先日、出産間近の大きなおなかを抱えて、私は鳴門駅近くの商店街を歩いていました。春には満開の花で空をおおっていたソメイヨシノの並木も、今は青葉の盛りです。そこらじゅうにスズメがいました。巣材にする紙くずをくわえていたり、追いかけっこをしていたり、エサをついばむのに余念がなかったり。
ふと、思いが飛びました。愛って、スズメのようなものかもしれない。
どこにでもいる。声が聞こえる。姿も見える。でも捕まえようとすると逃げていく。そこらじゅうにいる。あふれるほどいる。平凡で、当たり前で、だれも、気づかないけれど、私たちのまわりに、そばに、いつもいる。
何だか、胸に、うれしさが染みてきて、一人笑ってたら、まるで、そのとおりだよと言わんばかりに、一羽の小さなスズメが私の目の前にぽとりと落ちてきました。そしてそこらの地面をちょろちょろとついばんだ後、また空に向かって、飛んでいきました。青空には絹糸のような雲が一筋流れていて、私の胸から、悲哀に似た情感が、風のように吸い上げられていきました。わけもなく涙が出ました。
悲しいことがあったり、うれしいことがあったり、人生って不思議ですね。まるでメルヘンのよう。
みなさんの所にも、時々、そんな秘密のメッセンジャーがきませんか? それは小鳥だったり花だったり、動物や、空の星や雲や、人だったりするんだけど……
心のアンテナを広げていたら、きっと見つかります。見つけたら、私にも、教えてくださいね。
(1997年7月ちこり10号、編集後記)