Fish On The Boat

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『弱いつながり 検索ワードを探す旅』

2015-05-05 00:28:19 | 読書。
読書。
『弱いつながり 検索ワードを探す旅』 東浩紀
を読んだ。

挑発的だったり、
アジってるようなところもあったりしながらも、
しかし、しっかり全体としては落ち着いた論調で、
著者なりの「生き方」についての考えを説いている本。

金持ちになりたければ金持ちの知り合いを作ればいい、
みたいなのが書いてあったけど、それなんですよね。
この場合は、金もうけのノウハウなんかが
わかるようになるからっていう理由があるけれど、
でも逆に、漠然としながら利益にならない人は
きりすてられていくものなのかもしれないという論理に行き着く。

環境を変えていくことで自分の幅が広がっていく、という。
境遇のよろしくない人の方へ近寄って環境の幅を広げる人って、
なかなかね、義侠心がないとしないだろうなと思います。
自己の利益を求めるのが、優先順位一位で、
それが二位以下とかけはなれて優位であって、
それでいて義侠心の無い人っていうのは多いような気がする。

自分はなにも不幸なにおいはしませんっていうのを、
たいていの人は目指していたり前提としていたり。
そのために切り捨てられる物事や人ってありますよねえ。

そう始めの方で感じて、ムムム・・・と顔をしかめたのですが、
中盤から最後にかけて、そこを補う論考が出てきました。
それはルソーのいう「憐れみ」です。
人間は他人の苦しみをまえにすると「憐れみ」を抱いてしまい、
ゆえに群れを作り社会を作っているのだ、とする考えです。
加えて、リチャード・ローティという学者の言葉で、
人間の連帯で重要なのは理念の共有ではなく、
「あなたも苦しんでいるのですか」という問いかけだ、というものもでてきました。
ここは以前の著者の著書である『一般意志2.0』にもあったことでしたが、
村上春樹さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』に出てくる、
人と人との繋がりは、傷や痛みなどによってこそのもので、
そういうのこそ真の調和なんじゃないかっていうところとリンクします。

つまりは、本書の前半で予感された社会的排除の可能性が、
後半で社会的包摂の方向に帰結した、ということになります。
これはうれしい点でした。

また、ひとつの場所にとどまって、いまある人間関係を大切にして、
コミュニティを深めて大切にしろという「村人」タイプ、
ひとつの場所にとどまらず、どんどん環境を切り換えて、
広い世界をみて成功しろという「旅人」タイプという二種類の生き方だけではなく、
その中間のような「観光客」という生き方を提示し推奨していました。
ある程度の無責任さでもって、頭の中にない物事、事物を見知っていくこと、
そうやって新たな検索ワードを手に入れることこそが、
大事じゃないかという話でした。

この「旅人」タイプというのが都会的なんだろうと思いましたが、
これだと、旅の恥はかき捨てのように、
使い捨てに近い精神で利己的に生きていくスタイルのように思えるのです。
そこには、サイクルが無い。
サイクルのないところにサステナブルはないでしょう。
一方、「村人」タイプにはサステナブルはあるでしょうが、
既得権益だとかしがらみだとかが生きやすさの邪魔をするでしょう。
そういう点からいって、「観光客」という中間的なポジションのタイプの提唱は
苦し紛れにみえるかもしれませんが、柔軟な創造だと言えると思います。

他に補うものとして「言葉と物」についての論考などもあり、
長大な書物ではないですが、芯のある本でした。


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