阿比留瑠比氏が書かれたものを
「わたなべ りやうじらう のメイル・マガジン
頂門の一針 5545号」
で拝見しました。
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【阿比留瑠比の極言御免】 令和2年9月24日
7年9カ月続いた安部晋三内閣が16日に総辞職して23日でまだ1週間しかたっていないのに、政界やマスコミの話題は菅義偉首相とその内閣の一挙手一投足に集中している。当たり前のことではあるが、人心や社会の移ろいゆくさまには、いつもはっとさせられる。
政治部の記者として、いくつもの内閣の誕生と終焉(しゅうえん)を見てきたが、それぞれ個性がにじみ、感慨深い。そこで10年ほどの歴代首相の辞任表明時を振り返ってみたい。
今回、安倍前首相は8月28日の記者会見で「残された課題も多々あるが、同時に達成できたこと、実現できたこともある」と述べたうえで、こう強調した。
「全ては国政選挙のたびに力強い信任を与えてくれた、背中を押して頂いた国民のおかげだ。本当にありがとうございました」
安倍氏はこの日だけでなく、談話などで繰り返し国民への感謝を表明した。国民の側も、辞任表明後の世論調査で安倍内閣に高い支持率を与えた。心残りはあれど、幸福な幕の閉じ方だったといえる。
一方、最後の記者会見が物議を醸すこともある。平成20年9月1日の福田康夫首相の辞任表明会見では、記者に「会見が国民には人ごとのように聞こえる」と問われた福田氏が、かちんときて言い放った。
「私は自分自身を客観的に見ることはできるんです。あなたとは違うんです」
短気な福田氏らしいが、「あなたとは違う」とのセリフは話題を呼んだ。
21年9月16日の麻生太郎首相の辞任記者会見は、民主党への政権交代に伴うものだったが、麻生氏らしくそんな時でも前向きな言葉が印象的である。
「私は日本と日本人の底力に一点の疑問も抱いたことはない。日本の未来は明るい。未来への希望を申し上げて国民へのメッセージとさせてもらいたい」
麻生氏の後を襲った民主党の鳩山由紀夫首相は、会見はしなかったが22年6月の党両院議員総会で辞任を表明する演説を行った。
「私たち政権与党のしっかりとした仕事が、必ずしも国民の心に映っていない。国民が徐々に聞く耳を持たなくなった」
自分たちはよくやっているのに、頑固で素直でない国民側に、話を聞く気がないのが悪いと言わんばかりである。立つ鳥が跡を濁した後味の悪さが残った。
23年8月26日の菅(かん)直人首相の辞任記者会見は、自信家のこの人らしく最後まで自慢話のように聞こえた。
「政治家の家に生まれたわけでもなく、市民運動からスタートした私が首相と言う重責を担い、やるべきことをはやったと思えるところまでくることができた」
「私の在任中の活動を歴史がどう評価するかは後世の人々の判断に委ねたい」
だがむしろ、菅氏はやるべきでないことばかりをやった結果、すでに歴史の評価は定まっていると思う。
辞任記者会見を開かない場合もある。安倍氏が総裁として率いた自民党に衆院選で惨敗し、24年12月26日に退任した野田佳彦首相は、辞任記者会見は開かなかった。民主党内からも「なぜ衆院を解散したのか」と強い突き上げを食う中で、「敗軍の将は兵を語らず」の心境だったかもしれない。
新政権を発足させたばかりの菅(すが)首相が、政権の締めくくりの言葉を発するのはできるだけ遠い日の方がよい。首相がいう「国民のために働く内閣」であるためには、まずは長く続く内閣でなければなるまい。
(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)
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松本市 久保田 康文 転載
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