鉄のナイフは美しい。そしてその切れ味と言ったらすばらしいのだ。石包丁だったら、稲を切ると四本目くらいですぐ欠けてしまう。だが鉄のナイフならずっと欠けずに使えるのだ。丁寧に手入れしていけば、一生使うこともできるのだ。
鉄のナイフは大事な宝なので、アシメックは稲刈りの時のみに使うことにし、普段の調理には石包丁を使わせていた。稲刈りの季節でないときは、みなここに集めて、茅袋に入れ、エルヅに管理させているのだ。
しばらく見守っていると、エルヅはナイフを数え終わったらしく、大きく肩で息をした。アシメックはさっそく声をかけた。
「いくつある」
「ティンダイタ(百二)だ」
「うむ。減っていないな」
「うん。だけど、かなり、腐りかけているのがある。ずいぶんと古いのだ。鉄のナイフも使いこんでいくと傷んでくるな。新しいのをもらわないといけないよ」
「もちろんもらうさ。この秋の稲刈りが終わったら、収穫の一部を出して、ヤルスベからまたナイフをもらうつもりだ。腐ってきているやつは別にしておいてくれるか」
「うん、わかった」
エルヅはまだ若い。二十代の半ばくらいだ。子供のころから小さく、大人になってもみんなほど大きくならなかった。それでいじめられたこともあった。アシメックはこういうやつが気になってならないのだ。無事に生きていけるかどうか心配で、ずっと見ていた。エルヅに数を数える才能があるとわかったときは、アシメックは自分のことのように喜んだ。