Fish On The Boat

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『きりこについて』

2020-07-31 20:38:24 | 読書。
読書。
『きりこについて』 西加奈子
を読んだ。

最初の1ページ目から語り手に、
「ぶすである」ことを疑うの余地すらないゆるぎない真実として語られてしまう、
きりこを主人公に、200ページあまりを使って、
人間の外側と内側をわからせてくれる小説です。

相棒のような愛猫、ラムセス二世に助けを借りながら、
きりこの人生、そして他の登場人物たちの人生は、
多くの人の人生のように難路を進んでいく。
しかし、読み終えたときには、
みんながその難路を自分なりに懸命に足を踏みしめて
進んできた足跡を見渡せるようになっていました。

読書中に立ち止まって考えたのは、
現実逃避っておもいのほか大切なのかもしれない、
肯定するべきものなのかもしれない、ということでした。
自分の身を守るのに、実は現実逃避って大切だなあと読みながら考え直しました。
また、こういうお話を読むと、中盤までなんて子どものあれこれの話なのに、
いや、だからなのかなんでなのか、
自分のオトナの部分がよりくっきりしてくる感覚がありました。

そして、自分の罪業についても思いを巡らせることになっています。
奢りからの転落という要素もあったなあ、
とこの読書で獲得した新しい視点で過去を見つめもしています。
こういうことも、本書の内容や感覚からみれば、
真面目にやりすぎなさるなよ、と作者に言われそう。

本書での作者の書き方って、
堂々と正面から書いている雰囲気が文体からはっきりと漂いでていて、
まるで、地べたを裸足で踏みしめながら光の射す方へ歩いていっているような書き方です。
一歩一歩、確実に、急がずに歩いていくイメージでしょうか。

そして、内面を見つめながらも、ちゃんと社会で生きていくことから逸れません。
社会的な自分と、私的な自分の、両方を立てるポジションをつかんで、
幸せに生きていこう、という作者のビジョンがにじみ出ているように、
僕には読み受けました。
ともすると、私的な自分ばかりが大事なんだと考えちゃいそうなんですが、
そこで踏ん張れるところが西加奈子さんの生命力なんだなあ。
きっと、処世術だってバカにしない作家なんだと思います。

ざっくばらんな筆致とユーモアに誘われていくその先には、
不衡平な女性の地位という、
みんなで話し合われるべき社会的かつ人間的なテーマが横たわってもいました。

西加奈子さんの作品は何冊か読んでいますが、
なんていうか、地熱のようなエネルギーのある方、という印象なんです。
まだ積読に何作品かありますし、また触れてみるつもりです。
本作品も、ところどころですごいなあと思いつつ、とてもよかったです。

著者 : 西加奈子
角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日 : 2011-10-25

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