MOONIE'S TEA ROOM

大好きな読書や言葉、料理のコトなど。

『愛なき世界』

2019年02月28日 | BOOKS
『愛なき世界』
三浦しをん 著
中央公論新社


 とても美しい装丁です。
 青く光る イチョウ、マイクロチューブ、ピンセット、綿毛についた種……。
 書店でもちょっと目を引く一冊だと思います。
(光が反射してしまって、私の写真では美しさが伝わらないのが残念です)

 『愛なき世界』というタイトルながら、「愛」にあふれている物語になってます。
 植物への「愛」、研究への「愛」、そして頑張る人たちへの「愛」。
 
  難しい用語はとりあえず斜め読みでも、最後まで読んでみてください。
 あたたかな気持ちでページを閉じて、愛すべき登場人物たちを思い出して表紙を眺めたら、また違う輝きを感じると思います。
 
  この本から、私が一文を抜き出すなら、この部分。
「植物を介することで、朗らかな心を持つひとの存在が浮かびあがってくる。」(p.372)

 この「朗らかな心」が、この本の一番の魅力なのだと思います。
 それは、主人公の一人である 洋食屋の見習い青年の さっぱりと気持ちの良い性格であり、ひとつのことに夢中になっている研究者たちの ひたむきさ でもあって、どちらも偏見で濁っている私の目から、何枚も何枚もウロコが落ちるようでした。

「好きな人を好きだと言える」
「好きなものを好きだと言える」
「他人を尊敬できる」
「他人の好きなものを尊重できる」
「卑屈にならない、自分を卑下しない」
「必要以上に相手の所属・肩書きにへりくだらない」

 それは、自分の好きなものに自信があって、自分の生き方に自信があるからこその「朗らかな心」。
 こんな青年を、どうやったら育てられるか、子育て中の母としては非常に知りたいところです。
 この本の登場人物たちは、びっくりするほど「ニュートラル」で、世の中のステレオタイプな価値観や物の見方、「より偉く・より生産的で・より稼げる」そんな価値観から自由な存在として描かれていて、本当にこういう人たちがいたら、ぜひ会ってみたいものです。
 ドロドロとした重苦しい人間模様とは無縁な世界。
 現実世界にも、もっともっと「朗らかな心」を持つ人が増えてほしい、本当にそう願います。
 
コメント
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