報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「視察の終わり」

2021-12-07 16:03:43 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月21日14:30.天候:曇 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 帰りの(というか旅行のついでに乗る)列車の時間が近づき、勇太の両親達は出発の準備をした。
 玄関前で、宗一郎とイリーナが最後の挨拶をしている。

 稲生宗一郎:「お世話になりました」
 イリーナ:「何のお構いもできませんで……」
 宗一郎:「いえ、とんでもない。泊めて頂いた上に、食事や酒なども御馳走になり、身に余る光栄です」
 イリーナ:「喜んで頂けて、何よりですわ。これで勇太君が、普段どのような生活をしているか、少しでも理解いただければ幸いです」
 宗一郎:「はい。こんな立派な御屋敷に住み込みで修行できるなんて、素晴らしいです」
 イリーナ:「それはそれは……」
 宗一郎:「先生も是非、関東へいらっしゃることがあれば、我が家に。狭い家ですが」
 イリーナ:「ありがとうございます。この家が大き過ぎるだけであって、御宅も立派な新築が建ったようでありますね」
 宗一郎:「おかげさまで」

 そう言うと、宗一郎は周りを見渡した。
 それから、懐から小切手の入った封筒を渡す。

 宗一郎:「これは少ないですが、占いの見料です。銀行で、すぐに換金できるようになっておりますので」
 イリーナ:「まーいど。それでは、こちらに占いの結果が書かれています」

 イリーナは2つ折りの厚紙のボードを宗一郎に渡した。
 2つに折ると、B5版くらいの大きさになる。

 宗一郎:「ありがとうございます」
 稲生佳子:「あなた、そろそろ行くわよ」
 宗一郎:「うむ。今行く」

 玄関の外では、車が待機していた。
 行きはマリアの魔法で出した車だったので、まんまロンドンタクシーのような車だったが、今度は勇太の魔力を使っている。
 そうなると、今度は日本のタクシーみたいな車が出てくるわけだ。
 最近流行りのジャパンタクシーに酷似していた。
 ロンドンタクシーと違ってリアシートがボックスシートになっていないので、荷物は後ろに積むことができる。
 この場合、マリアが助手席に乗り、稲生家の面々が後ろに乗ることになる。

 マリア:「じゃ、出して」

 マリアが運転手に言うと、黒スーツに白い帽子を深く被った運転手が頷いて車を走らせた。
 屋敷の前はコンクリートの舗装がされているが、そこを過ぎてトンネルの手前辺りから未舗装となる。
 往路と同じ、照明の無い長いトンネルをヘッドライトのハイビームにして走行する。

 勇太:「父さん、先生から占い受けてたの?」
 宗一郎:「バレてたか。実はそうなんだ。このコロナ禍、どのようにして会社の運命を左右させるかをだな……」
 勇太:「先生の見料、高いよ?もちろん、百発百中だけど」
 宗一郎:「しかし、当たれば後に見料を上回る高い収益が得られる。万年専務から、副社長を目指すぞ!」
 勇太:(万年でも、長年取締役にいられることの方が凄いと思うけど……)
 マリア:「東京都内には住まわれないのですか?ダディの会社は、都内にあると聞きましたが……」
 宗一郎:「北関東エリアを任されているものでね。その拠点である埼玉県に住んでいた方が、色々と便利なんだよ。もちろん、本社は大手町にあるがね」
 マリア:「そうですか……」

 さいたま市にある埼玉支社長を万年勤めているのも事実だ。
 もっとも、今は都内の本社に赴くことが多い為、都内とさいたま市の間という意味で川口市に新居を建てた由。
 さいたま市の旧居が、マリアの母親アレックスに爆破されたのを機に……。

[同日15:30.天候:曇 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 勇太達を乗せた車は、JR白馬駅前のロータリーに到着した。
 傍から見れば、タクシーが到着しただけのように見えるだろう。
 運転手に荷物を降ろしてもらい、車を降りる。
 少し時間があったので、駅前にある足湯に浸かった。

 勇太:「そうそう。お使いの度に入ろう入ろうと思ってたんだけど、ダニエラに邪魔されてさぁ……」
 マリア:「寄り道は許さないってことだ。……けど、足湯くらいはいいような気がするな。後でダニエラに言っとく」
 勇太:「お願いしますよ」

 人形の製作者兼管理者はマリアであるので、人形達は全てマリアの命令で動いている。
 もっとも、グランドマスターのイリーナはマリアを飛び越えて人形達に命令できる。

 宗一郎:「そろそろ出ようか」
 マリア:「はい」

 マリアが足湯から出ようとした時、佳子がマリアのスカートの裾を押さえた。

 佳子:「気を付けて。見えちゃうよ」
 マリア:「あっ……!Sorry……」

 今日のマリアは昨日みたいなワンピースではなく、いつものブレザーとプリーツスカートを穿いていた。
 ワンピースはロングスカートだが、ブレザーの方は違う。

 佳子:「このくらいの歳の外国人さんだと、もうラフにジーンズとか穿いてるイメージだけど、マリアさんは違うのね。魔法使いだから」
 マリア:「……あまりそんなことは無いですね。勇太が、この恰好が好きみたいなので」
 佳子:「あらあら」
 マリア:「私の友人で、別の組の魔女は、日本に来るまで、Tシャツにジーンズというラフな格好でした」
 勇太:「ルーシーのことか」
 マリア:「ですが、私のこの服を物凄く気に入ったので、わざわざ原宿に買いに行ったくらいです」
 佳子:「ああ。確かに、原宿で売ってるもんね。制服系ファッション。ていうか勇太、いくらマリアさんが似合うからって、いつまでもこんな格好させるのやめなさい」
 勇太:「ええっ!?い、いや、でも……!」
 マリア:「いいんですよ。私もこの服、気に入ってますから」
 宗一郎:「そろそろ列車が来る。早いとこ駅に入ろう」
 佳子:「はいはい」

 勇太達は駅構内に入った。

 宗一郎:「よし。車内で退屈しないよう、何か買って行こう」

 列車はまだ到着しておらず、宗一郎は待合室にあるキヨスクに入った。

 宗一郎:「えーと……」
 佳子:「何してるの?」
 宗一郎:「旅のお供に」

 宗一郎はドヤ顔して、缶ビールとおつまみを手にした。

 佳子:「昼間っから飲むんじゃないの!」
 宗一郎:「いいじゃない。旅行気分はこう……」
 佳子:「ダーメ。血糖値が云々って言われたんだから、控えなさい!」
 宗一郎:「今日だけでもォ……」
 佳子:「あなた……!!」(佳子がキレる3秒前)
 宗一郎:「はーい……」(´・ω・`)ショボーン
 マリア:「…………」(←稲生夫妻のやり取りに、笑いを堪えている)
 勇太:「おおっ、来た!“リゾートビューふるさと”!」

 勇太は両親そっちのけで、ホームに入線してきた2両編成のハイブリット気動車に、スマホのカメラを向けた。

〔「1番線に到着の列車は、15時35分発、快速“リゾートビューふるさと”号、長野行きです。2両編成、全ての車両が指定席です。停車駅は信濃大町、信濃松川、穂高、松本、姨捨、篠ノ井、終点長野の順に止まります。……」〕

 観光客向けのリゾート列車だが、大糸線内ではワンマン運転のもよう。
 また、気動車であるのだが、エンジン音が静かなのは、ハイブリット車だからだろう。

 勇太:「入場券買って来る!」

 勇太は有人窓口の横にある自動券売機に行くと、そこで入場券2枚を買った。

 勇太:「はい、マリアのも!」
 マリア:「私もいいの?」
 勇太:「いいのいいの!」

 改札口は自動化されておらず、ホームの入口には駅員が立って鋏(スタンプ)を入れている。

 勇太:「どっちの車両?」
 宗一郎:「前の車両だな」

 宗一郎は手持ちの指定席券を見ながら言った。
 車両は普通車ながら、そのシートピッチは特急のグリーン車並みである。

 マリア:「どうか、お気をつけて」
 宗一郎:「マリアさんも、勇太をどうかよろしく」
 マリア:「分かりました」
 佳子:「勇太、年末年始は帰省するの?」
 勇太:「あー、そうだねぇ……」
 宗一郎:「冬は雪に閉ざされるんだろう?イリーナ先生も連れて来たらどうだ?」
 勇太:「まあ、先生に聞いてみる」
 マリア:「師匠はむしろ屋敷内で冬眠するのが好きな人ですから」

 マリアは苦笑して言った。

 マリア:「勇太の弟子入り前は、よく師匠は年末年越し飲み会をしたものです。不健康極まりないですね」
 宗一郎:「ハハハ……」

〔「1番線から、“リゾートビューふるさと”号、まもなく発車致します」〕

 駅長が出て来て、ホームの監視を始めた。
 ワンマン運転で車掌がいない為、客終合図は運転室に向かって行う。

 宗一郎:「それじゃ、帰省のことが分かったら教えてくれ」
 勇太:「分かった」

 勇太の両親は列車に乗り込んだ。
 駅長の合図で、ドアが閉まる。
 そして、ハイブリット気動車の特長である、静かな走りを見せた。

 勇太:「よし、出発したな」
 マリア:「あのまま帰られるのだろうか?」
 勇太:「なーんかあの様子じゃ、長野市内で一泊しそうだね。明日は平日だけど、休み取ってるって言うし」

 大企業の場合、前後が休日に挟まれている1日だけの平日は『有給休暇取得奨励日』に指定されていることが多い(呼称は企業によって違う)。
 役員はこの限りではないが、ただ、部下を休ませなければならないのに役員が出勤してしまうと、企業によってはその部下が休みにくくなってしまうので、やはり役員も休むことが多い(もちろん、その企業の業務内容や役員が担当している部門にもよる)。

 マリア:「なるほど」
 勇太:「じゃあ、帰ろうか」
 マリア:「ちょっと待って。せっかく駅まで来たんだから、少し買い物してから帰りたい。夕食までに戻れば、師匠も何も言わないはずだ」
 勇太:「それもそうだね」

 勇太達は駅を出た。
 そして車に乗り込むと、運転手に村内のスーパーに行くように伝えた。
 総合スーパーなら、食料品だけでなく、日用品も売られているからだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“愛原リサの日常” 「元公民館を探索」

2021-12-05 19:54:24 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月2日12:00.天候:曇 宮城県遠田郡美里町某所 愛原公一の家]

 チェーンカッターを入手したリサ達は、再び家の中へ戻った。
 家の外は化け物がいたが、中は相変わらず静かなものだ。
 異変さえなければ、長閑なものである。

 リサ:「お昼ごはん」
 愛原:「今からかよ!?」
 リサ:「もうお昼だし」

 リサは家の中の時計を指さした。
 真っ昼間なのに薄暗いのは、雲っているからだろう。
 リサは台所に行くと、勝手に冷蔵庫を開けた。
 すると、中には公一が作り置きしていたであろうお握りが2つほど入っていた。

 リサ:「おー!」
 愛原:「これは伯父さんが昼食用に作り置きしていたヤツだろう。勝手に食べるのは……」
 リサ:「美味しい」

 愛原の注意も効かず、リサは冷蔵庫の中を食べ漁った。

 高橋:「こういう所はゾンビ同然だな」

 高橋も呆れたように言う。

 愛原:「しょうがない。俺達は先に、袋棚の封印を解こう」
 高橋:「分かりました」

 愛原と高橋は、仏間の方へ行ってしまった。
 リサはお握りの他、焼き魚や冷凍庫にある生の牛肉までペロリと平らげた。

 リサ:(そういえば、この仕事が終わったら、焼肉食べ放題なんだった。それなら、腹8分目っていうし……)

 リサは最後に冷蔵庫に入っていたペットボトルのお茶を飲んで、それから昼食を終えた。
 大食のBOWが冷蔵庫の中身をどれだけ食べたかは、【お察しください】。

 リサ:「先生の後を追おう」

 だが、その前にトイレに寄ることにした。
 元は公民館だった建物なので、トイレは男女に分かれている。
 もっとも、政令指定都市にあるような公民館と違い、それはとても小さく、実際は集会所に近い広さである。
 リサはその女子トイレに立ち寄って、用を足した。

 リサ:「ん?何これ?」

 洋式便器の下に、バルブハンドルが落ちていた。
 周りを見渡すと、トイレの水を供給する水道管に付いていたバルブハンドルのようだった。
 確かに、これではレバーを押しても水が流れない。
 急いで、取り付けなければ。
 しかし、手を伸ばして届く所にハンドル取り付け位置があるわけではない。
 だが、こういう時、BOWは便利だ。
 リサは右手から触手を出すと、それでバルブハンドルを掴み、スーッと伸ばして、ハンドルの位置にそれを取り付けた。
 そして、それを回すと水が流れる音がした。
 それからレバーを押すと、便器に水が流れたのである。

 リサ:「おー、リサ・トレヴァーで良かった。……でも、早く人間に戻りたい」

 用を足してから洗面所で手を洗っていると、何かが落ちる音がした。
 振り向くと、さっきのバルブハンドルである。
 どうやら、元々取り付け具合が良くなかったようだ。
 もうここのトイレを使う者はいないだろうから、放っておいても良いのだが……。

 リサ:「ん。一応、持って行こう」

 リサはバルブハンドルを手に、トイレから出た。

 愛原:「遅かったな。腹一杯になったか?」

 仏間に行くと、既に袋棚の鉄扉は開扉されていた。

 リサ:「腹8分目。で、さっきトイレに行ってきたから、またお腹空くと思う」
 愛原:「夕食までには、仕事終わらせたいなよな」
 リサ:「で、奥には何があったの?」
 愛原:「隠し扉&エレベーターだ」
 リサ:「エレベーター!?」

 仏壇の下を潜るように進むと、1つの小部屋に入る。
 位置関係からして、女子トイレと隣り合わせになっているはずだ。
 そこには、古めかしい木製扉のエレベーターがあった。
 リサが以前聞いた機械の音は、これだったのか。
 小部屋の照明も、電球1個というものだった。
 だが、その電球というのがLED電球であることから、この小部屋は今も使われている。
 ということは、そのエレベーターも使われているということだ。

 リサ:「それじゃ早く、下に……」
 愛原:「それが電源が入ってなくて、ボタンを押しても、うんともすんとも言わないんだ」
 リサ:「それじゃ……」
 愛原:「ここに、スイッチを入れる鍵穴がある。どこかで、鍵を見つけてこないと」
 高橋:「え?また、大手町中央ビルから鍵を借りてくるんスか?」
 愛原:「いやあ、これは三菱じゃないだろう。とても古い……恐らく、オーチス辺りじゃないか?」
 高橋:「じゃあ、どうするんですか?」
 愛原:「今も使われているのなら、きっとこの家のどこかに鍵があるはず。で、どうやらその鍵の在り処、あの秋葉氏が知っていたようだ」

 愛原は秋葉が持っていたメモ書きを取り出した。

 『ELVキー→仏壇→足し算』と書かれていた。

 高橋:「足し算って何スか?」
 愛原:「分からんな」

 リサ達は、取りあえず一旦、仏間に戻ることにした。
 仏間に戻って、仏壇を調べてみる。
 すると仏壇の下に、小さな引き出しが8つあるのに気付いた。
 引き出しの右上にはそれぞれ、小さく『壱』『弐』『参』『肆』『伍』『陸』『七』『八』と書かれていた。

 愛原:「この数字を足して、何らかの数字にすると開くというわけかな?」
 高橋:「何の数字ですか?」
 愛原:「知らん」

 愛原は、まず『壱』の引き出しを開けた。
 すると、この中にはマグナムの弾が入っていた。

 愛原:「高橋、弾を補充しろ」
 高橋:「あざっす」

 そして、その隣の『弐』の引き出しをあける。
 しかし、そこには何も入っていなかった。
 次に、『参』の引き出しを開ける。
 その中には、薬液の入った瓶が入っていた。

 リサ:「これ、回復薬だよ。グリーンハーブを調合したものだね」
 愛原:「じゃあ、これも頂いておこう」

 そして、次の『肆』の引き出しを開けようとした。
 だが、開かない。

 愛原:「これは開かないか……」

 しかし、その次の『伍』の引き出しも、『陸』の引き出しも、とにかく残りの引き出しは全く開かなかった。

 愛原:「参ったな……。恐らく、開かない引き出しのどこかに、エレベーターの鍵が入っているかもしれないのに……」
 高橋:「ピッキングか何かで開けますか?」
 愛原:「つったって、鍵穴なんて無いだろ」
 高橋:「それもそうですね……」
 愛原:「多分、今開いてる引き出しも、何かの条件に合っているから、開いているんだろうな」
 高橋:「もしかしたら、『一度に開けられる引き出しは、3つまで』とか?」
 愛原:「あー、なるほど。しかし、それだと、『足し算』はどこに行ったんだ?」
 高橋:「まあ、取りあえずやってみましょう」

 愛原は取りあえず、全部の引き出しを閉めた。
 今度は、『八』の引き出しを開けようとする。
 だが、開かない。
 それどころか、『七』の引き出しも開かなかった。

 愛原:「これは一体、どういうことなんだ!?」

 試しにもう一度、『壱』の引き出しを開けてみる。
 これは開いた。
 では、『壱』の引き出しを閉めて、『弐』の引き出しを開けようとすると、開かない。

 愛原:「???」

 どうやら、無条件で開く引き出しは『壱』だけのようだ。
 何とかして、『肆』以降の引き出しを開けたい。
 さて、一体どうやれば、『肆』以降の引き出しを開けられるだろうか?
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「元公民館を探索」

2021-12-05 11:54:03 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[10月2日11:30.天候:曇 宮城県遠田郡美里町某所 愛原公一の家]

 私達は公一伯父さんの家の中に入った。
 家の中は薄暗いが、しかし時折雲間から日差しが出てくることもあり、それで家の中に日光が差し込んで来ると、途端にホラーな雰囲気は無くなる。
 このギャップが凄い。
 アメリカのルイジアナ州で起きたバイオハザードだって、舞台となった農場は、かつて普通の農家だったということもあり、場所によっては全くホラーな雰囲気は無かったという。
 にも関わらず、そういった所にもクリーチャーが出たりして、そこが尚更不気味だったらしい。
 この家もそうなのだろうか。

 愛原:「リサ、化け物の気配はするか?」
 リサ:「今のところは……」

 リサは今、第1形態になっている。
 見た目は額に一本角が生え、両耳は長く尖り、瞳は赤くなり、両手の爪は長く鋭く尖る様は、正に鬼そのものである。
 そしてこの時の、リサの索敵能力は強い。
 食卓へ行くと、食事は片付けられていたが、台所のシンクには、まだ洗っていない食器が置かれていた。
 食事の後片付けを放置して、どこかに行ったとは思えない。
 伯父さんの性格的に、それは有り得ない。
 すると、後片付けをしようとして何かに巻き込まれたのだろうか。

 愛原:「伯父さーん!いますかー!?」

 私は時折、大きな声で呼びかけた。
 しかし、それに応じる者はいない。
 伯父さん本人もそうだし、潜んでいるかもしれないクリーチャーもだ。

 高橋:「誰もいないみたいっスね?」
 愛原:「うーん……」

 書斎に行ってみるが、難しい本が置かれているだけで、何も見当たらない。
 いや、もしかしたら、本の中がくり抜かれていて、中に鍵とか入っていたりするのかもしれないが、何の情報も無しにこんな本の山の中から探すのは面倒だ。
 別の場所を探してみることにした。

 愛原:「トイレ。……何も無いか?」
 リサ:「! そういえば……」

 リサのエルフ耳(便宜上、長くて尖った耳のことをこう称する)がピクッと動いて、何かを思い出したようだ。

 リサ:「この前、泊まった時のことなんだけど……」

 リサは仏間の話をした。

 愛原:「なるほど。そうか」

 私達は仏間に行ってみた。
 すると、何だか仏間が他の部屋より荒らされている感じがする。
 気になったのは、仏壇の下にある袋棚である。
 普通は襖のような扉になっているはずだが、それが取り外されていて、観音開き式の鉄扉に変わっていた。

 愛原:「何だこりゃ?」

 しかも、両側の取っ手にチェーンが掛けられ、それを固定するように南京錠が取り付けられている。
 明らかに怪しい。
 というか、この前来た時、こんな扉は無かったはずだ。
 あればこんなごっつく目立つ扉、すぐに気づいている。
 前に来た時は、ごく普通の襖タイプの扉だったはずだ。
 しかも、その扉は近くに転がっている。
 何者かが、急ごしらえで造って取り付けたとしか思えなかった。

 愛原:「鍵なんてどこにあるんだよ!?」
 リサ:「私の力でも引きちぎれるかどうか……」
 愛原:「うーむ……」
 高橋:「あ、でも、先生。もしかしたらこの家、チェーンカッターくらいあるかもしれませんよ?」
 愛原:「あ、そうか!確かにありそうだ!よし、それを探そう」

 私はありそうな部屋を探した。
 農機具の一環で持っていそうだから、屋外の農機具小屋にありそうだ。
 行く途中で気づいたのだが、さっきの書斎。
 本棚の上に、ショットガンタイプの猟銃を発見した。
 机の上に、狩猟について書かれた本があり、それを見て、伯父さんが狩猟免許を持っていたのを思い出したのだ。

 愛原:「ショットガンだ。弾もある」
 高橋:「ショットガンと言えば先生です。それは先生がお持ちになってください」
 愛原:「分かった」

 因みに机の引き出しを開けると、中から未使用の銃弾も入っていた。
 もちろん、この猟銃用である。
 もしかしたら戦闘になるかもしれない。
 こういうのは持っておいた方がいいだろう。
 そして、外に出ようとした時だった。

 愛原:「あっ!?」

 引き戸式の玄関をブチ破って、侵入してくる者がいた。

 秋葉ゾンビ:「アァア……!」

 3つ首ティンダロスに変化したジョンに食い殺された、探偵の秋葉氏がゾンビ化していた。

 高橋:「っしゃぁーっ!」

 高橋がマグナムを一発、ドゴンと放つ。
 ザコゾンビは、それ1発で倒すことができる。
 胸に高橋のマグナムを食らった秋葉ゾンビは、家の外に弾き出されるほどの衝撃を受け、仰向けに倒れて、血の海を作りながら息絶えた。

 愛原:「そうだった。聞いた話、霧生市にはジョンみたいな3つ首ワンチャンが1匹、徘徊していたらしいな?」
 リサ:「そうなの。それに関しては、どこかのアホ研究員が間違って逃がしちゃったらしく、それでリサ・トレヴァーの何人かが捕獲に向かうことになったというわけ。もちろん、『1番』も含めて、そんな命令はガン無視で、実質的な脱走だったけどね」

 リサは留守番を命じられてしまった為、脱走することはできなかった。

 愛原:「で、そのティンダロスに襲われた人間もまたゾンビ化したとか……」
 リサ:「あれもTウィルスで造るからね」
 愛原:「すっかり忘れてたよ」

 とにかく、ゾンビのいなくなった庭を突っ切って、軽トラやトラクターの止まっている小屋に向かう。
 あいにくとその小屋も鍵が掛かっていたが、幸いチェーンカッター自体は軽トラの荷台に置かれていたので助かった。
 レンタカーも今のところ無事だ。
 でもいざという時の為に、この軽トラの鍵は手に入れておいた方がいいかもしれない。
 その鍵の場所は知っている。
 私はそんなことを考えながら、再び家の中に戻ろうとした時だった。

 秋葉ゾンビ:「ウゥウ……!」
 愛原:「えっ!?」

 倒したはずの秋葉氏のゾンビが、また呻き声を上げて立ち上がった。
 そんなバカな!?
 ザコゾンビは、血の海ができるくらいのダメージを負えば、回復力が間に合わず、出血多量でそのまま死に至るはずだ!

 リサ:「化け物の臭いがする!気を付けて!」
 秋葉ゾンビ(クリムゾンヘッド):「ガァァァァッ!!」

 秋葉ゾンビは、全身を赤銅色に変化させ、特に頭の部分が真っ赤になった。
 そして、両手の爪はリサもかくやと思われるほど長くて鋭くなっている。

 高橋:「お、おい!何か、リサみたいになってんぞ!?」
 愛原:「あれはもしかして……!クリムゾンヘッドじゃないのか!?ほら高橋、霧生市であんなゾンビいただろ!?」
 高橋:「そ、そう言えば!」

 倒されたゾンビの中には、体内のウィルスが死滅せず、それが体内で更に再編を繰り返して、脅威のゾンビとして復活することがある。
 特徴として全身が赤く染まるのはもちろん、特に頭部が真っ赤に染まる為、クリムゾンヘッドと呼ばれるのである。
 他にはリサみたいに、爪が長くて尖り、それで攻撃してくるのと……。

 高橋:「は、速ぇ!?」

 普通のゾンビが酔っ払いの千鳥足みたいな感じで、ヨロヨロモタモタと向かって来るのに対し、クリムゾンヘッドは普通に走って向かって来る。
 また、ジャンプして飛び掛かって襲って来ることも可能だ。
 この動き、まるでリサみたいである。

 リサ:「私が行く!」

 リサもまた爪を立てて、クリムゾンヘッドに立ち向かった。
 私は猟銃を構えて、発砲のチャンスを伺った。

 高橋:「先生!やっぱりザコゾンビの亜種と、元からボスクラスのリサとじゃ、やっぱり違いますよ!」
 愛原:「そのようだな」

 どうもクリムゾンヘッドの方は、動きが大仰である。
 しかし、リサの方はもっと効率的な動きであった。

 クリムゾンヘッド:「ギャッ!」

 リサは自分の爪で、クリムゾンヘッドの頭を引っ掻いた。
 そこから血が噴き出す。

 愛原:「今だ!」

 私は手持ちのショットガンを放った。
 見事に命中するが、それだけでは倒せない。
 更にリサは、クリムゾンヘッドの頭にかかと落とし!
 どうやら、名前からして頭が弱点だと思っているようだ。
 まあ、元々ゾンビは頭が弱点ではあるのだが。

 高橋:「トドメは俺が!」

 そして、高橋がマグナムを放つ。
 彼の大きな銃弾は、クリムゾンヘッドを頭を吹き飛ばすのに、十分な威力であった。
 そして、かつて探偵の秋葉氏だったクリムゾンヘッドは、頭が無くなってついに倒れたのである。

 愛原:「ふぅーっ!何とか倒したな」
 高橋:「そうっスね」

 秋葉氏のポケットの中から、何やらメモ書きが出て来た。
 これ見よがしに出て来たので、私は念の為に頂くことにした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「一夜明けて」

2021-12-04 19:59:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月21日01:28.天候:雷 長野県北部山中 マリアの屋敷]

 ホラー洋館に都合良く雷が鳴るのは、ベタ過ぎる法則であろう。
 しかし、そんな展開ができるのは魔女の屋敷ならではある。
 これが吸血鬼の館だと、そうはいかない。
 何故なら、雷が鳴っている中、吸血鬼が獲物を求めて飛行しようものなら、落雷の直撃を受けるからだ。
 また、彼らは満月の夜だからこそ、血を欲する。
 だから、吸血鬼が出てくるホラー映画では、本来ホラー演出の為とはいえ、雷が鳴るのは間違いである(雷が鳴るような悪天候では、満月は確認できないだろう?)。

 侵入者A:「見つけたぞ。魔女の屋敷」
 侵入者B:「ここに住んでいる魔女は、2~3人ほどだそうだ」
 侵入者C:「捕えて、司祭様の所へお連れするのだ」
 侵入者A:「どこから入る?」
 侵入者B:「あそこの煙突から入れそうだ」
 侵入者C:「気を付けろ。こんな大きな屋敷に住める魔女だ。一筋縄ではいかないぞ」
 侵入者A:「分かってるって。じゃあ、行くぞ」
 侵入者B:「待ってろよ、神を恐れぬ魔女ども。捕まえて火あぶりに……」

 魔女狩り3人組、煙突から3階屋根裏部屋へと侵入する。

 クラリス:「…………」
 ミカエラ:「…………」
 ダニエラ:「…………」
 ナンシー:「…………」
 シンディ:「…………」
 エミリー:「…………」
 侵入者A:「……へ?」

 ジャキッ!(メイド人形達、手持ちの銃器を構える)

 侵入者B:「……ちわ」
 侵入者C:「くそっ、魔女共め!」

 屋敷内に銃声がこだましたことは、言う間でもない。

 クラリス:「死肉は吊るして、魔獣の餌に」
 ミカエラ:「魂は悪魔への生贄に」
 ダニエラ:「かしこまりました」
 ナンシー:「了解しました」
 シンディ:「承知しました」
 エミリー:「分かりました」

[同日08:00.天候:晴 マリアの屋敷1F西側大食堂]

 稲生宗一郎:「昨夜、凄い雷だったねぇ……」
 イリーナ:「季節の変わり目ですわね。今週中には、もう雪が降ると予知しております」
 宗一郎:「さすが長野の山奥。もう雪が降るんですか」
 イリーナ:「毎年いつも、このくらいですわ」
 稲生佳子:「その雷に混じって、銃声のような音が聞こえたんですが……」
 イリーナ:「ああ、それですか。確かに、うちのメイド人形が猟銃を使いましてね」
 佳子:「猟銃ですか?」
 イリーナ:「この時期、冬眠前の熊などが屋敷の敷地内に侵入してくることがございましてね。それを追い払う為に、メイド人形には猟銃を持たせてあるのですよ」
 宗一郎:「た、確かに熊などがいてもおかしくはないですが……」
 イリーナ:「この他にも猪とかもいるのです。鹿とか狐くらいならまだかわいいものですが、さすがに熊や猪は、こちらから追い払ってやりませんと」
 宗一郎:「確かに。しかし、あんな夜中に熊が出たのですか」
 イリーナ:「熊ではなく、夜行性の猪とかかもしれませんわね。とにかく、家の安全を守る為の防衛ですので、どうかお気になさらず……」
 宗一郎:「はあ……」
 佳子:「ライフルとかショットガンのような音がしたのですが……」
 イリーナ:「ですから、猟銃です」
 稲生勇太:「母さん、猟銃にライフルとかショットガンはあるでしょ?」
 佳子:「それもそうね」
 マリア:(実際は軍用のライフルとショットガン……。あとは、マシンガンとグレネードランチャーとかもあったっけ)

 哀れな魔女狩り3人組の死体は、2度と見つかることはないだろう。

 勇太:(日蓮正宗関係者だったらさすがにマズいけど、キリスト教系カルト新興宗教の連中なら別にいいや)

 勇太は朝食のコーヒーをズズズと啜りながら思った。

 勇太:「父さん達、今日帰るんだよね?」
 宗一郎:「せっかく来たんだから、観光して帰ろうかと思う」
 勇太:「大糸線の普通列車に乗るの?」
 宗一郎:「いや、快速“リゾートビューふるさと”のキップが取れた」
 勇太:「何で鉄ヲタの僕も乗ったことの無い列車、しれっと予約してんの?」
 佳子:「終点が長野駅だから、そこから新幹線で帰れるしね」
 勇太:「実際は大宮で、京浜東北線乗り換え」
 宗一郎:「まあ、そうだな。とにかく、勇太がどういう所に住んでいて、どういう修行をしているのか分かったから、それで十分だよ。先生、ありがとうございます」
 イリーナ:「いえいえ。私の方こそ、色々とお土産頂いちゃって、どうもありがとうです」
 マリア:「スイーツ以外に、何かありました?」
 イリーナ:「“日本全国!温泉の素”詰め合わせ。体のコリに効きそうだねぇ……」
 マリア:「本物の温泉には負けるかと」
 宗一郎:「それもそうですね。今度、温泉旅行にでもご招待させて頂きましょう。コロナの状況次第ですが」
 イリーナ:「大丈夫ですよ。少なくとも、ここにいる私達は、何があっても大丈夫です」
 宗一郎:「先生の占いはよく当たると評判ですからなぁ……」
 イリーナ:「お褒めに預かりまして」

 だが、イリーナは一瞬冷たい目をした。

 イリーナ:(新型コロナウィルスねぇ……)

 イリーナ達、大魔道師は何か真相を知っているようだが、それに照らし合わせてみて……。

 イリーナ:「とにかく、大丈夫ですので」
 宗一郎:「かしこまりました」
 佳子:「あなた、目玉焼きのお代わりですって」

 因みに、いつもではないが、こういう来客があった時に、キッチンメイド達が行っている演出。
 それは、目玉焼きやスクランブルエッグを目の前で作るというものである。
 一部、観光地のホテルなどでも行われている演出だ。

 宗一郎:「そうか。じゃあ、もらおうかな」
 マリア:「“リゾートビューふるさと”とやらの発車時刻は?」
 勇太:「確か、午後だよ。15時台。新宿行きの特急の後だったね」
 宗一郎:「さすが詳しいな。乗ったことはないのに」
 勇太:「うるさいな」
 佳子:「今度の帰省の時にでも、乗ってみたら?」
 勇太:「うーん……。でも、僕の趣味にマリアを付き合わせるのは……」
 マリア:「私は別に構わないよ。列車でもバスでも……」
 勇太:「そもそも、帰省できるかどうか分かんないし……」
 イリーナ:「だから、何も心配無いって言ったでしょ?」
 勇太:「前向きに検討します」

 実現できるかどうかは、先行き不透明である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「いきなりの中ボス戦」

2021-12-04 07:54:35 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月2日11:00.天候:曇 宮城県遠田郡美里町某所 愛原公一の家]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 仙台市内からレンタカーで、同じ宮城県内にある私の伯父の家に向かった。
 だが、その途中……。

 愛原:「ん!?」

 パンパンバンバンと銃声の音が遠くから聞こえた。
 銃声からして、マシンピストルの音のようである。

 愛原:「今、銃声がしたよな!?」
 高橋:「しましたね!」
 愛原:「ここから先は危険かもしれんから、警戒して行くぞ」
 高橋:「はい!」

 私達の車は、林道のような狭い町道に入り、そこから伯父さんの家に向かう。
 と!

 リサ:「人間の血の匂いがする」

 リサは風に乗って漂って来る人間の血の匂いを感じ取った。
 垂れて来る涎を抑えようと必死である。

 愛原:「そこだ!」

 車は元公民館だった伯父さんの家の敷地に入った。

 愛原:「あっ!」

 玄関の前で、誰かが血だらけで死んでいた。
 しかも、その死体に食い付くモノがいる。

 ジョン(ティンダロス):「ガゥゥゥ……!!」

 伯父さんが飼っている柴犬のジョンが、3つ首のティンダロスに変化していた。
 大きさも普通の柴犬から、馬くらいのサイズになっている。

 愛原:「BOWだ!」
 リサ:「ジョン!?どうして!?」

 車を止めて、私達は銃を構えて車から降りる。
 リサも第1形態に変化した。
 よく見ると、死体のそばには銃が落ちている。
 先ほどの銃声は、そこから発せられたものだろう。

 高橋:「先生。やはり、黒幕はあの教授……」
 愛原:「まさか伯父さんが……」
 ジョン:「ガァァァッ!!」

 ジョンは次の獲物を私達に定めると、飛び掛かって来た。
 首が3つもあってバランスが悪そうなのに、動きは俊敏だ。

 愛原:「何て奴だ!狙いが定められない!」
 高橋:「ショットガンが必要でしたか!?」
 愛原:「都合良くあるわけないだろ!」

 私達が持っているのは、ハンドガンとマグナムである。

 リサ:「はーっ!」

 リサは両手の爪を長く鋭く尖らせており、それでジョンに向かって行った。
 リサもBOWの中では動きは素早い方だが、やはり獣のジョンの方が上手である。
 リサの爪は空振りに終わっている。
 当たれば、大きなダメージが与えられると思うのだが……。
 と、それは高橋のマグナムも同じか。
 私達が苦戦している時だった。

 ジョン:「ギャアッ!」

 どこからともなく、何かが飛んで来た。
 そして、それはジョンに突き刺さる。

 愛原:「ボウガンか!?」

 しかも、ただのボウガンではない。
 ピッピッという電子音がしており、その後、爆発した。
 つまり、爆矢である。
 もちろん、それだけで倒せる化け物ではないが、少しダメージを与えたのは事実だ。

 リサ:「今だ!」

 リサは怯んだジョンに対して、鋭い爪で引っ掻き攻撃をした。
 引っ掻かれた所から、大量の血が噴き出す。

 愛原:「高橋、撃て!」
 高橋:「うス!」

 高橋がマグナムを撃ち込む。
 私のハンドガンはパンパンという音だが、大型拳銃たるマグナムの銃声がドゴンドゴンという音だ。
 当然、その威力はハンドガンの比ではない。
 何しろ、あのタイラントに大ダメージを与えることができるくらいだ。
 ……ということは、それすらあまり効かないリサは、本当の化け物なのだろう。
 敵に回さなくて良かった。

 ジョン:「ギャアアアアアッ!!」

 そして、ついにジョンは断末魔を上げて倒れたのである。
 致命傷を受けたジョンは、3つ首のティンダロスから普通の柴犬に戻った。
 もちろん、死んでいたが。

 リサ:「ジョン……。ゴメンね……」

 私は人間の死体の方に駆け寄った。
 うつ伏せで死んでいたので、仰向けにしてみる。
 幸い、顔はそんなに食い荒らされていなかった。

 愛原:「秋葉さん!?」

 それは先日、新宿で会った同業の秋葉氏であった。
 秋葉氏もここを嗅ぎ付け、訪れたのか。
 そして、ティンダロス化したジョンに襲われたか。
 私はスマホを取り出して、善場主任に連絡した。

 愛原:「……というわけです」

 私は状況を説明した。

 善場:「分かりました。すぐにBSAAに出動要請を行います。警察にはこちらから通報しますので、愛原所長は探索を続けてください」
 愛原:「分かりました」
 善場:「愛原公一名誉教授の姿は無いのですね?」
 愛原:「今のところは……」

 これだけの騒ぎで、家の中から出てくる様子は無い。
 家にはいないのかもしれない。

 愛原:「善場主任から、探索を続けるように指示があった」

 私は電話を切ってから高橋達に言った。

 高橋:「この死体は?」
 愛原:「このままにしておけ。後で警察が来る」
 高橋:「分かりました」
 愛原:「もちろん、BSAAも後で来るそうだ」
 高橋:「それなのに、俺達は先へ進むんですか」
 愛原:「この家のことは、BSAAよりもまだ俺達の方が詳しいからな。露払いシクヨロってところだろう」
 高橋:「了解です」

 私達がそうしている間、リサはジョンの死体から何かを見つけた。

 リサ:「先生、これ……」

 第1形態のままなので、爪はまだ長くて尖っている状態である。
 だが、常識的な長さだ。
 場合によっては、“エルム街の悪夢”のフレディのような爪みたいになる。
 そんなリサが、私に鍵を渡した。

 リサ:「ジョンの腹の中から出て来た」
 愛原:「おー、ありがとう。これは、玄関の鍵だと思う」

 私はこれで玄関のドアを開錠した。

 愛原:「やっぱりだ。防犯の為、玄関の鍵はジョンの犬小屋の中に隠してあるって、前に伯父さんが言ってたからな」

 それをティンダロス化したジョンが飲み込んだのかもしれない。

 愛原:「いきなりの中ボス戦だった。家の中にも、化け物がいるかもしれない。油断しないで行くぞ」
 高橋:「はい」
 リサ:「うん」

 私と高橋は銃を構えながら、リサは爪を立てながら薄暗い家の中に入った。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする