刻前に食べ終えてしまう。

 男性:「ふう……」

 見た目は20代くらい。
 発車時刻前には食べ終えてしまう。
 この時点でも、まだ1号車は窓側席ですら埋まっていない。

 男性:(食後にコーヒーでも……)

〔「……尚、“こだま”号では車内販売の営業はございません。……」〕

 男性:(マジか!?)

 男性は急いでホームに降りようとした。

〔「……お買い物等でお席を離れられる際は、現金・貴重品などは身につけてお持ちください。……」〕

 男性:(おおっと!)

 男性は急いで貴重品の入っていると思われる上着だけを持って、ホームに1度降りた。

[同日07:56.天候:晴 JR東海道新幹線637A列車1号車]

〔「レピーター点灯です」〕

 かつては“のぞみ”の車内チャイムで使用されていたメロディがホームに響き渡る。

〔14番線、“こだま”637号、新大阪行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「乗降よーし!ITVよーし!14番線、ドアが閉まります。ご注意ください」〕

 ブー!という客終合図のブザーの直後に、再び“乙女の祈り”が流れる。
 こうして、“こだま”637号は時刻通りに発車した。

 男性:(“こだま”にしか乗れないんだよなぁ……。新富士駅は“こだま”しか止まんないんだから……)

 男性はスマホで時刻表を検索しながらそう思った。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、“こだま”号、新大阪行きです。終点、新大阪までの各駅に止まります。次は、品川です〕

 TOKIOの“AMBITIOUS JAPAN!”のイントロ部分が車内チャイムで流れる。
 しかし、そんなことは気にせず、並走する在来線を横目にスマホでネットに興じる男性。
 この辺は他の乗客と同じだ。
 尚、これでこの車両がJR東海のものだと分かる。

[同日08:00.天候:晴 JR東京駅・東海道新幹線ホーム]

 敷島:「おい、本当にここに反応があったのか?」
 エミリー:「はい、間違いありません」
 敷島:「よりによって東海道新幹線か。本数が多過ぎて、対象者がどの列車に乗ったのかさっぱ分からんぞ」
 エミリー:「一足遅かったようです」
 敷島:「何ぃ?トレスできんのか?」
 エミリー:「元々微弱な反応でしたので……。ただ、ここで途切れているということは、何らかの列車に乗った公算は大きいかと」
 敷島:「あ、そう。ちょっと待て。時刻表で調べる。直近で14番線と15番線から発車した列車は……“こだま”だぁ?しかも新大阪行き」
 エミリー:「最悪ですね。駅の数が多過ぎます」
 敷島:「ま、まあ、普通に考えて次の品川で降りたってこたぁ無いだろ」
 エミリー:「名古屋や新大阪まで乗って行くのも考えられません」
 敷島:「いや、分からんぞ。混んでる“のぞみ”が嫌で、ガラガラの“こだま”に乗ったという……」
 エミリー:「雲羽監督みたいなこと言わないでください」
 敷島:「すいません」

 全くである。
 そもそも作者はここ最近、高速バスである。
 新幹線は高いからだ。

 敷島:「やっとアメリカに再度行けて、重要な情報を掴んだというのにな。こりゃお手上げだ。一旦、会社に帰るか」

 敷島は肩を竦めて、改札口への階段を下りようとした。

 エミリー:「あ……」
 敷島:「どうした?」
 エミリー:「重要なデータがヒットしました。私のメモリーの中から」
 敷島:「何だ?」
 エミリー:「本日は吉塚広美博士の命日です」
 敷島:「吉塚広美……?」
 エミリー:「KR団最後の女性科学者で、妖精型ロイド、萌の製作者です」
 敷島:「ああ!南里所長の葬式にしれっと来てた人!」
 エミリー:「そうです」
 敷島:「確か吉塚博士の実家、静岡県だったよな?」
 エミリー:「はい。静岡県富士宮市です」
 敷島:「そうだそうだ。どっかの新幹線の駅から、タクシーで向かった記憶がある。平賀先生も一緒だったな」
 エミリー:「はい。新富士駅です」
 敷島:「もしかしたら、吉塚博士の法事なんかやってるかもしれない。もしも対象者がそっちの関係者だったら、そこに行ってる可能性もあるな!」
 エミリー:「公算はゼロではありません」
 敷島:「よっしゃ!俺達も行ってみるぞ!次の列車はいつだ?」

 エミリー、自分の機能で検索する。

 エミリー:「あー、次の列車は8時26分発、“こだま”639号、名古屋行きです」
 敷島:「えっ?!“のぞみ”も“ひかり”も止まんなかったっけ?」
 エミリー:「はい。ですので、前回も“こだま”で往復しました」
 敷島:「マジか。あ、それでその対象者も“こだま”に乗ったんだな、きっと!」
 エミリー:「公算は大きいです」
 敷島:「……分かった。新富士だな。行ってみることにしよう。幸い、富士市も富士宮市もそんなに大きな町ではないから、何とかお前の機能で探し当てることができるかも」
 エミリー:「お任せください」
 敷島:「何番線だ?」
 エミリー:「18番線です。まもなく入線します」
 敷島:「早っ!」
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“私立探偵 愛原学” 「座敷童の最期」

2019-04-21 10:18:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[4月10日13:30.天候:晴か曇 夜ノ森家・蔵内]

 私の前に現れた座敷童。
 恐らくこれがアクションゲームであるならば、私は手近にあった武器を手に彼女と戦っていただろう。
 いや、高橋もか。
 しかし、これは違う。
 これはあくまでサウンドの無いノベルなのである。

 愛原:「感染させられるならさせてみろ!」

 私はそう言って、あえて座敷童の顔面に左手を突き出した。

 座敷童:「……!」

 座敷童は面食らった顔になって、私の手を掴む。
 見た目は10歳くらいの少女なのに、握力は大の男並み。
 やっぱり痛い。

 愛原:「いってーな!いつまで掴んでんだよっ!」
 座敷童:「きゃっ!」

 私が振り払うと座敷童は、跪くように転んだ。

 高橋:「先生!童様に何てことを!」
 愛原:「うるせっ!」
 座視童:「なに……?どうして印が付かないの……?」
 愛原:「知らんよ!」

 座敷童は慌てたように、蔵の外へ逃げようとした。

 愛原:「ま、待てっ!高橋、鍵寄越せ!」
 高橋:「ダメです!」
 愛原:「お前、クビだ!」
 高橋:「ええっ!?」

 私は高橋の顔面を殴り付けた。

 高橋:「ガハッ!」

 女なら最低だが、男ならどこ殴り付けてもいいだろ!
 仰向けに倒れた高橋の拳銃を取り上げると、それで座敷童の背中を狙ったが、その頃には座敷童は持ち前の腕力で鍵を壊していた。

 愛原:「止まれ!」

 私は座敷童に向かって何度も発砲した。
 が、威勢の良い発砲音がするだけで銃弾の飛ぶ感じがしない。

 高橋:「先生……それ、偽物です……」
 愛原:「はあ!?」

 バンッ!(蔵の扉が開いた音)

 愛原:「あっ、待てっ!」

 扉が大きく開いて、光が差し込む。

 高橋:「ぎゃああああああっ!」

 高橋は両目を押さえてのたうち回った。
 どうやら、まともに光を目に受けたらしい。
 常人の私ですら、『うおっ、眩しっ!』と思ったくらいだからな。

 愛原:「座敷童!!」

 だが、次の瞬間、私は咄嗟に体を地面に伏せた。
 座敷童の向こう側にいたのは、武装ヘリと武装した軍人達の姿。
 座敷童目掛けて、一斉射撃される。

 それが座敷童の最期だった。

[同日14:30.天候:晴 夜ノ森家・庭内]

 善場:「愛原さん、無事で良かったです」
 愛原:「随分遅かったじゃないですか」

 夜ノ森家の内外に設置されたいくつかのテントのうち、敷地内に設置されたテントの中で高橋が治療を受けている。

 善場:「BSAAの出動要請をしていて遅れたんです。申し訳ありませんでした」
 愛原:「でもまさか、本当にBSAAが出動するとは……」
 善場:「『エブリン』というBOWを御存知ですか?」
 愛原:「『エブリン』?」
 善場:「2017年にアメリカのルイジアナ州にある農場で起きたバイオハザード事件です」
 愛原:「ああ!ニュースでもやってましたし……」
 善場:「そのバイオハザードを引き起こしたBOWの名前です」
 愛原:「ほお……」
 善場:「その亜種と呼ばれる物が、どういう経緯か日本に侵入したという情報をBSAAは受けていました。愛原さんの通報内容の中に、それと思しき情報が入っていたので、それでどうにかBSAAを出動させることができたというわけです」
 愛原:「あの座敷童が『エブリン』だと?」
 善場:「その後の調査にもよりますが、恐らくそうではないかと……」

 その時、善場氏の携帯に着信が入る。

 善場:「ちょっと失礼します」
 愛原:「はい」

 善場氏はスマホ片手にテントの外に出た。

 軍医:「ちょっといいですか?」
 愛原:「あ、はい」

 高橋の治療していたBSAAの軍医が私に話し掛けて来た。
 もっとも、BSAAは国連組織ではあるが、国連軍ではないので、軍医と言っていいのかどうかも分からないが。
 ただ、彼らの装備は殆ど国連軍と変わりは無いので、私はそう呼ばせて頂く。

 軍医:「彼の治療は終わりました」
 愛原:「おおっ!どんな感じでした?」
 軍医:「新型のウィルスに感染してましたので、アメリカから取り寄せたワクチンを投与してあります。ただ、その後遺症で目に大きなダメージを受けています。早急に眼科医の治療を受ける必要があります」
 愛原:「目に!」
 軍医:「はい。直ちに専門の病院に移送してください」

 軍医ではそこまではやってくれないわけか。
 と、そこへ善場氏が戻って来た。

 善場:「愛原さん、ちょっといいですか?」
 愛原:「あ、はい」

 私もテントの外に出た。

 善場:「まず、この家の人達は全員感染していました」
 愛原:「でしょうな。それで?」
 善場:「BSAAの警告に従わず、抵抗して来たので全員射殺したそうです」
 愛原:「マジですか……」

 人権問題とかになりそうだが、BSAAの定義として、人間がクリーチャー化した場合は『人間として死亡したものと見なす』とあるからな。
 だから、人権は喪失しているという見方をしているわけだ。
 高橋の場合は抵抗しなかった為、BSAAは射殺しなかった。
 BSAAの警告に従った場合は、『警告に従うだけの判断能力があり、つまり知性と理性が残っている。よって、人間として死亡したとは見なされない。即ち、人権は喪失していない』という定義があるそうだ。

 愛原:「残念ですね。人間だった頃は、いい人達だったでしょうに」
 善場:「ええ、非常に残念だと思います。これからBSAAが今回の事件について調査を始めるそうですので、高橋さんの治療が終わり次第、ここを離れなくてはなりません。今度は私達のヘリコプターが迎えに来るので、それでここを出ましょう」
 愛原:「先ほどの軍医さんからで、高橋にはワクチンが投与されたそうです」
 善場:「BSAAには全支部にワクチンが配備されていますからね」
 愛原:「それでも、目に受けたダメージが大きいので、今度は眼科に連れて行かないといけないそうです」
 善場:「分かりました。病院はこちらで手配しましょう」
 愛原:「ありがとうございます」
 善場:「いえ。愛原さん達の御活躍のおかげで、また日本に侵入したBOWを処分することができました。愛原さん達の功績は大きいですよ」
 愛原:「善場さん」
 善場:「何でしょうか?」
 愛原:「リサも……ああやって処分するつもりですか?」
 善場:「リサ・トレヴァーに関しては、愛原さん達のおかげで制御できています。このまま計画通りに進めば、政府エージェントとして働いてもらうことになっていますので、暴走したりしなければ、そうはしませんよ」
 愛原:「リサだけは特別、ということですね?」
 善場:「そう捉えて頂いても構いません」

 私達は日本政府機関から飛んで来たヘリコプターに乗った。
 どこの機関のヘリかは、あえて言うまい。

 高橋:「先生……すいませんでした……」

 両目に包帯を巻いた高橋が呟に言った。

 愛原:「まあいいさ。『エブリン』に感染させられた以上は、『エブリン』には逆らえなくなるって聞いたからさ。とにかく、お前は治療に専念しろ」
 高橋:「はい」

 ヘリコプターが離陸する。
 さて……依頼人には何て報告しよう。
 結局、ここの人達を救えなかったのだから、依頼人からは報酬がもらえそうにないな……。
 まあ、いいや。
 多分、報酬は別の所から出そうだから。

 善場:「……はい。そういうわけですので、今回は愛原学探偵事務所の所長さんと助手の方の活躍です。……はい」

 私は上司と連絡を取っている善場氏を見てそう思った。
コメント (4)
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