Fish On The Boat

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『樹木ハカセになろう』

2020-06-26 12:59:15 | 読書。
読書。
『樹木ハカセになろう』 石井誠治
を読んだ。

樹木に関する「なぜ?」に答える、
読んで洞察の仕方が学べるような本です。
岩波ジュニア新書ですから、中学生前後向けなのでしょうけれども、
オトナが読んでも発見だらけの内容でした。

トピックのひとつに、巨木になる条件がありました。
その育ち方、年輪の重ね方についてです。
日陰ですこしづつ育った木は年輪が細く堅くしまっていて幹が強い。
そのように育った木が、
周囲にあった巨木が倒れるなどして急に日あたりのよい条件になって急成長しても、
芯がしっかりしているから幹が弱くならず、しっかりと枝葉を広げることができるのです。
こういう木は、巨木になる素養がある。

逆に、植林して下刈りをし成長を早めた木は年輪が広く、柔らかい材になる。
材にしたときの強度に問題は無いのですが、
生きている状態だと腐朽が進みやすく、長生きできない。
つまり、生育を早くして幹を早く太くした木はそのぶん、腐りやすくなる。
こういう木は、巨木になれません。

このような話は、人間の生き方にもアナロジカルに感じられませんか。
こういう文言もありました。
「シンプルな構造であるほうが、環境の変化に適応しやすい。」
樹木に対する言葉なのですが、
それでいて、人間の生き方へのヒントにもなるような気がしてきます。

このようにして、人生訓のように考えてみることができるトピックがあります。
それとは別に、雑学的な刺激となるトピックもあります。

たとえば、
北米に生えている、ブリッスルコーンパインっていう松の写真があります。
世界一長寿の、樹齢4500年だそう。
(ここまで永く生きていると、もう死ぬ気がしないんじゃないかな。)
また、おなじく北米のジャイアントセコイア。
杉の一種で、115mあるものもあり世界一の高さ。
高層ビル30階建ぶんくらいあるようです。

というように、幅広く、わかりやすく、175ページの分量なのですが、
ぎゅうっとエッセンスをつめて、
樹木を各方面からまるごと味わってみる本となっています。
光合成の説明や根から水を吸収するメカニズムなどはもちろんのこと、
樹木の歴史に関する章もありますし、
さまざまな木の種類の個性を解説してくれる章もある。

「あ、これって違ったんだ。」と思った話もあって、
それは、幹に聴診器を当てて「水が流れるザーっという音が聴こえる」というものでした。
たしか、学校の先生から聞いたような気がしますが、これは間違いで、
枝や葉が風にざわめく音が幹に伝わっているのが聴こえる、というのが正解です。

あと、木の剪定についての話。
何も考えないで剪定している場合がけっこうあるとのこと。
葉を落としすぎたり、落とすべきではない枝を落としてしまったり、
木を枯らせる剪定が多い、と。
もともと、限られた空間の庭に木を生えさせておく伝統のある日本では、
木の剪定術の知識と技術はあったそう。
ただ、昨今の剪定された木を眺めると、
その伝承は途切れてしまったのではないか、と著者には見えてしまうそうです。

そんななか、樹木医という職業が1990年頃にでき、
森林インストラクターという資格も持てるように整備されてきたということです。
林業や森林管理の隙間の一部を埋めてくれる分野かもしれません。
いろいろ興味を持って知ろうとし、知識を深めるのはよいことですから、
その興味の対象が身近な存在である「樹木」であることだっていいのだし、
きっと、知れば知るほど樹木の分野の深さがわかり、
いわゆる「沼にはまる」ように楽しめてしまうと思います。
そして、前記のように、
人生のあり方についてのアナロジカルなヒントを得られたりもするでしょう。

子どものうちから興味を持つと、
大人になってから進路を取りやすいというのはあるでしょうけれども、
年輪の話のように、
巨木を目指して、少しずつ固めていくように基礎をやるっていうふうに、
今回の樹木にしてもなんにしても、
やっていくと強いのではないかなあという気がしました。


Comments (2)
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