世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

族長アシメック①

2017-09-13 04:12:55 | 風紋


朝、アシメックが目を覚ますと、もう妹は朝餉の準備をしていた。うまそうな糠だんごの匂いがする。それは彼の好物だ。

アシメックはこの天幕に、妹と二人で暮らしていた。親はとっくに死んでいた。妻はいなかった。

はるかな後世の人間が、紀元前3000年ごろだと推定するだろうこの頃、人間社会に結婚制度というものはまだなかった。人間は大人になると、ほぼ自由に、好きなように異性と交渉していた。子供は女のものだった。男はほとんど子育てに関与しなかった。

アシメックにも子供はいた。彼も何人かの女と交渉を持ったことはあったのだ。今はほとんど興味をなくしたが、若い頃は数人の男友達と連れ立って、目をつけた女の家に忍び込んだこともあった。その女の一人が産んだ娘が、最近また娘を産んだ。彼の孫にあたるが、平均寿命が四十にも満たなかったこの時代、孫を見ることができる人間はまれだった。

彼は四十二になろうとしていた。当時としては老人の域だ。だがまだ若々しかった。高い望みを胸に秘めていた。

妹が、飯ができたと声をかけてきたので、アシメックは寝床から立った。火を絶やさないように気を付けている囲炉裏のそばにいくと、土器の皿に糠だんごを二つ載せて妹が差し出してきた。妹には子供はいなかった。醜女だったので、男がつかなかったのだ。名はソミナという。しかしアシメックはこの妹を愛していた。不細工だったが、声や頬の線が母に似ていた。つくってくれる飯もうまかった。




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