ワインな ささやき

ワインジャーナリスト “綿引まゆみ” (Mayumi Watabiki) の公式ブログ

ワイン産地としてのニューヨーク

2015-09-29 11:59:14 | ワイン&酒
“ワイン市場としてのニューヨーク” に続けて、“ワイン産地としてのニューヨーク”をお届けします。

アメリカのニューヨーク州は、もちろん、大都市中の大都市。
ですが、北海道と九州を合わせたよりもNY州の面積の方が広く(14万1300km2)、ニューヨークシティは当然ながら都会ですが、州全体を見ると、かなり田舎な場所もあります。
調べると、NY州は面積の1/4が農業用地で、全米でTOP5に入る農業製品の大産地。
果樹園も多く、その中にはブドウも入っています。

そのブドウからはワインもつくられ、ワイン生産量はアメリカ第3位
(1位はカリフォルニア州、2位はワシントン州)
意外にも、ニューヨーク州って、ワインづくりが盛んなんです。



オランダ人によって、マンハッタン島に初めてブドウが植えられたのは17世紀の中頃のこと。
しかし、フォクシーフレーバーという独特の香りのするアメリカ原種のヴィティス・ラブルスカ種が伝統的でした。

1951年、ロシア系のコンスタンティン・フランクとフランス人のシャルル・フルニエがやってきて、フィンガー・レイクス地方に醸造用ブドウのヴィティス・ヴィニフェラを植え始め、本格的なワインづくりに取り組み始めたのです。

197年に New York Farm Winery Act(ブドウ栽培家がワイナリーにブドウを売る際に関する法律)ができ、
1985年には、New York Wine & Grape Foundation が設立されます。

New York Wine & Grape Foundation は、NY州のブドウ栽培家、ワイナリーをメンバーとする団体で、現在、426ワイナリー、1631のファミリーヴィンヤードで構成されています。

私が持っている2009年時の資料では、約200ワイナリーとなっていたので、この数年の間にワイナリー数が倍増していることがわかります。
前述したように、ワイン生産量は全米3位ですし、それほど、NY州のワイン産業は勢いがある、ということです。



NY州のワイン産地は、5地域、9のAVAがあります。
New York Wine & Grape FoundationのHPで調べると、各地域でいくつかサブリージョンができているようなので、それをプラスして覚えるのが良さそうです。


NEW YORK WINE AND GRAPE FOUNDATION -HPより引用

フィンガー・レイクス地方(Finger Lakes Region)
NY州最大のワイン産地で、地図では、オンタリオ湖の南側で、大きくパープル色で塗られたエリアです。
南北に細長い5つの湖が、手の5本指のように見えることから名付けられています。

AVAフィンガー・レイクス、AVAセネカ湖、AVAカユガ湖 の3つのAVAがあり、NY州のワイン生産量の90%近くがここで生産され、ワイナリー数ももちろん最多(141)。
※Keuka Lake Sub-Region、Canandaigua Lake Sub-Regionも要チェック!
NY州のワインを学ぶには、まずはここから始めるといいかもしれません。

ほかには以下の産地があります。

エリー湖(Lake Erie Region)- AVAエリー湖
NY州のブドウ栽培面積の半分以上を占める産地(フィンガー・レイクス地方の約2倍の栽培面積!)
コンコード種が中心で、主にブドウジュースを生産しています。もしくは、バルクワイン用ワイン。

ナイアガラ・エスカープメント(Niagara Escarpment)-AVA ナイアガラ・エスカープメント
AVAエリー湖の北側に位置し、700kmに渡って断層が走る地帯。
温暖な気候と石灰質土壌が特徴。ブドウ品種はナイアガラ、カタウバ(ピンクの果皮のアメリカ系交配種)。
※Greater Niagara Area Sub-Regionもあります

ハドソン川流域(Hudson River Region)- AVAハドソン川流域
マンハッタンから150km北のハドソン・ヴァレー地域で、17世紀後半からブドウ栽培が始まり、NY州初のワイナリーがつくられたのもこの地域。
ハイブリッド種が伝統的ですが、近年は欧州種も増えています。

ロングアイランド地方(Long Island Region)
AVAロングアイランド、AVAノースフォーク、AVAハンプトンズ、の3つのAVAがあります。
ロングアイランドは富裕層が多く住む地域で、現在、75のワイナリーがあり、フィンガー・レイクスに次ぐクオリティワインの新生産地として人気を集めています。
ここも押さえておきたい地域。注目品種はメルロ




ということで、長々と紹介してきましたが、ようやくワインの紹介です。
今回のセミナーでは、NY州のワイン6アイテムが登場しました。

まずは、フィンガー・レイクス地方のリースリング 3アイテム。


左より)
Dry Riesling 2013 Anthony Road Winer Company(AVA Finger Lakes)
Dry Riesling 2013 Herman J Wimer Vineyard(AVA Seneka Lake)
Semi Dry Riesling 2013Dr. Konstantin Frank(AVA Finger Lakes)

左2本がドライタイプ、右端がセミドライタイプ。

アンソニー・ロードは1973年からブドウ栽培を始め、1990年にワイン醸造をスタート。
毎週、NYのファーマーズマーケットに出店しながら知名度を広げていったワイナリーです。
フィンガーレイクスからの距離は、東京~金沢間くらいあるとか!根性ですね(笑)

フローラル系の香りがキレイ。フルーツの味わいがしっかりと出ていますが、キュッとした酸の骨格もしっかりあり、凛としてエレガントでした。
アルコール度12.0%、残糖度0.64%。 (輸入元希望小売価格:4,000円、税抜)

ハーマン・J・ウィーマーは独ノーゼルからの移民の家系で、低温で3カ月かけてゆっくり発酵を行ないます。NYのレストランには必ずオンリストされている生産者だそうです。このワインは、3つの単一畑のブドウをブレンドしています。

フローラルなアロマが華やか!フルーツの甘さがデリケートなタッチで口の中に広がります。ほわっとやさしく、繊細で上品。ドイツのモーゼルの面影を感じますね。
アルコール度11.6%、残糖度0.9%。 (輸入元希望小売価格:4,700円、税抜)

ドクター・コンスタンティン・フランクは、“ワイン市場としてのニューヨーク”で名前の出てきたコンスタンティン・フランク氏(栽培学の博士)によって1962年に設立されたワイナリーです。ドクターは、ドイツ系ウクライナ人だったこともあり、冷涼地のブドウ品種を積極的に植えています。

深みのある甘美なミネラルのアロマが香り、味わいもミネラりーで、リースリングの特徴をよく表現していると思います。果実味に厚みがあり、骨格しっかし、味わいくっきり。上の2本と比べて残糖度が高いのですが、ナチュラルな甘みなのでバランスがよく、これはおいしい!ある意味でリースリングの典型のひとつでしょう。
アルコール度11.4%、残糖度2.9%。 (輸入元希望小売価格:3,800円、税抜)



Rose 2014 Wolffer Estate Vineyard (AVA The Hamptons)

お金持ちが集まるロングアイランド(土地が高いそうです)の富豪ウォルファーがつくるセレブなロゼ。一人一本という販売制限がつくほど人気だそうで、それはウォルファーの名前が付いているから。ハンプトンのお金持ちマダム御用達ロゼで、彼女たちのパーティーにはマストのワインだとか。使用ブドウは、メルロ、シャルドネ、カベルネ・フラン、ピノ・ノワール、リースリング、カベルネ・ソーヴィニヨン。ユニーク!
アルコール度11.5% (輸入元希望小売価格:4,000円、税抜)

淡いキレイな桜色のロゼワインで、味わいはミネラリーです。ちょっと温度が低かったせいか、プラチナヤアルミニウム的なひんやり感を感じました。酸は和の柑橘的。軽快に飲めますが、余韻が品よく、上質感があります。


左)NV Red Shinn Estate(AVA North Fork) 
右)North Fork Blend 2012 Brooklyn Winery

どちらも赤ワインで、シン・エステートはロングアイランドのAVAノース・フォークですが、ブルックリン・ワイナリーのノース・フォーク・ブレンドはAVAワインではありません。

シン・エステートはサン・フランシスコに住んでいたカップルがロングアイランドに立ち上げたワイナリーで、ロングアイランド初のビオディナミを実践し、ニューヨーカーからの支持が篤いそうです。メルロ65%、カベルネ・フラン20%に、プティ・ヴェルド、カベルネ・ソーヴィニヨン、マルベックを少量ブレンド。
アルコール13.6% (輸入元希望小売価格:3,800円、税抜)

2012年と2013年のブドウを混ぜているので、ノンヴィンテージになります。
キレイな赤ワインらしいカラーで、アロマもキレイです。ソフトなタッチのアタックで、やわらかく、ナチュラル。スーツと入るキレイな果実味が印象的。ちょうどいい濃さ、バランスがとてもおいしくて、これは個人的にかなり気に入りました。飲んでいる際、ビオディナミはまったく意識しませんでした。

ブルックリン・ワイナリーはマンハッタンのブルックリン地区のワイナリーで、2011年に設立。都会の真ん中のワイナリーというのが面白い!友人同士の二人が立ち上げ、ブドウはフィンガー・レイクスから買っています。ガレージのような所で、スタイリッシュなワイナリーだそうです。このあたりは昔は危険な地域だったのですが、今は高層ビルが立ち並ぶエリアになっているとか。マンハッタンには、ここを含めて9のワイナリーがあります。メルロ75%、カベルネ・フラン25%のブレンド。
アルコール度数12.5% (輸入元希望小売価格:6,500円、税抜)

複雑で重厚なアロマがあり、香りからかなり上等なワインだと推測されます。レザーのニュアンスがあり、かっちりとした凝縮感があり、モダンでスタイリッシュな味わいです。まだ固い感じなので、もう少し練れてくるといいかもしれません。

シン・エステートの赤がふわっとフェミニンなタイプなら、ブルックリンはカチッとマスキュランなタイプ。好みが分かれると思います。私の個人的な好みはシンの方。価格も魅力的。



今回試飲の6アイテムのうち、リースリングはRiesling Ring試飲会でもおなじみで、ウォルファーのロゼもLOVE ROSE試飲会に出展していただいたこともあるので、よく飲んでいました。
が、NY州の赤ワインに関してはあまり飲む機会がなく、今回は2アイテムでしたが、これはかなりクオリティが高いゾ!と再認識させられました。

特に、前述したロングアイランドのメルロを色々飲んでみたいですね。ワイナリーは島の東側に集中しています。夏は海からの涼しい風が入り込み、放射冷却で夜はかなり気温が下がります。ブドウの生育期間がフィンガー・レイクスよりも長くなるため、晩熟品種の栽培に向き、注目のメルロをはじめ、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランも多く栽培されています。
ただし、ロングアイランドは土地代が高く、ワイン価格に跳ね返ることもありそうです。



ニューヨーカーにとって、また、観光客にとっても、ブルックリン・ワイナリーのような都会のワイナリーは訪問しやすい点がいいと思います。

NYでは、地元産のローカルなプロダクト応援しようという動きがあるようで、アンソニー・ロードのようにファーマーズマーケットでの出展といった活動もあって、NY州のワインもどんどん地元での知名度が上がってきているといいます。
また、ロングアイランドのワイナリーでの結婚式プランや、ワインツアーなどもあり、NYワインはどんどん身近なものになってきているようです。

NYワインの地元での広がりは、日本のワイナリー人気と共通点があるように思います。
外からのワインも充実しているけれど、身近なところにワインがあった!しかもクオリティが年々上がっている!
この人気が、さらにクオリティを押し上げているのではないでしょうか?

“ワイン市場としてのニューヨーク” では、彼らのトレンドの捉え方が日本と違うと書きましたが、地元ワインへの意識は、どちらも共通しているように感じました。


※6種のワインの輸入元:GO-TO WINE  http://gotowine.jp/

NEW YORK WINE AND GRAPE FOUNDATION  http://www.newyorkwines.org/

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