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『黄砂の籠城』(上)(下)

2017年04月15日 | BOOKS
『黄砂の籠城(上)』(コウサノロウジョウジョウ)
著:松岡圭祐
講談社文庫

『黄砂の籠城(下)』(コウサノロウジョウジョウ)
著:松岡圭祐
講談社文庫


 帯に「国粋主義」の空気を感じて手に取ることをためらう人がいるかもしれません。しかし、この本は日本人礼賛というよりも、現代の日本人への警鐘だと思います。
 まず、読みやすさに驚きます。歴史が苦手でも、義和団事件を全く知らなくても、実在したという魅力的な登場人物が、1900年の北京へと連れて行ってくれます。今まさに世界が直面している、宗教が関係するテロ事件・排外主義・貧困への不満・領土問題……その全てが1900年にも存在することで、一層身近に、危機感を感じながら読み進めることができます。
 この本を読むうえで、後年の日本軍による中国大陸やアジアでの蛮行を頭に入れておくことは必要不可欠じゃないでしょうか。義和団事件の後「世界から賞賛された」はずの日本が、「類稀なる知性と行動力」のあるはずの日本人が、なぜあのような戦争に突き進み、敗れたか。それを考えながら読んでいると、大きな警報音が頭の中に鳴り響きます。「今、世界から賞賛されうる日本人は育っているのか?」と。
 本文中、事実を歪めるメディアへの批判や、伝統や武士道が政治的意向によって教育に利用されうることへの懸念も登場します。「剣を取るものは剣によって滅びる」「精神力で無知は補えない」といった言葉にもハッとさせられます。
 惑わされず真実を見極めること、戦わずにすむように学ぶこと、自分を知り相手を知り、世界を知ることが、いつの時代も必要だと痛感する1冊です。

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