2月20日 おはよう日本
庶民の足として親しまれているインドの鉄道。
朝の通勤時間は乗客があふれ出るほどの混雑ぶりである。
その通勤列車で名物となっているのがいわゆる“列車バンド”。
首都ニューデリーと近郊を1時間半で結ぶ路線では約60組のバンドが自主的に活動している。
60年以上続く伝統である。
他人を敬うことの大切さや神への感謝を歌ったヒンズー教の民謡を演奏する。
こうした演奏が見られるのは主に地元の利用者が多い郊外を走る列車に限られている。
乗客は大音量の音楽を迷惑がるどころか一緒に盛り上がる。
(乗客)
「新しい路線もあるけど
歌が聴きたくてこの列車に乗ります。」
「朝 ここで音楽を聴き神に祈れば1日が上手くいく気がします。」
混み合った社内でも床に座ってゲームに興じたり
たばこを吸う人の姿が見られる。
列車の遅れも頻繁におきる。
いらいらしがちな乗客の気持ちを音楽で和らげようという取り組みである。
通勤列車で30年間歌い続けてきた サトビール・シンさん(52)。
12人のメンバーとともに毎朝 車内で民謡を披露している。
♪ 悪いことをするとばちがあたる
人に迷惑を変かけてはいけない
サトビールさんは約1時間の演奏を終えるとそのまま職場に向かう。
本業は家電製品のセールスマンである。
乗客のために歌うことが元気の源だという。
(サトビールさん)
「外回りの営業は普通40歳までですが
私は52歳でまだ現役です。
列車で歌うことがエネルギーになり
新鮮な気持ちにしてくれるのです。」
しかしそんな列車バンドにも時代の波が押し寄せている。
スマートフォンに見入って
音楽に耳を傾けてくれない人が増えている。
(サトビールさん)
「最近 若者たちはほとんど歌に参加してくれません。」
どうしたら自分の音楽を聴いてもらえるのか。
サトビールさんは自宅にバンドのメンバーを集め
新たな取り組みを始めた。
目をつけたのが国民によく知られているインド映画。
映画の中で流れる歌に
民謡の歌詞を合わせて歌おうというのである。
♪ 親の面倒を見ることは
この世で最も大切なことだ
伝統的な民謡の歌詞がインド人ならだれでも知っているメロディーに乗って流れる。
知り合いの家での集まりで演奏し
反応も確かめた。
準備した新しい民謡を披露する朝が来た。
(サトビールさん)
「皆さん!
通勤時間を有意義に過ごしましょう。
そしてこの歌の文化を守っていきましょう。」
♪ 清らかな心で神に祈れば
神は必ず助けてくれる
乗客たちの反応はまずまずだった。
(サトビールさん)
「歌は聴く人の心に届かなければ意味がありません。
乗客が気にいる音楽を作りたいです。
私はこの活動に誇りを持っています。」
長年 朝の通勤列車で心をいやしてきた“列車バンド”。
インド伝統の民謡は時代とともに形を変え
きょうも車内で響いている。