Fish On The Boat

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『「公益」資本主義』

2020-07-15 18:08:40 | 読書。
読書。
『「公益」資本主義』 原丈人
を読んだ。

英米主導のグローバリズムは、
英米の基準や価値観、考え方を諸国に押し付け、
英米が利する世界になることを理想とする主義だといっていいものです。
そこには、グローバリゼーションの名のもとに、
各国・各地域の多様性をおしのけて一律化をすすめていく作用が生じている。
その波は確実に日本をも飲みこんでいて、
90年前後にバブルがはじけてから敬遠されるようになった「日本型経営」を、
より排斥していく方向に力が働いてきた。

グローバリゼーションを進めたアメリカの資本主義は、
いまや「株主資本主義」と言われます。
株主の利益を最優先事項とし、
会社は株主のものであり、株主の利益を出すために隷属したものだと
当り前のように考えられている。
利益を得るため、それもできるだけ短期間に株主が大きな利益を得るために、
研究開発などの中長期のビジョンを会社に捨てさせて、
短期の利益ばかりを考える戦略をとらせ、
ことによっては従業員をリストラしてまで株主や役員が大きな収入を得る行為をします。
もはや、我利我利亡者といった体です。

こういったスタンスの帰結するところが、貧富の拡大、格差の拡大なのでした。
会社が利益を得ても従業員の給与は上がらず、株主や経営陣に還元されます。

くわえて、ヘッジファンドやアクティビストの存在があります。

ヘッジファンドとは、株価や商品の相場、通貨相場などにおいて、
「将来の理論値と実態との乖離」に着目して資金を注ぎ込み、
利ザヤを稼ぐことを目的としたファンドのこと。(P87)

アクティビストは、かつてのサッポロビールやブルドッグソースに
TOB(株式公開買い付け)を仕掛けたスティール・パートナーズや、
ニッポン放送や阪神電気鉄道の株を買い占めて話題になった村上ファンドのような、
いわゆる「モノ言う株主」です。
しかし、彼らはなんのために「モノを言う」のか。
「健全な企業経営」のためではなく、
その企業が持っている資産の売却や現金の配分こそ彼らの狙いなのです。(P87)

これらが合法的に行われる現行の資本主義、
つまり、ただ金さえ増えればよいという価値観で動いている
「株主資本主義」や「金融資本主義」と呼ばれるもの。
このかたちでの資本主義によって、グローバリズムが広がった日本などの先進国、
それはグローバリズムの旗手である英米も含むのですが、
それらでは中間層がなくなり、スーパー富裕層と貧困層の二極化を生みました。

本書は、こうした現行の資本主義のおかしさをはっきり指摘したうえで、
「株主資本主義」に代わり、なおかつより豊かな世界をもたらす
「公益資本主義」を提唱するものです。

「公益資本主義」は先述の「日本型経営」に立ち帰るような要素のある考え方です。
「会社は株主のものである」ではなく、
「会社は社会の公器である」とします。
株主だけを優遇するのではなく、
従業員、顧客、地域、地球環境などに、公平かつポジティブに働くような主義です。
著者は、この「公益資本主義」をアメリカ人に説いたときに、
「共産主義じゃないか!」と言われたことがあるそうですが、そこは違うと否定しています。
「公益資本主義」は利益あってのものですし、
「株主資本主義」よりもたぶんに持続性もあり、そのうえで収益もそれ以上にあげられるようです。

詳しくは本書をあたってほしいのですが、
格差の進行する「株主資本主義」というものが、
歪んだ資本主義であることを意識できるようになるだけでも違うと思います。

だいたい、株の取引でも昨今はAIにまかせて一秒間に一万回の取引をやっている世界です。
そうやって、実体のない数字上の浮き沈みで儲けようという人たちが富を得ている。
彼らは株価の乱高下こそが儲ける状況なのをわかっていますから、
経済に安定を求めていないようです。

ヘッジファンドだとかでお金を儲ける人は、
人生にどういうゴールを設定しているのかをちょっと想像してみました。
40代で引退して南の島でヨットに乗って……
みたいなアメリカ人のエリートにありそうなゴールの設定をして、
そこからバックキャスティングして生きているとしたら、
ヘッジファンドやアクティビストになるのかもしれなくないですか?
つまりは、社会とどうかかわっていくのが人生なのか、という人生観や、
世の中をどう見ているか、という世界観が、
彼らにとってはそのような生き方を選択させるものとなっているのかもしれない。

とはいえ、
「人生観は自分で築き上げた」というようでいて、
人生観・世界観などの価値観というものは自分ひとりで選択してきたものではなく、
価値観への深い影響の相当の部分は外部によったのではないかと考えもできます。
産まれたときから社会がそうだった、家族がそうだったなど、
特別に意識していない影響があって、
40代で引退して南の島でヨットに乗って……
を理想とするようになるとも考えられるのではないでしょうか。

……と、少しばかり脱線しました。
原さんの著書は前にも一冊読んでいます。
そしてその前には、
WEBサイト『ほぼ日』での対談を読んでカルチャー・ショックを受けていた。
それまで原さんを知らずに生きてきて、
「世の中こんなもんじゃろ」と思っていたのだけど、
原さんの対談を読んでみて、彼の話と彼自身のそのスケールのでかさや、
照らし出す領域の新鮮な開拓感に触れることができて、
ぱーっと頭を刷新されるものがあった。
このような経験を、ぜひ、いろいろな方にしていただきたいです。

本書には、著者自身の経歴を語る章もありますので、
「これって、ほんとうにすごいよ!」と、
圧倒されて笑ってしまうしかない体験をしてみてください。

最後に、
今年2月の甘利議員のWEBコラムにて、
原さんの「公益資本主義」に触れながら、
アメリカで主流の「株主資本主義」が変節を迎えているとありました。
これは好い流れですね。


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