新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

5月17日 その2 そこまでの事態になっていたのか

2021-05-17 11:32:28 | コラム
世界の新聞用紙の生産量と消費量:

紙パルプ業界に特化している出版社、紙業タイムス社の週刊誌版の“Future”誌では、2週連続で「世界のグラフィック用紙市場」を特集している。その中で最も私の興味を惹いたのが、上位20ヶ国における2019年度の新聞用紙の生産量と消費量だった。この特集はアメリカの紙パルプ産業界専門の調査機関であるRISIが発表した、2020年度版の「アニュアルレヴィウー」に基づいている。

「何だ、今頃になって2019年の統計か」などと言われそうだが、この統計は世界の各国の全種類のグラフィック用紙(解りやすく言えば印刷用紙というか印刷される紙)の膨大な資料で、正直に言えば「善くぞ、ここまで資料を集めて纏められたものだ」と感心しているのだ。簡単に言えば、印刷用紙が如何にICT化の進捗の度合いに影響されていたかが見えてくる統計なのだ。

現にFuture誌の解説では「2019年のグラフィック用紙は構造的な市場縮減の継続から、生産が前年比△5.8%の1億885万トン、消費が△5.4%の1億979万トンとなって、1人当たりの消費量は14.4 kgという水準だった」となっていた。紙パルプ産業界出身者として後難を恐れて言えば「何とICT化の冷たい事よ」となる。ここまで減少していたかと、あらためてさ認識させられたのだった。

2019年の新聞用紙:
*生産量では第1位がカナダで251万6千トンで対前年比△11.8%、2位が我が国で242万2千トンで△6.6%、3位はロシアで156万9千トンで+2.8%、4位は中国で131万5千トンで△13.1%、5位はドイツで108万4千トンで△10.4%、6位はスウエーデンで88万9千トンで△9.0%、7位に漸くアメリカが現れて84万8千トンの△10.7%、8位はインドで83万5千トンの△14.1%、9位は韓国で72万トン△27.0%、10位はフランスで64万5千トンの△7.1%となっていた。

以下、英国、ノルウェー、ベルギー、オーストリア、オーストラリア、スペイン、スイス、フィンランド、インドネシア、スロヴェニアと続くが、何れの國もマイナス成長だった。

*次に消費量である。何と栄光の第1位は我が国で242万3千トンで△6.6%となっていて、微量だが生産量を超えていた。2位はインドで218万8千トンで△7.1%、3位はアメリカで185万8千トンで△14.8%。消費量が生産量を大幅に超えているのは、アメリカはカナダからの輸入に依存しているからである。4位は中国で176万7千トンの△11.1%である。思うにこの國のICT化は著しく進捗しているのだろう。5位はドイツで139万1千トンで△9.3%、6位は英国で75万8千トンの△9.3%、7位が韓国で51万7千トンの△4.4%、8位はイタリアで44万8千トンの△3.7%、9位はカナダで44万8千トンの△11.2%、10位はロシアで32万4千トンの△11.0%だった。

以下、フランス、オーストラリア、スペイン、オランダ、ポーランド、インドネシア、メキシコ、オーストリア、ベルギー、スイスとなっている。11位以下の國でプラス成長だったのはベルギーの3.2%のみだった。

以上が19年の統計であり、全世界でICTかと言うかデイジタル化が進捗していると解るし、21年の生産量と消費量は何も新聞用紙に限ったことではなく、マイナス成長が続いている事だろうと予測できる。悲しいことである。現に我が国でも東京電力は毎月の検針票を紙で通知するのを止めて良いかと尋ねてきたし、某銀行も定期預金の満期のお知らせの葉書を止めたいのだ通告があった。何れの場合も天然資源の節約だとうたっているが、「21世紀の今日にそんなことを言われては悲しい」のだ。我が国は世界最上位にある古紙再生国である。

参考資料:紙業タイムス社刊 Future誌 21年24日号



新手のカタカナ語かと思った

2021-05-17 08:44:32 | コラム
フレイルとヤングケアラーとは:

近頃、この二つのカタカナ語をテレビのニュース等で聞かされることが増えてきた。特に「ヤングケアラー」は如何にもカタカナ語であると思わせる語感だったので「なるほど上手いことを言うものだ」と寧ろ感心させられていた。そこでこの二つを考えて見ることにした。

フレイル(frail):
この「フレイル」の方は、聞いていて大凡の意味が採れたので、言うなればカタカナの造語に良くある「形容詞の名詞用法」かと見ていた。

ここで敢えて英文学科出身の蘊蓄を披露すれば、シェイクスピアの「ハムレット」の中にかの有名な?“Frailty, thy name is woman.”=「弱き者よ。汝の名は女なり」の一節がある。このfrailtyは形容詞のfrailの名詞形であって、カタカナ語にされている「フレイル」は、ひょっとしなくても「フレイルテイ」の誤りかと思った。そこで、検索してみると「日本の英語を考える会」の鶴田知佳子氏が以下のように論じておられたのを発見した。

>引用開始
「フレイルとは、健康で元気な状態から介護が必要となる状態の狭間を表します」という定義がされ、「足腰の力が弱くなることを予防するため」の運動のすすめをしているという。はて、フレイルがあたかも名詞であるように扱われているが、frailは形容詞で名詞ならfrailty になるはずではないか。しかしどうも健康長寿ネットで検索すると、「『フレイル』」は2014年5月に日本老年医学会からのステートメントで、欧米で使用されているFrailtyの日本語訳として初めて使用された言葉である」という。ということは、医学会が名詞として扱う判断をしたのだろうか。(以下略)
<引用終わる

私の推察するところでは1行目にあるような概念を表すために「本来は名詞であるべき所に、たった一文字の“frail”(フレイル)という形容詞を使ったのだろう」である。この単語の本来の意味はジーニアス英和には「体・人が(体質的に弱い、ひ弱な)とある。正直に言えば「このカタカナ語を創った方は、単語の知識が豊富だったらしいなと痛感した」のだった。私は自慢じゃないが、フレイルは上記のハムレットの例以外には知らないし、使った記憶がないように思えるのだ。

全くの余談だが、1969年に出会ったUKの大手製紙会社の営業部長氏に「シェイクスピアは“Frailty, thy name is woman.”と言っているじゃないか」と言ったところ、大笑いして“Shakespeare got it wrong.”と言った。“get it right”とすれば「正しく理解している」となる。

ヤングケアラー:
これは意外だったことに、歴とした英語で“young carer”となっていた。厚生労働省のホームページには「法令上の定義はありませんが、一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもとされています。」とあった。更に検索してみると「18歳以下の子供」としてある例もあった。そのような辛い立場にある子供たちを支援する「ヤングケアラー連盟」も設けられていると知った。テレビ報道では「そのように家族を介護するのは当然だと思っていた」と語る、高校の制服を着た女子もいた。

知らなかったこととは言え、世の中はこういう事が起きているのか、乃至はここまで来ていたかと、知らされた次第だった。思いがけないところで、勉強になったのだった。