Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『東京どこに住む?』

2020-06-14 20:47:25 | 読書。
読書。
『東京どこに住む?』 速水健朗
を読んだ。

人口移動の東京一極集中が顕著になってひさしいですが、
本書は、その東京のなかで特にどこに人口が集中しているのかを明らかにし、
なぜ東京に人が集まるのかについてまず考えていきます。
さらに、東京のみならず世界的傾向として大都市への人口移動の傾向が高くなっていること、
そのことについても、さまざまな学者の説を引きながら、なぜかについて論じています。

かつては、東京の西側(皇居を中心にして西側)の方面に
住居を構えるのが定石だったそう。
郊外の一軒家にしても団地にしても、東京の西側が理想とされたのだ、と。
「西高東低」なんて言われ方がしたくらいだそうですが、
いまや、東京中心地や東側の下町方面へ、人口移動が盛んになってきているみたいです。

そこには、職住近接という流行が存在する。
さらに、職住近接を肯定する、集積の論理が働いているようです。

長い通勤時間はかかるけれど、比較的広い住みかと都心よりも安い家賃の郊外を選ぶ人と、
家賃は高いけれども、通勤時間の短縮で時間に余裕が持てることを選ぶ人がいる。
両方を天秤にかけて、どうトレードオフするかをそれぞれが考えて決めている。
そのなかでも増えてきているという都心周辺や東側の湾岸地域に居を構える人たち。
そこには、住居の近くにおいしい居酒屋やバルがあるだとか、
わざわざどこかへ出ていかなくても楽しめるお店が住処の近くに増えたことが、
そういったライフスタイルの変化を促している、と著者は述べている。

そして、集積の論理によって、さまざまな人々が混じり合うように接点を持つと、
商売も文化も、いろいろなことが正のスパイラルに乗っていくことも論じられる。

集積の論理の点ではアメリカのポートランド
(アメリカには2つポートランドがありますが、オレゴン州のほう)
を例に解説されています。
そこでは、住んでいる人たちの意識が「本当にいいもの」志向で、
なおかつ、それを自分たちでやっていこうとうしている。
根本に自主性や自律性があるんです。
そして、そんな魅力的な「本当にいいもの」の揃った町が、
ぎゅっと自転車移動圏内に凝縮されていて、
買い物に便利なうえに楽しいし、
異分野の人たちの密な交流からさらにおもしろいものが生まれたりする。
集積の論理とは、そういった「かけ算性」の論理だと思います。
本書では、また違った角度から語っている箇所がありますので、
興味のある方は手にとって見てください。

昔ながらの“閑静な住宅地”とは逆に
「住宅地によいバルがあって」など、
ほどほどに賑やかな住宅地の方に人々の好みがシフトしていってる、と本書にあります。
そしてそういう集積の仕方が町の活性化の源だ、と。
(この集積の論理を押さえないコンパクトシティ推進には意味はないのでしょう)
働く場所、住む場所、食べる場所、買う場所。
それらが近接してこそなんですよねえ、集積の論理っていうのは。
静かなところが好きな僕はちょっと疲れそうだな、と思いました。

本書ではほかにもさまざまなトピックを扱い、多角的に東京一極集中について述べている。
いかにも「新書」というような読みやすさと軽さとまとまりのよさ。
そして著者の情報処理に抜きんでた力をぞんぶんにいかした類の本、といった印象でした。


Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする