糠だんごは、米糠を熟成させ、甘菜の蜜をまぜてねってまるめたものだ。癖はあるが、なれるとうまい。いい身分の人間が食うものではないのだが、アシメックが好きなので、妹はたびたび作ってくれた。このカシワナ族の村の南には、オロソ沼という大きな湿地帯があり、そこにはすばらしい野生の稲の群れが自生しているのだ。カシワナ族の人間はその稲を採取し、それを主食にして暮らしていた。赤米だが、実にうまく、人々は毎年目の色を変えて採集していた。精米する過程で大量に出る糠も、人々はさまざまに利用していた。糠だんごもそのひとつだ。
二つ目の糠だんごを食い終わると、アシメックは口をぬぐいつつ、出口のところに置いてある土器の広鉢のところに行った。それには水が張ってあり、カシワナ族の男は、毎朝それを水鏡にして顔を見、化粧を直すのが習慣だった。入り口から光を入れながら水に映した自分の顔を見、頬に入れてある文様を確かめた。彼の両頬には、赤土を解いた紅で描いた三角形の模様があった。それは神カシワナカのしるしで、カシワナ族の族長のみが顔に描くものだった。族長である限りは、その印を消してはならない。崩してもならない。アシメックは水鏡を見ながら、文様が特に崩れてはいないのを確かめた。ゆえに彼は、今朝は広鉢の横に置いてある赤土を入れた小さな土器には触れなかった。文様が崩れていたときは、それを水で溶き、文様を書き直すのだが、今日は別にそれをしなくてもいい。
それから彼は家の外に出た。明けて間もない空を見つつ、朝の冷えた空気を肺いっぱいに吸った。心地よい。アシメックはこの朝の時が一番好きだった。これから始まる一日の予感が、明るくよきものとして体中に満ちてくる気がするのだ。