「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和四年(2022) 3月11日(金曜日)
通巻第7255号 <前日発行>
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往く人がいれば、来る人もいる。ロシア・ウクライナ戦争の暗部
ロシア人がロシアから逃げ出し、たとえばジョージアに2・5万人
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ロシア国内で、「戦争反対」を叫ぶ街頭デモは武装警官隊が出動して鎮圧した。モスクワ、サンクトペテルブルグなどロシア全土で反戦運動が拡がっているが、旧ソ連の中央アジアとカフカスでも、反戦抗議デモが拡大している。
ロシアから西側へ逃げだそうとしても、アエロフロートは全欧で乗り入れが禁止された。そこでロシア人は、経由地として中東諸国を選んだ。
航空料金は足元を見て代理店がチャンスとばかり値上げした。チケット高騰にも拘わらず、ドバイまでに片道運賃が4000ドル、アルメニアが1820ドル。穴場はキルギスの首都ビシュケクまでの300ドル。
ビシュケク行きのエアバスは400人の満席となり、殆どがロシア人だった。
キルギス政府はロシア支持で、戦争に反対していない。しかし抗議のプラカードを掲げてのデモは散見される。政府と国民は立場が異なるのだ。
となりのカザフスタンのアルマトイでもロシア領事館に反戦デモ隊が押しかけた。
ロシア人は戒厳令が近いというインサイダー情報が手伝って、近くの外国へロシア人が、とりあえずの避難を開始した。トビリシにはすでに25000名が到着している。
しかし、往く人がいれば、来る人もいる。ロシア・ウクライナ戦争の暗部である。傭兵たちが、ここがチャンスとばかり、蠢動を開始したのだ。
米国の戦争請負業「ブラックウォーター」(現在は「アカデミ」と改称)の勇名は世界に轟いている。元シールズやグリーンベレーや海兵隊出身者で構成され、世界各地の戦争に傭兵として赴く。8000エーカーの軍事訓練所を持つ。
ロシアの傭兵で最も有名な存在は「ワグナー旅団」で、表向きは要人警護、戦略拠点防衛などとなっているが、シリアなどでは傭兵として「大活躍」した。ロシアではPMC(民間軍事揮毫)と呼ばれ、元スペツナズ隊員が創設した。背後には実業家のブリゴジンがある。
▼ワグナー傭兵部隊が暗躍している
ブリコジン?
ご記憶だろうか。嘗て小誌で廣瀬陽子「プーチンのハイブリッド戦争」(講談社新書)の書評をしたおりに次のように紹介した。
「プーチン大統領に近い実業家=エブゲニー・プリゴジン被告を首謀者に挙げて(米国はロシアゲート主犯を)制裁した。プリゴジンは「プーチンの料理人」 と謂われ、権力機構に割って入るや、巨大な利権を手にした。その発端が「海上レストラン」だった。エブゲニー・プリゴジンは、この豪華レストラン「ニューアイランド」で評判を取り、噂を聞いたプーチンが通うようになる。果ては、外国の賓客をここで食事にもてなし、ブッシュ大統領との宴席ではプリゴジン本人が給仕をしてプーチンの信頼 を得た。
もともとこの怪しげなプリゴジンの出自は不良少年、チンピラあがりで、強盗、詐欺、売春などで9年間を刑務所で暮らした。それゆえ「度胸が据わっていた」とも言える。その彼が、露西亜政治の暗黒部分を仕切る「戦争請負業」を立ち上げたのだ」。(引用止め)。
ワグナー傭兵部隊は2500名の規模、激戦を得意とするが、すでに「戦死者」も四百人にのぼる。待遇は月給が30万円ほどだが、三ヶ月勤務すると165万円のボーナスで、年収は平均1000万円になるという。
ウクライナへは世界各国から志願兵が集まっているが、歓迎できない傭兵部隊がシリアで募集されているという。
国境のイドリブ県は無法地帯でアルカィダ系「シャーム解放機構(旧ヌスラ戦線)が事実上支配している。ここでウクライナ戦争に投入される「志願兵」が募集されており、シリア内戦ばかり、リビアやアゼルバイジャンでの戦闘に「傭兵」として赴いた数百人が待機しているという。
ウクライナ派遣傭兵団は、ロシア軍へのゲリラ戦を任務として月給2000米ドルが報酬として支払われるとか(NEWSWEEK電子版)。
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確か、ウクライナで建造され、艤装に掛かっていた空母「ワリャーグ」が「海上レストランにする」という名目で謎(?)の支那人に売却されて、いつの間にか空母「遼寧」にされたんでしたね。
「海上レストラン」というのは、ここからの発想だったのか。