ITSを疑う

ITS(高度道路交通システム)やカーマルチメディア、スマホ、中国関連を中心に書き綴っています。

自動運転がカーメーカーにもたらす脅威

2015年07月05日 | 自動運転

前のエントリーで、自動運転はひいてはカーシェアにつながり、それは自動車産業に破滅的な構造変化をもたらすだろうと書いた。

同じ趣旨のレポートが英国バークレイ銀行のアナリストにより提示されているので、内容的には繰り返しになるが参考に上げておこう。

Bloomingberg 記事

曰く、将来自動運転が実現し通常家庭の車両が自動運転車になるだけで、家人の間で車を共有できるので車の複数保有が減少しデトロイトスリーの需要は40%近く減ることになるとしている。

さらにカーシェアになると1台の車が現在の9台分、最終的にカーシェアでかつ同じ方向の旅客を拾って運行する「Poolタイプ」になると1台で18台に匹敵するという。

自動運転に関しては、その将来出現するであろう新市場に対する希望的な見方がある(実際に株式市場では自動運転関連株、というのがすでに囃されている)が、実際はカーメーカーにとって極めて深刻な事態が起こりうるのだ。

このレポートにも、ロボットカーの時代にはカーメーカーは低コストメーカーが選ばれるということが書かれている。それは当然で、車はロボットカー事業者が選定するわけだからブランドだのニッチマーケットだのはもはや意味をなさない。

さらに伝統的なカーメーカーにとっての逆風は、今まで培ってきたノウハウが無価値になるということ。

どういうことかといえば、完全自動運転車にはドライバビリティが要らない。加減速、コーナリグは決められたロジックで行うからドライバビリティは商品としての評価対象外となる。電車の加速やコーナリングに乗客が関心を持たないのと同じだ。実際この部分はカーメーカーのテストドライバーとエンジン、サスペンション制御技術によるノウハウの塊で、新興メーカーが真似できない分野だった。

あとは衝突安全。これもボティ構造やエアバック等についてカーメーカーに多大なノウハウの蓄積があるが、自動運転車は原則事故を起こさない。ノウハウばかりではなく、衝突安全を考えなくて良くなれば車のコストは劇的に下がる。新興メーカーや、場合によっては日立のような運輸車両を作っているメーカーでも車が作れる様になる。これらの要素をすべて勘案すれば、自動運転車のハードウエアは付加できる価値が少なくなることから今まで以上に厳しいコスト競争に晒され、結果世界で生き残るのは数社ということになるかもしれない。

私は、ドイツ車メーカーはここまで読んで自動運転に参入し、今のうちに出来る限り先手を打とうとしているのだと思う。


自動車のアルコール検知器とその普及について

2015年07月05日 | ITS

最近また飲酒による重大事故が発生していて、特に飲酒をごまかすために通報せずにひき逃げするという非常に良くない現状もある。福岡の事故以来飲酒運転への罰則が強化されそれは確かに効果があったが、やはり根源的に飲酒運転をなくすためにはアルコール検知器の装備しかない。

アルコール検知器についてはかなり研究が進んでいるが、普及する兆しはない。そんな中で、アメリカ運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)がシステム開発に着手したという記事を見つけた。FUTURUS記事

実際に、技術的にはアルコール検知による始動阻止はそれほど難しくない。すでに息を吹きかける方式のイモビライザーはずいぶん前に完成している。NHTSAがどこかと組んで開発することは簡単だと思う。

問題はどうやって普及させるか。NHTSAは、「標準装備を強制するつもりはない。メーカーの判断もしくはユーザーの選択にまかせる」というコメントをしたそうだが、それでは絶対に普及しない。

この装備はエアバックや衝突安全装置と根本的に異なる。飲酒運転をしない大多数の人にとっては無用の装備で、絶対にそれに対価を払わない。飲酒運転をしたい人には邪魔な装備であり、これまた絶対に対価を払わない。つまり行政による強制装備以外は絶対に普及しない。例外はフリートユーザーが自社ドライバー、社員に飲酒運転をさせないために装備するケースだろう。

ということで、NHTSAの現状のスタンスではどんなに優れたシステムを開発しても普及せず、飲酒運転による悲劇も無くならないということになる。

個人的な意見としては飲酒運転の検挙歴がある人は自費で装着しなければならない、というあたりでなんとか立ち上げてほしいと思うが、いずれにしても行政が動かないことには一歩も進まない話なのだ。