朝、アシメックが目を覚ますと、もう妹は朝餉の準備をしていた。うまそうな糠だんごの匂いがする。それは彼の好物だ。
アシメックはこの天幕に、妹と二人で暮らしていた。親はとっくに死んでいた。妻はいなかった。
はるかな後世の人間が、紀元前3000年ごろだと推定するだろうこの頃、人間社会に結婚制度というものはまだなかった。人間は大人になると、ほぼ自由に、好きなように異性と交渉していた。子供は女のものだった。男はほとんど子育てに関与しなかった。
アシメックにも子供はいた。彼も何人かの女と交渉を持ったことはあったのだ。今はほとんど興味をなくしたが、若い頃は数人の男友達と連れ立って、目をつけた女の家に忍び込んだこともあった。その女の一人が産んだ娘が、最近また娘を産んだ。彼の孫にあたるが、平均寿命が四十にも満たなかったこの時代、孫を見ることができる人間はまれだった。
彼は四十二になろうとしていた。当時としては老人の域だ。だがまだ若々しかった。高い望みを胸に秘めていた。
妹が、飯ができたと声をかけてきたので、アシメックは寝床から立った。火を絶やさないように気を付けている囲炉裏のそばにいくと、土器の皿に糠だんごを二つ載せて妹が差し出してきた。妹には子供はいなかった。醜女だったので、男がつかなかったのだ。名はソミナという。しかしアシメックはこの妹を愛していた。不細工だったが、声や頬の線が母に似ていた。つくってくれる飯もうまかった。