3月1日(火)
週明けから門塀の改修に掛かるということだったが、結局月曜日には工事の人が来ていたものの、新築の家の方の確認だけだったようで、こちらの改修工事に取り掛かる様子はなかった。
明けて、今日。やっぱりそれらしい様子はない。
何より午後から雨になるということで、こちらは酒の肴の準備の買い出しをしなければ、という気持ちばかり。酒飲みは口が卑しい。
時間が経つに従って、「これはもう近所のスーパーに行くのが限度かもしれないな」という気になって来る。
昨日買った「ブール」というパンにレタスやベーコンを挟んで半分。カップスープを一杯。
9時前には食事が終わる。
もし「工事を始めるので」と挨拶に来られても、パジャマで出るような不細工な真似はしないようにと、ジャケットは着ないまでもちゃんとした格好でいたのだが、工事が始まる様子はない。
と言っても職人は車で来るわけだし、ランボルギーニやフェラーリならともかく、昔と違って車の音はほとんど聞こえない。
待っていてもしょうがない。とにかく雨が降る前に買い物だ。
今にも降り出しそうな空模様は夜明けからずっと続いている。雲の流れはほとんど見えない。
ただ、重量感のある重苦しい灰色の分厚い雲とその下に広がるぼやけた景色を家に居て思い浮べていると気鬱になって来るが、家を出て景色の中に入ると妙に気分が高揚してくる。台風の中で高笑いをする西片・・・・。
なんだ、これは既視感ではなく実体験だった。確かに子供の頃は強風が吹き荒れる時はうれしかった。
【風がどうと吹いてぶなの葉がチラチラ光るときなどは虔十はもううれしくてうれしくてひとりでに笑へて仕方ないのを、無理やり大きく口をあき、はあはあ息だけついてごまかしながらいつまでもいつまでもそのぶなの木を見上げて立ってゐるのでした。 】 宮沢賢治 「虔十(けんじゅう)公園林」より
待っていてもしょうがない。とにかく雨が降る前に買い物だ。
昨日のような失敗はせぬようお金のあるのを確かめて出掛けた。
納豆を買い、豆腐を買い、焼酎を買い。
目論見通り、雨に遭うことなく帰宅。
工事にやってきた気配はない。
そうこうするうちに雨になる。
話が違うなあ、と思いながら酒の肴を作り始める。昨晩にざっと洗って置いた里芋の皮を剥く。モツの煮込みを用意し始める。
雨はだんだん強くなる。肴は四品ほどできた。
雨の中、唐突に削岩機の音が聞こえ始めた。この雨の中、今から始めるらしい。
出てみると思った通り、若い職人が一人だけで作業をしている。
聞くと今日は門扉を外すだけらしい。
意外に難物だったようで、一時間近く掛かって静かになった。
門扉がなくなって廃屋みたいな雰囲気の中、酒を飲む。
貧窮問答歌ほどではないけれど、
「水村山郭 酒旗の風; ~~ 多少の楼台 煙雨の中」
には程遠い。