新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

10月18日 その2 何故我が国の労働生産性が低いのだろうか

2020-10-18 17:19:53 | コラム
何故我が国の労働生産性が低いのか:

紙業タイムス刊行のFuture誌10月26日号の我が国の労働生産性の低いことを採り上げた記事を読んで、私なりに下記のように「何故か」を考えて見た。

私は1972年に初めてMeadでアメリカの生産の現場を見て、更に75年からウエアーハウザーに転じて関連産業界の現場も見て、思うところが合った。それは「アメリカの産業界は生産効率を追求する為に『少品種大量生産』に徹している。その為には少人数で現場を回してコスト軽減を計りそれなりの効果を上げている。その為に労働生産性が高いのではないか。従って国際市場においても競争能力が高いのではないか」だった。念の為に確認して置くが、1970年代後半のことである。

しかも、アメリカの製造業では少品種大量生産に適したようなスペックを設け、需要者にとって如何なる製品が都合が良いかは余り配慮することなく、飽くまでも生産効率を追求している(product out等という表現があった)のだ。また、それが株主に報いる為でもあった。しかも、消費者は我が国よりも遙かに品質に対して寛容で、その製品が使用目的に叶ってさえいればいれば満足するし、外見の良し悪し等には特に気にしていないという傾向が顕著なのだ。極論を言えば、そうであるからこそ、日本車が「品質が良い」と受け入れられ良く売れたのだと言える。

一方の我が国では、私は「多品種少量生産に徹していて、労働力の質の高さと高い技術力で高品質の製品を生み出し、国際競争力までをも高めることに成功していたのだった。その背景には「教育程度が高い労働力がある上に、小器用に小回りする技術的な能力があったことに加えて、嘗ては二重構造とある意味で自虐的に呼んでいた下請けの中小企業の職人技的技術力の活用があった」と考えるようになっていた。下請けの能力の高さを表す例としては、紙パルプ産業の関連産業である印刷業界には、下請けに徹して営業担当者不在の中小印刷業者があったほどだった。

私は「下請けの中小能力に依存してきたことだけが、労働生産性の低さを招いたということの主たる原因である」とまで断定するものではない。だが、そう考えられる要素はあると思っている。我が国の労働生産性が他国との比較で低いというのは、取りも直さず中小企業の数が圧倒的に多いことにあるようには思えるのだ。アメリカで経験した限りでは、中小企業を下請けにしている例を知らない。ウエアーハウザーには多くの大小の出入り業者があったが、下請け(sub-contractor)という言葉を聞いたことはなかった。Future誌の記事を読んで、このように感じた次第だ。


我が国の労働生産性の考察

2020-10-18 11:10:55 | コラム
我が国の労働生産性は低いようだ:

この「低い」という点に関しては、菅首相のブレインの1人であると報じられている小西美術工藝社社長のデイヴィッド・アトキンソン氏が事ある毎に指摘し、その原因に我が国の会社(3万数千社あるというという組織)の90%以上を占める中小企業にあると力説されていた。だが、実務の世界を離れて30年近くも経ってしまった私には、嘗ては世界でも最上位にあると信じていた我が国の労働生産性が低いと指摘されても「はい、そうですか」と、唯々諾々と信じる訳にも行かなかった。

そこに、紙業タイムス刊行の“Future“の10月26日号に「産業別労働生産性水準の国際比較」と題する記事があり、日本生産性本部がこのほど公表した「産業別労働生産性水準(2017)」と題したレポートから引用した記事を発見した。そこには、我が国とアメリカ、ドイツ、イギリス、フランス等の4ヶ国との17年のデータとの比較が掲載されていた。それを見る限りでは、アトキンソン氏の指摘は遺憾ながら事実であるとしか思えないのだ。そこで、以下にその具体的な数字を引用していこうと思う。

第1表にはアメリカを100とした場合の対比が産業別に詳細に出ているが、総合的には製造業・建設業・農林水産業では我が国12年に61.6、17年には69.8と相対的に低く、業界別では僅かに化学が128.3とアメリカを凌駕していただけだった。サービス産業に至っては48.7だった。中でも最低だったのが情報・通信で13.9という惨状。余りの事に驚いて読み間違ったかと、拡大鏡を使って再確認したほどだった。

第2表は同じくドイツを100とした場合の我が国との比較で、製造業・建設業・鉱業・農林水産業では12年に84.1で、17年には83.0と微減だった。ドイツに優っていたのは17年では機械・電気器機・情報通信器機の240.8、化学の125.8、輸送用器機の117.6、金融・保険の114.1、電気・ガス・水道の101.2だった。最も劣っていたのが農林水産業の5.8で、次は鉱業の19.2となっていた。

第3表我が国を100とした場合の「製造業の世界19ヶ国の労働生産比較」であり、我が国はUKに次いで第11位だった。上からはアイルランドで432.1、次いでフィンランド、アメリカ、スウエーデン、フランス、オランダ、ドイツ、デンマーク、イタリア、UKは僅差の100.4となっている。因みに、19位はリトアニアで何と8.1だった。因みに、アメリカは143.2となっていた。

ここで、中間を省略して第6表の「サービス業の世界19ヶ国の労働生産性」に目を転じてみよう。私にも意外だったのは我が国を100とすると、何と第15位なのだった。第1位はルクセンブルグで238.3だった。そこで上位5ヶ国を見れば2位がアメリカで205.4、3位はオランダで161.5、4位はアイルランドで156.8、5位がドイツで151.8となっていた。最下位はリトアニアで22.4だった。因みに、我が国以下と判定されたのはチェコ、ギリシャ、ポルトガルであるのは、何と言って良いか解らないが腑に落ちない気がするのだが。

なお、専門科学技術、業務支援サービス分野では我が国が9位で、1位が216.1のアイルランドだった。情報・通信業では我が国が20位で、1位に1,233.9のスウエーデンが来ていた。アメリカは2位だが720.4だった。

以上をどのように読まれて解釈されるかは、読者諸賢の判断にお任せしたい。私には大手企業の労働生産性は高いのだが、下請けに中小企業を組織化している為に、そのアトキンソン氏が言う「中小企業の生産性の低さが、総合した場合に平均値を引き下げているのではないのか」と疑っているのだ。だからと言って、中小企業を整理しようというのは論旨に飛躍があるように思えてならないのだ。だが、「では、対策は」などと訊かれても、私如きがどうのこうのと言える分野のことではないと思うだけだ。アトキンソンさんは具体策をお持ちなのだろうか。

参考資料:紙業タイムス刊行 Future誌 20年10月26日号