
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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第35回 Guy Petrus Lignac <Ch. Gaudet-St-Julien>
世界遺産に指定されているフランスはボルドー地方のサン・テミリオン。
この町の中心部にあるシャトー・ゴーデ・サン・ジュリアンに、
当主のギィ・ペトリュス・リニャックさんを訪ねました 。

<Guy Petrus Lignac> (ギイ・ペトリュス・リニャック)
サン・テミリオン出身。
シャトー・ゴーデ・サン・ジュリアンの現当主。

歴史の町 サン・テミリオン
ボルドーの東20kmに位置するサン・テミリオンは、8世紀に聖エミリアンによって拓かれ、中世の時代にはスペイン北西部にある聖地サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼者の宿場町として栄えた町です。その歴史と巡礼者が通った石畳の町並みが注目され、現在は世界遺産に指定されています。
町の中心部の高台には教会と観光案内所があり、その周りにはレストランやカフェが軒を並べ、大型バスから降りた観光客が次々にやってきます。
でも、私が訪れた日は初冬ながら吐く息は真っ白で、指先からジンジン冷えてくる真冬並みの寒い日。しかも深い霧が立ち込めて薄暗く、たくさんいた観光客はいつの間にかいなくなっています。
人気のない町並みは、古い時代にタイムトリップしたようなミステリアスな静寂さに包まれ、サン・テミリオンの素顔を垣間見ることができたような気がしました。

Ch.Guadet-St-Julienへ
県道243号線とゴーデ通り(Rue de Gaudet)が交差する高台の広場から約50m下ったところにシャトーの入り口があります。といっても、まんまアパルトマンの1階という普通の家の扉で、本当にここがシャトー?といぶかしく思いつつも、呼び鈴を鳴らして入った先は、やはり普通の家の玄関がありました。
ところが、その奥に進むとかわいらしい中庭があり、中庭から醸造所とカーヴにつながっていたのです。

Q.シャトーの名前の由来は?
A.まず“Gaudet”ですが、法律家であり、ジロンドの代議士をしていたマルグリット・エリー・ゴーデに由来しています。彼の肖像画はラベルに残されています。
このゴーデ家が所有していたシャトーを我々の祖先が1844年に購入しました。
このゴーデの名は、町のメインストリートで、当シャトーの目の前の通りの名前(Rue de Gaudet)にもなっています。
なお、“サン・ジュリアン”は当家のカーヴに付けられた名前で、元々は人名に由来していています。メドックのサン・ジュリアン村とは関係ありません。

収穫の終わったサン・テミリオンのブドウ畑
Q.所有する畑について教えて下さい。
A.畑は5.5haで、石灰粘土質土壌の台地にあります。ブドウの平均樹齢は32年で、1haあたり5,500本植えています。
75%がメルロ、25%がカベルネ・フランで、収穫は手摘みで行います。当シャトーではカベルネ・ソーヴィニヨンはなく、メルロ主体であることがサン・テミリオンの特徴です。
生産量は、グラン・クリュ・クラッセの “Ch.Guadet-Saint-Julien”が年間平均22,000本、AOCサン・テミリオンの“Le Jardin”が1,200本です。

中庭にある井戸のような出入り口から地下カーヴに降りて行くことができます
Q.このカーヴはいつ頃つくられたものですか?
A.5世紀のガロ・ロマン時代のものです。このあたりは建築に使う石の産地で、石が切り出された跡の穴がワイン用のセラーとして使われるようになっています。

セラーの壁面には当時に描かれたと思われる、かすかなデッサンが
Q.このカーヴの温度や湿度管理はどのようにしていますか?
A.カーヴはクリーム色の石灰岩(ライムストーン)でできていますが、これにより、温度は13℃、湿度はだいたい65~70%に自然にコントロールされます。

Q.醸造について教えてください。
A.アルコール発酵終了後、一部は樽で、一部はタンクでマロラクティック発酵(MLF)を行います。その後ワインは18~24カ月樽に入れますが、年によって期間は違います。新樽の使用率は40~60%ですが、こちらも年の出来次第です。
樽はフレンチ・オークのみで、アメリカン・オークは使いません。
Q.あなたのワインの特徴は?
A.リッチで、なめらかさがあり、口の中でボリューム感が広がります。よく熟したフルーツのフレーバーがアロマティックで、良質のタンニンとスパイシーな感じのよく混ざり、凝縮感を感じさせるワインです。
説明するよりも、今からテイスティングをして確認しようじゃありませんか?(笑)

ラベルの人物がエリー・ゴーデ
<テイスティングしたワイン>
Ch. Gaudet-St-Julien 2002
メルロ80%、カベルネ・フラン20%。
タンニンは重すぎず、エレガントで、良いバランスを保っています。フィネスがあり、クラシカルなスタイルの、しかも飲みやすさを備えたワインです。
「アニョー(仔羊)やブフ(牛肉)の料理に。さらに魚料理にも合わせられるワインだと思いますよ」(リニャックさん)
Ch. Gaudet-St-Julien 2001
タンニンのストラクチャーがあり、ボディがしっかりとしてスパイシーで、これもクラシカルなスタイルのワインで、しばらく熟成させてから飲みたいと思いました。
「これも、アニョーがオススメですが、チキンやダックにも合います」(リニャックさん)

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■ インタビューを終えて
複雑な格付け制度
サン・テミリオンにはボルドーのメドックと似たような格付け制度がありますが、10年ごとに改定が行われます。前回の改定は1996年で、その次は2006年の9月でした。
1996年の改定では、シャトー・ゴーデ・サン・ジュリアンは“グラン・クリュ・クラッセ”でしたが、2006年の改定の際にクラス落ちしてしまいました。
この改定に対し、ゴーデ・サン・ジュリアンをはじめとした数シャトーは、「きちんとした調査がされていない状態での決定は公平でなく、大きな問題がある」と訴えを起こしたのです。
そしてその後、リニャックさん達の訴えが認められ、2006年の改定結果は保留となり、つまり、正式な結果が出るまでは、1996年の際の格付けのままでいくことになりました。
たしかに、格付けは消費者にとっては購入の際の目安になり、生産者にとっては市場での販売価格の決定を左右する重要なものです。
10年ごとの見直しというのは、高い品質を保持していくためのしかるべき措置かもしれませんが、格付けの基準を明確にし、公正な調査を行われた上のものでないと、今回のような混乱を引き起こします。
クラスが上がったシャトーにとっては、この保留措置はガッカリかもしれませんが、落とされたシャトーの被るダメージの方が考慮されたということになります。

そういった小難しい話は置いといて、リニャックさんの奥さまのカトリーヌさんが、
「私は都会で生まれて、結婚してサン・テミリオンに来ましたが、住んでみると本当におとぎの国のような素敵なところです。
ここでワインを毎日飲むことは文化のひとつで、あたりまえのことなんです」
と話してくれたように、格付けのことはひとまず置いといて、自分がおいしいと思うワインを好きなように飲んで、楽しもうじゃありませんか?

