連休最終日の朝、息子とskypeでテレビ電話をしましたが、甲斐駒ケ岳と仙丈ヶ岳に二日続けて登った写真を見せてくれました。初めての三千メートル級の山で、尾根直登の岩登りはスリル満点で楽しかったようです。わき上がるガスと雲海、高山植物は里山では味わえないものです。そんな話を聞いたら山に行きたくなってしまいました。
高山というわけにもいかないので、久しぶりに鏡台山へ。鏡台山は、埴科郡の中心にある山として、松代町、屋代町、坂城町などの人たちに親しまれ、盛んに登られた山でした。北峯では、小中学生のキャンプや合同の運動会が行われたものです。いくつかルートがあるのですが、今回は一番手軽な笹平からのルートを登る事にしました。心配なのは、ここのところの豪雨で千曲市森から坂城町へ抜ける沢山林道(林道更埴坂城線)が土砂崩れで通行止めになっていないかでした。あんずの里で賑わった森の集落を沢山川沿いに登っていくと、やはり相当の水量ですが、通行止めの標識はありませんでした。しかし、所々道路上には濁流が流れた跡があり、ました。
林道芝平樽滝線の分岐を過ぎて女陰の滝へ。いつもはか細い滝が、轟音を立てて落ちていました。9時半過ぎに笹平の登山口に到着。登山道入り口を見ると、最近人が登った痕跡がなくタケニグサなどの草で塞がれていました。まずは、それらを除草しなければ登れませんでした。森に入ると、鬱蒼として湿っています。月の輪熊の生息地なので熊鈴をつけます。この尾根では、昨年熊に遭遇しているので、時折ホイッスルも吹きながら。この尾根には熊が横断する獣道が何カ所かあるのです。
びっしりと生えたリョウブの灌木林を抜け、防火帯に出て、あと50メートルで頂上というところで、エビガライチゴのバラに行く手を阻まれました。おまけに笹が繁茂して道がなくなっています。剪定ばさみで枝を切り、笹をはらって道をあけました。やっと頂上へ着くと、広がる北アルプスの大パノラマ。北へ行くほど稜線部が雲に覆われていましたが、槍ヶ岳ははっきりと見えました。
これならば、富士山も見えるのではと、坂城側に少し下って笹を仮払った展望地へ。蓼科山から続く八ヶ岳連峰の山裾を左へ目で辿ると、富士山の中腹と思われる淡紺色の陰が見えました。時間が経てば雲も取れるかもしれないと、何度か来てみることにして山頂へ戻りました。黒柏木からくる登山道は、千曲市側と違いきれいに除草されていました。
山頂は、ヨツバヒヨドリ、ノアザミが咲き乱れ、色々な蝶が乱舞していました。最初は北峯に向かい、その向こう側にある希少な植物を撮影に行くつもりでしたが、どうにも朝から続いていた腰痛がとれないので断念して、山頂で蝶の撮影に専念することにしました。とはいえ、長雨から梅雨明けで活性が異常に高く、なかなか落ち着いて留まってくれません。難儀しました。その数々の蝶のカットは次の記事で書こうと思います。
そして、富士山はと何度か通ううちに、少しずつ雲がとれて撮影したのが掲載のカットです。八ヶ岳連峰の長い裾から黒富士がはっきりと見えています。実は昨年の5月にも同様の記事を載せました。しかし、現地では本当に薄らと白く見えただけで、それが本当に富士山かどうかは帰って画像加工するまで分かりませんでした。しかし、今回は肉眼でもはっきりと確認できました。
確かに山頂には、林間から富士山が見えますと書いてあるのですが、どこにどのように見えるかが書いてないので、どこを見ていいのか分からないのです。以前出会った人もどこに見えるんですかと言っていました。鏡台山を紹介した色々なサイトでも、富士山が見えるとは書いてあるのですが、はっきりと富士山が写ったカットをアップしているサイトはありませんでした。今回の写真が始めてではないかと思います。富士山が八ヶ岳よりずっと小さいのは、もちろん地球が丸いからなのですが、そうと分かっていても富士山があまりに低く見えるので不思議な感じがします。なんだか富士山と八ヶ岳にまつわる民話(神話)を思い出しました。
「その昔、富士山の女神・浅間(せんげん)様と、八ヶ岳の男神・権現(ごんげん)様が、自分の方が背が高いと主張して譲りませんでした。そこで阿弥陀如来に頼んで樋を渡して水を流して確かめました。すると八ヶ岳の方が高く、水は富士山に向かって流れました。しかし、怒った富士山に樋で殴られて、八ヶ岳は富士山より低い八つの峰になりました。蓼科山は八ヶ岳の妹で、それをたいそう嘆き悲しみました。その涙で諏訪湖ができたそうです。」
一見、荒唐無稽なお伽噺に思えますが、地質学的には結構当たっているようです。数十万年前には八ヶ岳の方がずっと高かった時代があるとか。その後の火山活動で山塊が崩壊していったようです。他にも四阿山などは、北東に巨大なカルデラが広がりますが、この山塊が火山活動に寄って吹っ飛ぶ前は四千メートル級の山があったといいます。また、この物語は、天皇を中心とする国家神道が明治政府により創作され強制される以前の、各地に残る自然信仰をもとにした独自の神話の形態を残している話なのではないかと思われます。諏訪大社の洩矢神(もりやしん、もれやしん)などが、その良い例かもしれません。興味の有る方は、ミシャグジ、アラハバキなどで検索してみるといいと思います。
ところで昨夜、松代の南東、保基谷岳の向こうの空が無音で異常に発光していました。松代群発地震の時の大地震の前兆現象に似ていたので驚きましたが、調べると浅間山東側での激しい雷雨だと分かりました。この光は上田や松本でも見えたそうです。おそらく東京の高層ビルからも見えたと思います。ここからだと100キロ以上離れているので音が聞こえなかったわけです。自然界の演じた光のショーは、1時間以上続きました。
★鏡台山ほか、夏の信州のトレッキングは、フォトドキュメントの手法で綴るトレッキング・フォトレポート【MORI MORI KIDS(低山トレッキング・フォトレポート)】にたくさんアップしてあります。ご覧下さい。
★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、地衣類、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、森の動物、特殊な技法で作るパノラマ写真など。夏のキノコも含めて新しい写真を大量にアップしました!