2015.11/22 (Sun)
一昨日、夜。ネットを見ていたら、北の湖が亡くなった、という文字が見えた。
「えっ?まさか」
そう思ってネットのニュースを見ると、本当の話だった。確か同い年だから62歳。
現役時代、「憎たらしいほど強い」とか「態度がふてぶてしい」とかいう批判を聞くことが多かった。
実際、見てくれが悪い。太い腹。これまた太くて短い手足。いつも機嫌の悪そうな表情で、それが勝っても負けても踏ん反り返って引き揚げていく。愛嬌なんかどこを探したって、ない。笑顔なんか見せた事が無い。松鳳山みたいに、土俵上では何ともこわそうな顔してても、土俵を下りて見せる笑顔は何ともほんわかしてる、みたいなのが普通の力士だ。
北の湖はそうでない。いつも仏頂面している。仏頂面のメイク、してんじゃないか、と思うくらいだ。
それが或る時。
取材のマイクが珍しかったらしい。風の音を拾わないように、全体にファーのようなものを被せた大きなマイクに、長い棒がついているやつだ。一般にまだ馴染みがない頃で、ちょっとユーモラスな形をしていた。モスラが暇つぶしに作った繭玉、みたいだった。
それを、北の湖、いきなりつかまえて自分に引き寄せた。マイクの係りの人は慌てただろうけど、北の湖は構わず、
「何だ!これは!」
みたいなことを何度か言いながらさらに引き寄せて
「何だ、これは!あ~っ!」
とふざけて見せた。
勿論、笑顔じゃない。いつものあの仏頂面だ。真面目くさってやるもんだから、笑いが起こるはずもない。
でも、見ているこちらとしては 「あれ?意外と剽軽なのかな?」となる。
果たして、徐々に土俵上の様子と違い、意外に人懐っこい性格らしいということが聞こえ始めた。
「憎たらしいほど強い」北の湖も段々に衰え、あっけなく土俵を割るようになる。
そうなると
「あれが北の湖か?いや、そんな筈はない。きっと調子が悪いんだ」
みたいな声が聞こえて来る。こんなに北の湖のファンがいたのか?
引退後、おそらく話した言葉をまとめたのだろう、新書が出された。
「もう一歩、前へ出れば勝てる」
そんな気はなかったのだけれど、立ち読みの途中で、つい買ってしまった。
横綱のくせに、土俵下に落ちた力士に手も貸してやらない。さっさと自分の仕切り線に戻ってしまう。
反対に自分が負けて手を差し伸べられそうになったらさっと立ち上がって土俵に戻る。
手を払い退ける事はあっても、手を借りるなんてことは絶対にしない。全く可愛げがない。
ところが、これはこういう理由なんだそうだ。
「負けたらくやしい。だから一刻も早くその場から逃げ出したい。とてもじゃないけど手を差し伸べられるのを喜ぶ気にはなれない。そんな風に思っているから、勝って手を差し伸べるなんて、相手に対して失礼なような気がする。」
場所に親を招待することはなかった。必死になって仕事に取り組んでいるのだから、見てもらおうなんて考えたこともなかった。
そんな話を読んでいくにつれて、彼の「一所懸命」を全く見ていなかったのだな、と思うようになった。
相撲の「技の稽古」ではなく、「相撲道」を歩もうとしてきた横綱だったと分かる。
その意味で「憎たらしいほど強い」は、皮相的な見方だったと思う。
技術で、取り組みで、強い力士はいくらでもいる。白鵬なんかもそうだろう。
けど、一所懸命、それもほぼ手さぐりで相撲の道を歩こうとしていたのは、ただ北の湖一人、なのかもしれない。
一昨日、夜。ネットを見ていたら、北の湖が亡くなった、という文字が見えた。
「えっ?まさか」
そう思ってネットのニュースを見ると、本当の話だった。確か同い年だから62歳。
現役時代、「憎たらしいほど強い」とか「態度がふてぶてしい」とかいう批判を聞くことが多かった。
実際、見てくれが悪い。太い腹。これまた太くて短い手足。いつも機嫌の悪そうな表情で、それが勝っても負けても踏ん反り返って引き揚げていく。愛嬌なんかどこを探したって、ない。笑顔なんか見せた事が無い。松鳳山みたいに、土俵上では何ともこわそうな顔してても、土俵を下りて見せる笑顔は何ともほんわかしてる、みたいなのが普通の力士だ。
北の湖はそうでない。いつも仏頂面している。仏頂面のメイク、してんじゃないか、と思うくらいだ。
それが或る時。
取材のマイクが珍しかったらしい。風の音を拾わないように、全体にファーのようなものを被せた大きなマイクに、長い棒がついているやつだ。一般にまだ馴染みがない頃で、ちょっとユーモラスな形をしていた。モスラが暇つぶしに作った繭玉、みたいだった。
それを、北の湖、いきなりつかまえて自分に引き寄せた。マイクの係りの人は慌てただろうけど、北の湖は構わず、
「何だ!これは!」
みたいなことを何度か言いながらさらに引き寄せて
「何だ、これは!あ~っ!」
とふざけて見せた。
勿論、笑顔じゃない。いつものあの仏頂面だ。真面目くさってやるもんだから、笑いが起こるはずもない。
でも、見ているこちらとしては 「あれ?意外と剽軽なのかな?」となる。
果たして、徐々に土俵上の様子と違い、意外に人懐っこい性格らしいということが聞こえ始めた。
「憎たらしいほど強い」北の湖も段々に衰え、あっけなく土俵を割るようになる。
そうなると
「あれが北の湖か?いや、そんな筈はない。きっと調子が悪いんだ」
みたいな声が聞こえて来る。こんなに北の湖のファンがいたのか?
引退後、おそらく話した言葉をまとめたのだろう、新書が出された。
「もう一歩、前へ出れば勝てる」
そんな気はなかったのだけれど、立ち読みの途中で、つい買ってしまった。
横綱のくせに、土俵下に落ちた力士に手も貸してやらない。さっさと自分の仕切り線に戻ってしまう。
反対に自分が負けて手を差し伸べられそうになったらさっと立ち上がって土俵に戻る。
手を払い退ける事はあっても、手を借りるなんてことは絶対にしない。全く可愛げがない。
ところが、これはこういう理由なんだそうだ。
「負けたらくやしい。だから一刻も早くその場から逃げ出したい。とてもじゃないけど手を差し伸べられるのを喜ぶ気にはなれない。そんな風に思っているから、勝って手を差し伸べるなんて、相手に対して失礼なような気がする。」
場所に親を招待することはなかった。必死になって仕事に取り組んでいるのだから、見てもらおうなんて考えたこともなかった。
そんな話を読んでいくにつれて、彼の「一所懸命」を全く見ていなかったのだな、と思うようになった。
相撲の「技の稽古」ではなく、「相撲道」を歩もうとしてきた横綱だったと分かる。
その意味で「憎たらしいほど強い」は、皮相的な見方だったと思う。
技術で、取り組みで、強い力士はいくらでもいる。白鵬なんかもそうだろう。
けど、一所懸命、それもほぼ手さぐりで相撲の道を歩こうとしていたのは、ただ北の湖一人、なのかもしれない。