ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

戦争と男と女とチーズ

2015-08-09 12:12:44 | 
チーズプロフェッショナル協会の監事をされている坂本 嵩さんが1996年に出版した『食後にチーズとワインを少し』(東方出版)という本が私の手元にあります。
もうずいぶん前に購入したものですが、坂本さんがチーズの産地を訪問した際の紀行文やエッセイ的な内容に加え、チーズの食べ方や料理レシピも載っています。

その中に印象的な話があります。
1961年に制作されたフランス映画 『かくも長き不在』 の中に登場するチーズについて書かれている箇所です。

パリ郊外の小さな町の教会広場で小さなカフェを開いているテレーズ、38歳。
第二次世界大戦の末期に夫アルベールがゲシュタポに連行されて以来16年、戦争は終わっても、夫は戻りません。今のテレーズには、年下で長距離トラック運転手の恋人がいます。
夏のバカンス前のある日、いつの間にか広場に現れた一人の浮浪者が夫に似ている?と、テレーズはふと気付くのですが、その浮浪者は彼女を見ても反応がありません。浮浪者の頭には大きな傷があり、自ら過去の記憶を失っていると言います。
果たして彼はテレーズの夫アルベール?

ある日、テレーズは浮浪者をディナーに招待し、最後にチーズを出します。

その時に、テレーズは彼に「好きなチーズがあるのでしょう?」と尋ね、ヒントを出すと、浮浪者は「メーヌのブルーチーズ・・・・よく乾いたもの」と答えるのです。

私はこの話の詳細が知りたくて、映画は無理としても、映画のシナリオとして書かれた本なら手に入るかもしれないと、Amazonで探し当てました。もう何年も前のことです。


『かくも長き不在』 マルグリット・デュラス、ジェラール・ジャロ著
(ちくま文庫)

この本は自分の部屋のよく目につくとところに置いてあるので、時々手に取ります。
特に夏前の季節から秋のはじめくらいまでの頃が気になるのです。

というのも、テレーズがかまをかけた「メーヌのブルーチーズ」が、あまり知られていない地方産の夏のチーズだからです。

テレーズは、言います。
「パリでこのチーズを見つけられなくはない、ただし、季節によってはね」
「メーヌのブルーチーズは、ロワール地方のメーヌ・エ・ロワールの夏のチーズ」

私が気になったのは、坂本さんもどんなものか気になっている、と書いている、このロワールのブルーチーズです。

パリではなかなか出合えないが、ロワールに行けば手に入る夏のブルーチーズ とは?

一応、CPAチーズプロフェッショナルの資格を持つ私ですので、フランス各地のチーズについての知識は当然持っていますが、原産地呼称の付いたチーズを調べても、その条件に合うものが見つけられませんでした。

ロワールのブルーチーズで、よく乾いたもの(セック)ということから、山羊乳のシェーヴルタイプで、サイズはあまり大きくないものでは?と推測しています。

今の季節にパリのチーズ専門店に行けば見つけられるかもしれません。
もちろん、ロワールのメーヌのマーケットやチーズ店に行ければベストでしょう。

これから、パリやロワール地方に出かける方は、ぜひ、このチーズを探してみてください。



私は、ここにあるわけがない、とわかっていても、6月末にイタリアから帰国する際に乗り換えたパリのシャルルドゴール空港の免税店のチーズコーナーで、それらしいチーズがないか探してみました。

もちろん、メーヌ・エ・ロワールのブルーチーズはありませんでした。
が、悔しいので、代わりに別のチーズを買ってきました(笑)
このチーズについては、改めて紹介します。



そういえば、この戦争によって記憶を失った男は、戦争によって夫を連れ去られた妻テレーズの夫アルベールだったのでしょうか?

チーズをきっかけに手にしましたが、戦争が残す爪痕についても考えさせられた本でした。

コメント
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