3月1日 おはよう日本
透明感のある白さと藍色や赤などの鮮やかな絵付け。
有田焼は旅館や料亭で和食を彩る食器として
絶大な人気を誇ってきた。
ヨーロッパでは「東洋の白い宝石」とたたえられ
海外でも高く評価されてきた。
しかしいま有田焼をめぐる状況は厳しさを増している。
佐賀県有田町。
美術品としての有田焼は今も人気を博す一方
生活スタイルが大きく変化するなか
食器としての売り上げはピーク時の5分の1にまで減少。
販売店の閉店が相次ぐようになった。
こうしたなか伝統産業有田焼を守るため新たなプロジェクトが始まっている。
プロジェクトリーダーの百田憲由さん。
先祖代々この地で有田焼に携わる仕事を続けてきた。
現在は販売店を営む一方で商品の企画開発も行っている。
時代に合った商品を作らないと有田焼は生き残れないと考えている。
(有田焼 販売会社 百田憲由さん)
「時代のせい
世の中のせいではどうしようもない。
自分たちで今の世の中にあったビジネスの仕方を作っていかないといけない。」
目指したのは“世界で売れる有田焼”。
現代のライフスタイルに合わせた商品を作ることで
これまでと違う客層に買ってもらおうという狙いである。
5年前に外国人のデザイナーを呼び
地元の職人たちと共同で開発を始めた。
プロジェクトに参加した職人の1人 山口幸一郎さん。
窯元の4代目である。
これまでは伝統に基づいた食器を中心に手掛けてきた。
(窯元 山口幸一郎さん)
「松竹梅の絵柄を施した染付が伝統的な有田焼らしい絵柄。」
しかしプロジェクトが山口さんに求めたのは
これまでの有田焼の伝統には無い“光沢を抑えた器”をつくること。
普段の食卓で使うには目立ちすぎない方がいいというのである。
山口さんはこの要求に強い違和感を覚えた。
これまでは常に伝統的なデザインを参考にしてきた山口さん。
有田焼の世界では高級感を出すために光沢を出すことが常識だったからである。
(窯元 山口幸一郎さん)
「艶感があるのが有田の焼き物という感覚。
その部分にちょっと不安。」
山口さんは支持に従わなかった。
有田焼の伝統である艶をあえて出したのである。
しかし百田さんから投げかけられた言葉は
これまでの経験を否定する厳しいものだった。
“あなたの感性はいらない・・・”
(有田焼 販売会社 百田憲由さん)
「あなた方の感性で作ったものがいま市場の中で売れていたら
有田の現状はこういうことになっていないでしょう。
俺は変えたいんだ。」
とにかく売れなければ意味が無い。
百田さんの強い決意を知った山口さんはこれまでの考え方を取り払い
製品作りに打ち込んだ。
光沢を出さずに高級感を出すにはどうすればいいのか。
試行錯誤した山口さんが行きついたのは
霧状に塗料を吹き付ける「吹墨(ふきずみ)」という伝統技法だった。
完成した新しい商品。
和食にも洋食にも合い
料理の色どりを邪魔しないシンプルなデザイン。
多くの人に愛される食器を目指した。
商品の名前は「1616」。
有田焼が始まった400年前の1616年にちなんだ。
伝統と革新。
両方の意味を込めた新たな有田焼が誕生したのである。
海外のインテリア雑誌が主催したコンテスト
エル・デコ インターナショナルデザインアワードで評価され
テーブルウェア部門最高賞を受賞。
そしていまこうしたデザインは国内の若い世代からも支持を集め始めている。
東京都内に暮らすある家族はこれまで有田焼には関心がなかったが
デザイン画着にいり20種類以上買い揃えた。
(利用者)
「有田焼は高級な食器のイメージ
柄物だったり
いつもの食卓では使えないのかなと思っていた。
こんなに私たち若者の世代に生活に合うんだなと思った。」
伝統をただ守るのではなく
時代に合わせて革新していく。
百田さんや山口さんはその姿勢が有田焼を守るためには欠かせないと考えている。
(有田焼 販売会社 百田憲由さん)
「有田に最終的に注文が来て
産業としてうまく回っていく環境を作る。
どうこの有田焼をせかいにつたえていくか
これから見せていくかが大事になってくる。」
(窯元 山口幸一郎さん)
「積極的に開発する上で
改革しなければいけない部分もある。
新たに踏み出したことが次に歴史につながっていける
そう感じる。」
いま百田さんや山口さんはより多くの職人たちとともに
プロジェクト第2弾の商品開発を行っている。
さらにこれまでに無い有田焼を作ろうという取り組みは他にもある。
2月に発表された香水の瓶。
100年以上続く有名ブランドの特性ボトルを有田焼で作った。
これまでになかったファッションなどの分野への進出。
有田焼の伝統的なデザインを守りながらも
用途を変えることでニーズを掘り起こそうというのである。