Fish On The Boat

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『銭湯図解』

2020-06-07 17:46:59 | 読書。
読書。
『銭湯図解』 塩谷歩波
を読んだ。

あたたかみのあるイラストで図解されたさまざまな銭湯。
都内の銭湯が中心ですが、千葉や徳島など地方の、
個性が強かったり愛情にあふれていたりする銭湯もピックアップされています。

著者の塩谷さんはもともと建築設計事務所で働いていた女性です。
『銭湯図解』も建築図法である「アイソメトリック」という技法で描かれている。
内部構造を、角度をつけて俯瞰的かつ微細に描いてあります。
まるで箱庭を眺めているような心はずむ楽しさを感じながら眺めてしまいました。
画風も水彩絵の具による彩色も、やわらかであたたかい。

ひとつの銭湯につき、見開き二ページで図解をし、
解説にそのあとの二ページ、合計四ページを費やしています。
解説文では、著者が設計に携わっていたことをほうふつとさせる、
造形に対する事細かな描写とゆたかな語彙が、
穏やかめの泡風呂のような心地よい刺激を読者の脳にもたらすでしょう。

僕は銭湯という世界をまったく知らなかったのですけども、
こんなに豊潤で色濃く、ポジティブな世界があるんだなあ、と
抽象的な部分ではそう感じました。
また、電気風呂やジャグジーなどのお風呂の種類もそうですが、
浴室の装飾や配色にしたって、作り手も楽しめるし受け手も喜べるし、
っていうWin-Winな業界なのだなあということも知ることができて、
今までずっとこの世界を知っていた方々が羨ましくもなりました。

都内だと料金はたいてい、460円だそうです。
そのほかに、ドライヤー代やアメニティ料金がかかったりもする(無料のところもありますね)。
著者は、風呂上がりによくビールを呷っているようで、飲食できる銭湯も多いみたいですから、
そういう楽しみもあわせて銭湯へ行く計画を立てると楽しそうです。

名前も知らない人と、湯船で裸の付き合いをする。
あれやこれや、短い時間にくだけた気分で言葉を交わす。
からだはぽかぽかで、日ごろの疲労で凝った肩や腰の筋肉もほぐれていく。
そればかりか、いっとき、気がかりなことや不安なことだって忘れていたりもして。
視界には富士山のペンキ絵。雄大。
こんなどかーんとゆるまった空間なんて、
いそいそとした世知辛い通常の世界からみごとに切り離されている感があります。
そういう世界がちゃんとあった、っていう発見ができてすごくよかった。
また、仕事として『銭湯図解』は良質のエンタメです。
著者に拍手を送りつつ読了、と相成りました。

著者 : 塩谷歩波
中央公論新社
発売日 : 2019-02-20

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