Fish On The Boat

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『スティグリッツ教授の これから始まる「新しい世界経済」の教科書』

2021-12-12 18:21:40 | 読書。
読書。
『スティグリッツ教授の これから始まる「新しい世界経済」の教科書』 ジョセフ・E・スティグリッツ 桐谷知未 訳
を読んだ。

台頭著しい中国とは違った意味で、世界経済のこれからを考えるうえでその動向をもっとも注視しなければいけない国がアメリカです。なぜなら、アメリカはこれまで経済のグローバル化を推し進めてきた国であり、昨今力が落ちてきたと言われつつも、まだまだ世界の中心にポジションを取り続ける国だからです。

グローバル化の過程でアメリカは自国のルールを他国との貿易や経済のルールにおいても適用してきました。つまりグローバル化の主導権を握ってきた国であり、そのことはいわずもがなだと思います。そんなアメリカの国内では格差の拡大、それも富める1%と下位に属する層とに別れてきていて、中間層が空洞化しつつあるようです。この状況は日本の状況ともとても似ています。本書はそんなアメリカの経済状況の現状を分析し、なにがいけないのかをノーベル経済学賞受賞のスティグリッツ教授を中心としたルーズヴェルト研究所のグループでの共同研究の結果と提言を著したものです。アメリカ国内で貧富の差が拡大しているのに、そのルールを他国にもお仕着せるようでは他国も同じ目に遭います。本書のタイトルに『「新しい世界経済」の教科書』とありますが、グローバル化によって多くの国々に蔓延したアメリカと同様の格差社会を是正する方向性こそが新しい世界経済であるとの観点からのセンテンスだと思います。

僕たちが生活していて不安や不平等を感じるときというのは、少ない給与や不十分な利益、未来に対する不安などがあると書かれています。それを氷山の海面上にでた部分に喩えて、海面下のすぐ下の部分にあたるところに注目するのが本書です。そこには、経済の規制、税制、労働法があります。富める上位1%を優遇してどんどん富むようにしていくように、規制も税制も労働法も機能している。この何十年前からの経済システムの設計のありかたに今日の中間層の零落すなわち貧困層の拡大の発端があるのだと指摘されています。ここを具体的にどう良くない機能をしているかを前半部では述べながら、後半部でその打開策を提言しています。

読んでいて晴れ晴れする気分になるところが多いのは、一般人(僕のような者だとかです)が肌感覚で感じているんだけど言語化がままならないものを見つめて表現してくれているからでしょう。本書で具体的に指摘している部分って、実は市民感覚と繋がっているんです。

そして、どうして格差社会がいけないのか、と問う人もいると思うのですが、格差社会のほうが経済は発展しないからというのがまずひとつあります。中流層が多くて元気なほうが経済は発展していくと経済学の研究としてわかっているのだそうです。経済が発展するほうが豊かでしょうし、より多くの人が不安の少ない生活、または幸せを感じられる生活を送れるほうが豊かだというのがふたつめの答えです。

本書を読んでいてやっぱりこれだよなあと思うことがいくつもありましたが、他の本などでよく目にしてきた「企業の短期主義」についてもちゃんと書かれていて、これについても規制やルールの作り方によって長期主義が有利になるようにデザインすることが大切になるという主旨でした。まったくそのとおりだと思います。

最低賃金のパート労働だとかは、グローバル化でしょうがないなんて言われ方もあるでしょうけれども、はっきりいうとまあ搾取なんですよねえ。

あと、面白かったのは、アメリカのFRBが完全雇用率達成よりもインフレ率を抑えるほうに大きく傾いてきていてそれが問題だという指摘でした。失業率が下がっていき完全雇用率が達成に近づくにつれて、お金がより多くの人に回るようになるのでインフレが起こるというのが理論的な見解だそう。インフレがすすむとお金の価値が下がりますから、国全体・国トータルでストンっと貧しくなるイメージが湧きます。本書を読むと、もっと多岐にわたるインフレのネガティブな効果と、その真偽についてわかるのですが、ここでは説明にかなりの字数がかかるので割愛します。著者は完全雇用のほうが大事だ、と主張するのですが、それは完全雇用が達成されて、労働市場において労働者の取り合いになる状況のほうが、労働者の立場が強くなり力をもつようになるので、賃金の上昇だって望めるのが第一としてあります。そうなれば、中間層社会の実現に近づくという考えでした。
また、長きにわたって雇用状態にない人を作らない効果もあるんです。長きにわたって働いていないと、仕事をこなす能力が低くなるのでさらに採用が遠のき、ますます働けなくなります(ヒステリシス現象)。

と、消化不良気味のレビューなのですが、著者が言いたいのは、みんなで中間層になろうということです。1%の人だけが巨万の富を抱えて、さらにますます富んでいくなんておかしいじゃないか、それはルールや仕組みがおかしいからなんだ、ということです。本書の中身がもっとみんなの知るところになると、世の中の風向きが大きく変わります。そんな本でした。


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