
よって、現在はインタビュー当時と異なる内容があることをご了承ください。
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第36回 Fred Loimer <Weingut Fred Loimer>
今回のゲストは、最近注目を浴びているオーストリアのワイナリー
“フレッド・ロイマー醸造所” のオーナーのフレッド・ロイマー さんです。

<Fred Loimer> (フレッド・ロイマー)
42歳。ウィーン近郊のクロスターノイブルク醸造学校卒。
ドイツのナーエのワイナリーや、カリフォルニアのシュグ・ワイナリーでの修行を経て、現在はフレッド・ロイマー醸造所のオーナー兼エノロジスト。
国際市場で赤丸急上昇のオーストリア
芸術の都ウィーンを首都に持ち、ハプスブルグ家の栄華の香りが残るオーストリアで本格的なワインづくりが始まったのは、紀元前100年頃のローマ時代といわれています 。
そして現在、オーストリアのブドウ畑は48,000haあり、フランスのブルゴーニュ地方よりやや広いものの、ワイン生産量はブルゴーニュをやや下回り、しかも、緯度はブルゴーニュとほぼ同じ47~48度に位置しています。
ということは、ブルゴーニュ地方がそのまま東に移動したのがオーストリアと想像していただくと、イメージが掴みやすいでしょうか。
ただ、ワイン生産地が細長く縦に広がるブルゴーニュと違い、オーストリアの国土は東西に広がり、ワイン生産地は国の東側に集中しているという特徴があります。
オーストリアのワインは、国境を接し、ワイン法においても近いものがあるドイツと似ていますが、ドイツより南に位置してやや温暖なため、アルコール度数が高めの辛口ワインが多くつくられています。
その中でオーストリアワインを代表するものといえば、
グリューナー・フェルトリナーからつくられる辛口白ワインでしょう。
グリューナー・フェルトリナーはオーストリアの固有品種で、栽培面積は約37%を占めています。
また、古くからのワインファンにとっては、オーストリアといえば
新酒の“ホイリゲ”を思い浮かべることでしょう。
しかし、ここ近年は国際市場でも評価の高い高品質ワインがどんどん登場し、若手生産者の活躍も目立ってきています。
もちろん、今回紹介するフレッド・ロイマーも、その注目若手生産者の1人です。

Weingut Fred Loimer
フレッド・ロイマー醸造所は、ウィーンの北西70kmに位置するカンプタール(Kamptal)のランゲンロイス(Langenlois)にあります。多くのワイナリーが集中するランゲンロイスは、オーストリア最大のワインの町です。
オーストリアのワイン産地は大きく4つに分かれますが、カンプタールは、オーストリアのブドウ栽培面積の6割近くを占めるニーダーエステルライヒ州の栽培地区のひとつです。

Q.カンプタールの気候、土壌、畑の特徴は?
A.カンプタールは“カンプ渓谷”という意味です。この地域を南北に流れるカンプ川がつくった渓谷の土地で、南部のドナウ川とこのカンプ川の影響を大きく受け、小さいエリアに独特な気候が生まれます。
冬は寒く、夏は暑くて乾燥する大陸性気候ですが、北の森から涼しい風が吹くので、昼夜の寒暖の差が激しくなります。また、日本のような四季も見られます。
土壌はロームとレス(黄土)が中心ですが、原生岩土壌も見られ、丘陵地帯にテラス状の畑が広がっています。畑があるのは標高200~400mのところです。
Q.あなたのワイナリーは外観が美術館のようにスタイリッシュでモダンですが?
A.以前はランゲンロイスの町の外にセラーを持っていましたが、2000年ヴィンテージから新ワイナリーで醸造を行い、熟成と貯蔵もここで行っています。
これはウィーンの建築家にデザインしてもらいました。もちろん外観も自慢ですが、もっと素晴らしいのは、ワイナリーとしての完璧な機能です。
また、訪問者がワイナリーを見学したり、テイスティングしたりできる広いスペースもあります。
私はこのワイナリーの明るくて自由な雰囲気をとても気に入っています。
Q.最近ビオディナミ農法に切り替えたということですが?
A.ビオディナミはシュタイナーの理論ですが、経験豊かな生態農学者のアンドリュー・ローランド博士の指導の下、当ワイナリーは2005年の冬からビオディナミ農法を採用しています。
ですが、それ以前から20年間(父の代は30年前からで、その途中から)、ケミカルなものは使っていません。使用するのは硫黄と銅(ボルドー液)のみです。
我々は自然と一緒に働いていると考えているからです。
また、畑に多様性を持たせるため、ブドウ畑には花も植えています。
Q.あなたのワインの特徴は?
A.“モダンかつトラディショナル”なスタイルだと思います。
ステンレスタンクを使ったフレッシュなワインづくりを行う一方で、大きな木樽を使った伝統的な醸造方法も大事にしています。大樽はワインにストラクチャーと深みを与えてくれるからです。
ブドウ品種はグリューナー・フェルトリナーが中心ですが、この品種はスパイシーなスタイルを好みますので、それを生かしたワインづくりを行っています。
Q.あなたのワインづくりのコンセプトは?
A.“ヴィンテージと土壌の特徴を最大限に引き出す”ということです。
健康でバランスが取れ、根を深く張ったブドウの樹がブドウにテロワールの個性を与えてくれると考えているので、清澄をあまり強く行わない等、ワインに人工的な影響が及ぶのを限りなくゼロにするよう心がけています。
そうしてつくった私のワインは、カンプタールと私自身を鏡のようによく映し出したものになっていると思います。
Q.“Terrassen”(テラッセン)というワインがありますが?
A.ランゲンロイスのテラス状の畑のブドウからつくったワインです。それぞれの区画が小さいため単一畑として仕込めない畑があるので、それらをまとめ、“テラッセン”(テラス状の)という名前を付けました。
木のニュアンスを付けず、果実味を前面に出したスタイルのワインで、グリューナー・フェルトリナーとリースリングの他に、赤ワインのピノ・ノワールも少しあります。
Q.この地域では、テラス状の畑はよく見られるのですか?
A.畑の経済性を考えると、平地の部分は他の作物の畑や家畜の飼育用地にした方が良く、そこで、段々畑状のテラスの畑にブドウが植えられてきました。
しかし、テラスは斜面になっているので太陽の光がよく当たり、ブドウ畑としては非常に良い条件の場所なのです。カンプタールはブドウ栽培地としては北限に近いので、このように日射量を多く受けられるということは重要なことです。

<テイスティングしたワイン>
<Terrassenシリーズ>
Gruner Veltliner Terrassen 2005
5つの区画のテラス畑からのもの。マイルドな酸味とグリューナー・フェルトリナー特有のスパイシーなフレーバーと花のニュアンスがあり、春らしい彩の野菜料理にぴったり。アルコール度数13%
Riesling Terrassen 2005
リースリングはお隣のドイツが有名ですが、オーストリアでも重要な品種で、生き生きとした酸味が特徴です。これはより果実味を出すために、ステンレスタンクで醸造しています。きれいなミネラル感があり、酸がスックと伸びたワインです。アルコール度数12.8%

<シングル・ヴィンヤード・シリーズ>
Kaferberg Gruner Veltliner 2005
ケーファーベルクはラングロイスの北側の標高の高いところ(300m)にある畑で、気候はより涼しくなります。土壌は1700年前の片麻岩と粘土砂岩で、グリューナー・フェルトリナーの栽培に最適の畑です。アルコール度数13%
Spiegel Gruner Veltliner 2005
シュピーゲルは、風に吹かれてアルプスからの土地が堆積したレス土(黄土)の土壌で、グリューナー・フェルトリナーに向いています。土が珪素を含んでいるため、ミネラリーなタイプのワインになります。アルコール度数13.5%
Seeberg Riesling 2005
ゼーベルクは重たいスレート土壌で、リースリングに向いている畑です。ワインはフローラルで果実味に富んだものになります。アルコール度数13%
Steinmassl Riesling 2005
シュタインマッスルは痩せた片麻岩の石の多い土壌で、ここもリースリング向きの畑です。硬質なミネラル感が特徴のワインになります。アルコール度数13%

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■ インタビューを終えて
フレッドには、子供の頃、頭やノドが痛いといった仮病を使って学校の授業を抜け出し、よく父のいるブドウ畑に手伝いに行った、というエピソードがあります。
とにかく、小さな頃からブドウ栽培に興味と情熱を持ち、早く自分でブドウをプレスしてワインをつくりたい!と思っていたフレッド少年の情熱は今も失われることなく、いえ、年々その熱さを増し、国内外のコンクールでメダルを獲得するまでに花開いてきました。
ぱっと見、アーティストのようなクールでシャイな雰囲気の漂うフレッドですが、
「我々のワインは喜びを与えるためのもの」と、ワインを飲む者への愛情を忘れていません。

また、彼のワインは、ワインだけが先走るのではなく、食事にもよく合います。
例えば、テラッセンシリーズのフレッシュなワインには「野菜のテリーヌ」(写真左下)が、シングルヴィンヤードのグリューナー・フェルトリナーには「ウィーン風カツレツ(ウィンナー・シュニッツェル)」(右下)がお勧めだとか。


ウィンナー・シュニッツェルは、叩いて薄く伸ばした牛肉のカツレツですが、カツレツは日本でもおなじみの献立です。定番はトンカツですが、ビーフカツやハムカツもあります。
そう考えると、カツレツの温野菜添え などは今晩すぐにでもつくれそうですね。

一見、高貴でツンとし、ちょっと取っ付きにくそうに思えるオーストリアワインですが、フレッドと同様、実は両手を広げて温かく迎えてくれる穏やかなやさしさと懐の深さがあります。
どのワインにもいえることですが、ワインは飲んでみなければわかりません。
まずは、“レッツ トライ!”です。
取材協力:オーストリア大使館商務部
(株)日本グランドシャンパーニュ