リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

またリュートの絵

2024年11月29日 12時06分04秒 | 音楽系

昨日の日経新聞の例のコラムにまたリュートの絵がありました。もっとも私は「リュートの絵」として見てしまいますが、一般的には「道化師の絵」でしょう。

17世紀のオランダの画家、フランス・ハルスによる「リュートを弾く道化師」です。

日経新聞のこのコラムにリュートが描かれている絵が出てくるのは鬼門です。今回も何かやらかしていたらまた編集部にメールか、と目を皿にして記事を読みましたが、楽器については何も書かれていないので今回はセーフでした。

コラムではこの絵はカメラ・オブスクラという機器を使って描いたという説があることを紹介しています。カメラ・オブスクラというのはラテン語で「暗い部屋」意味することばだそうです。

箱に小さい穴をあけて箱の中に像を写します。こんな原理です。

ウィキによりますと、

原始的なタイプのカメラ・オブスクラは、部屋と同じくらいのサイズの大きな箱を用意し、片方に小さな針穴(ピンホール)を開けると外の光景の一部分からの光が穴を通り、穴と反対側の黒い内壁に像を結ぶというものであった。画家がこの箱の中に入り、壁に紙を貼り、映っている像を描き写すことで、実際の光景とそっくりの下絵をつくるという使い方がされた。

とあります。同コラムの筆者はこの絵はこうした技法を使って描かれたのではといいます。でもそれにしてはリュートのネックの仕込みが少しおかしくまた少し反っているように見えます。

ルーブル美術館蔵のシャルル・ムートンの肖像画は写真みたいに正確にリュートが描かれていますが、これこそカメラ・オブスクラを使って描かれたのかも知れません。

こちらは1976年にオランダ、デンハーグのへメンテ博物館のミュージアムショップで購入したプリントですが、原画はルーブル博物館の作品をもとにしたと言われている銅版画です。リュートの形状や弦の描写はまるで写真撮影したかのように完璧です。ムートンの左手もハ長調の和音を正確に押さえていて今にも6コースのド、3コースのド、2コースのミ、1コースのソの和音が聞こえて来そうです。ただ少し不可解なのは右手親指が7コース(ソ)を触っていることで、これはちょっと残念。6コースに触れていて欲しかったです。中指、人差し指の位置は正確に描かれているのですが。それから左手小指が2コースの4フレットのファ#を押さえているように見えますがこれは弦を押さえずに上に置いているだけのはずです。画家や銅版画作者はそこがよくわかっていなかったんでしょう。実はルーブル博物館の原画はまだ見ていませんが、そこらあたりはどうなっているんでしょう?

 


ヨーロッパの街角から

2024年11月28日 23時25分41秒 | 音楽系

オーケストラ ファン・ヴァセナール室内楽シリーズ第25回「ヨーロッパの街角から」~日常に楽しむ美しい響き~というコンサートに行ってきました。

会場はHITOMIホールです。ホールのHPで偶然知ったのですが、知り合いの佐藤亜紀子さんが出演されるということで出かけました。

共演は赤津眞吾さん(ヴァイオリン)、今田利(ヴァイオリン、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ)です。プログラムはイタリア系のものが中心でした。佐藤さんはアーチ・リュート(リウト・アッティオルバート)とバロック・ギターを通奏低音で使い分けていました。

終演後伺ったのですがこの2本の楽器は数年前に亡くなられた某リュート奏者が使った楽器で両方ともスティーブン・マーフィーの作です。実は私もマーフィーのバロック・ギターを持っているのですが、音も外観もとてもよく似ているので話を伺ってやっぱり!という感じでした。

終演後のツーショットです。

コロナ禍以降移動は車ばかりで、公共交通機関を使うことがほとんどありません。今回はたまにはということで電車に乗ってでかけましたが、会場の最寄り駅の中央線千種駅が私が知っている千種駅と全くことなっていたので戸惑いました。

HITOMIホールで何回もコンサートをやっているくせに、実は電車で行ったことがないし、千種駅の様子が変わってしまっていたし、おまけに関西線が10分も遅れて名古屋に到着したので会場に着いたときはすでに曲が始まってしまっていて最初の2曲を聴くことができませんでした。かえすがえすも残念。

 

 

 


BWV1006a(30)

2024年11月27日 19時56分09秒 | 音楽系

今回からブレです。ブレはアップテンポの曲ですので軽快に弾く必要があります。

意外にもこの曲の前半はそれほど技術的に難渋する箇所はありません。9小節目からバスの動きが活発になりますが、鍵盤楽器のアレンジみたいな動きではなくリュート奏者が作った曲でもこのくらいの動きがあるのはいくらでもあります。

とはいうものの全体のテクスチャーがリュートの「ツボ」にはまっているかというとそれはなかなか微妙なところ。できるだけリュートに都合のいいポジションを取ったつもりですが、ヴァイスみたいにはいかないのがバッハです。でも聞いている人にとってはとてもリュート的な音の流れだと感じるのではと思います。

ともあれ、無窮動で138小節もあるプレリュードやスローでも技術的に大変なルーレと比べればずっとありがたい曲です。組曲の終盤だということでバッハもある程度は配慮してくれたのかも知れません。


名古屋城天守の復元

2024年11月26日 14時30分30秒 | 日々のこと

名古屋市長選が終わり前市長の河村氏の後継となる広沢氏が新しい市長に当選しました。河村氏の市政を引き継いでいくとのことで、その中に名古屋城の木造復元も含まれています。

名古屋城天守は第二次世界大戦時の空襲で焼失しましたが、それ以前に測量した詳細な図面が残されていて、それを元にすれば完全な復元が可能だということです。しかし建造当時は多分「現場合わせ」みたいな現場裁量で進めて行った部分が多かった思われますので測量図だけでできる!と言われて担当する大工さんは大変でしょう。測量図にかかれていない部分が実は重要なのです。

同じようなことがリュートの復元でも言えます。例えばティーフェンブリュッカーのオリジナルの精密な図面があれば完全な復元が可能だと一般には思われがちです。リュートを弾いている愛好家でもそう考えている方がいるかも知れません。でも一番重要な情報はその図面には描かれていません。オリジナルの現物を製作家自身で測定しても多少は情報は増えるにしてもやはりもっとも重要な情報はなく製作家の力量でそれを製作していくことになります。ですからできあがった楽器はティーフェンブリュッカーを元にはしていますが、ティーフェンブリュッカーの音ではなくその製作家の音が鳴ります。

精密図面があれば完全に復元できるというのは幻想です。名古屋城の場合、残された測量図を元に作ってもそれはかつてあった名古屋城とは別物の現代の大工さんが作った21世紀の城郭です。

リュート製作家が昔のモデルを精密に再現して作ったという触れ込みがありますが実際には必ず自分独自のノウハウを織り込んで作っています。名古屋城を復元する場合も現代の事情に合わせた昇降機構を備えるというのもちっとも「復元率」が下がっているということにはなりません。どっちみち他の部分も厳密には復元できることにはなりませんから。当局の復元計画では慎重に昔のままの状態を保持した上で最小限の現代的な機構を備えるという方向みたいですが、思い切って十分な現代的機構を備える方向にしたらどうかなと思います。ちょっと暴論かな。(笑)


若隆景問題

2024年11月25日 12時29分20秒 | 日々のこと

大相撲九州場所は琴櫻が見事初優勝を飾りました。千秋楽の豊昇龍との相星決戦を制したわけですが、豊昇龍は足を滑らせてしまい惜しいことをしました。琴櫻はラッキーでしたが、まぁ運も実力のうちでしょう。

三賞では前頭2枚目の若隆景の技能賞が光ります。若隆景というしこ名はたぶんアナウンサーや相撲解説者泣かせだったと推察します。けがをして下に落ちる前はベテランアナウンサーもときどき噛んでいましたし、名解説者舞の海さんなんか何度も噛みまくっていたくらいです。

若隆景が故障で下に落ちている間は、「ワカタカカゲ」と読み上げる必要がなかったので安心していたのではと拝察しますが、再起して上位に上がってくるにつれてまた悩みが増えてきたようです。最近の場所とくに今場所なんかは何回も「ワカタカカゲ」と読み上げる必要が出てきました。

でもみなさんある戦術を身につけたみたいです。それは少しゆっくりめに言うことです。早口で実況していたアナウンサーが若隆景が出てくるとそのしこ名の部分だけ速度が2割くらい(私の実感です)落ちます。おかげでもう噛むことはなくなりました。

でも本質的にはその戦術は邪道です。私の独自日本語発音の分析では、日本語のガ行に鼻濁音があるようにカ行にも別の発音が存在しています。カ行の「カ」と「コ」における弱鼻音的な音です。「カ」と「コ」の音は語頭では破擦音でかつ音を前に出しますが、語尾では破擦音かつ弱鼻音みたいな音に変わります。

「ワカタカカゲ」の3つの「カ」のうち一つ目と二つ目はその破擦音+弱鼻音で音で言うと実は噛むことはなくなります。若隆景というしこ名を連続的な1語と捉えるのではなく、若と隆と景の三文字のつながりと捉えるのです。「ワカ」と「タカ」のカは語尾ですので破擦音+弱鼻音、「カゲ」は語頭なので鼻音的要素のない破擦音になります。

今場所のアナウンサーで私が提唱している方法で言っていたアナウンサーがいました。その方がずっと言いやすいし普通の速度で発音できます。若隆景というしこ名になると急にスピードを落として言うのは少し変です。スピードを落とさず全ての「カ」を鼻音的要素のない破擦音で言う力業はもっと変です。


桑名六華苑ミニコンサート2024秋

2024年11月24日 17時04分22秒 | 音楽系

今日もコンサートでした。

桑名六華苑のミニコンサートで、春に続き本年度2回目になります。今回は愛知県刈谷市在住のギタリスト高須大地さんとのジョイントです。まぁジョイントというより私は「前座」ですが。

昨日の夕方は風も強くとても寒かったですが、今日は比較的穏やかな陽気でした。しっかりと厚着をしてホッカイロを両ポケットに忍ばせておいたおかげで手が冷たくなるということはありませんでした。

今回も後ろに立ち見が出るくらい沢山の方にお越しいただきました。寒いのでお客様用のホッカイロも用意していきましたが、幸いにも会場が思ったより寒くなかったせいか欲しいかたはいらっしゃいませんでした。

プログラムは次の通りです。

ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)/組曲ホ長調BWV1006aより

 ルーレ、ロンド風ガヴォット

シルヴィウス・レオポルド・ヴァイス(1687-1750)/パッサカリア ニ長調

ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)/組曲ホ短調BWV996より

 アルマンド、ジグ

ロベール・ド・ヴィゼー(c.1650-1725)/プレリュード、ガロ氏のトンボー、モンフェルメイユのロンド

マヌエル・ポンセ(1882-1948)/組曲イ短調

 プレリュード、アルマンド、サラバンド、ガヴォットI II、ジグ

アンコールとして高須さんにクープラン/神秘のバリケードを演奏していただきました。

(ヴァイスと996を演奏したのは高須さんです)

桑名六華苑で年二回開催しているこのシリーズ、始めてから16年を数えますが、来年もまた春のコンサートを5月頃に開催する予定です。


大学のOB.OG演奏会

2024年11月23日 21時23分23秒 | 音楽系

今日は名古屋のミューズ音楽館で大学のクラブ「ギター音楽研究会」OB、OGの演奏会で何曲か演奏させてもらいました。

このクラブは大学2年生のときにミューズ音楽館のY氏と私を含めた何人かで立ち上げたクラブで、主にソロや重奏の演奏活動に主眼をおいた内容のクラブでした。当時は大人数のギター・アンサンブルが大学クラブの主流で私たちが作ったクラブは少し特殊でありました。今も同じ名前のクラブが大学にありますが、中身は全く変わっているようです。

私自身はこのクラブに身をおきながら、名古屋のギター界の方達と交流を持つようになりプロフェッショナルな活動をすることになります。もっともギタリストとしての活動はわずかな期間でその後リュートに向かいます。

演奏曲目は、バッハ/BWV1006aからルーレとガヴォット、ド・ヴィゼー/プレリュード、ガロ氏のトンボー、モンフェルメイユのロンドーでした。本当はプレリュードもやろうかと考えていたのですがあとの打ち上げが控えていましたので少々短めに終えることにしました。

また来年も同じような時期に同演奏会が行われます。


リュートの寓意(2)

2024年11月22日 19時04分52秒 | 音楽系

次の絵はピーテル・ブリューゲル(父)「死の勝利」(1562-1563頃)です。

ブリューゲルの絵はプラド美術館蔵の作品で「大軍団で襲いかかる骸骨に立ち向かう人間の悲壮な戦いを描いている」とあります。そんな中リュートに合わせて歌を歌っている男女(右下)とかその後ろにはフィドルみたいな弓で弾く楽器を弾いている骸骨がいます。(この作品が書かれた時代はまだヴァイオリン属は普及していません)右下には骸骨を積んだ荷車に乗った骸骨がハーディ・ガーディを弾いています。

フィドルとハーディ・ガーディを弾いていた人間は骸骨にすでに取られていますので、リュートの人たちも骸骨にやられるのは時間の問題ですが、恋に溺れている二人は周りが見えていないみたいです。リュートは恋は盲目の象徴なんですね。

バーゼルにいたころよく通ったバーゼル美術館にも確か同じような絵があった記憶がありましたので調べてみましたらピーテル・ブリューゲル(大ピーテル)の息子ピーテル・ブリューゲル(小ピーテル)が模写した作品のようです。

模写といっても随分アレンジされています。同じテーマで自分流に描いてみたという感じです。骸骨が弾いているフィドルのように見えた楽器もここでは18世紀のヴィオロンチェロ・ダ・スパッラの古いタイプの楽器だとわかります。

 

 


リュートの寓意(1)

2024年11月21日 09時44分17秒 | 音楽系

新聞に「西洋絵画のお約束(中野京子著)」の広告が出ていました。副題が「謎を解く50のキーワード」でそのキーワードの中にリュートが入っていましたので早速Kindleで購入して読んでみました。

リュートの項目では、楽器の簡単な説明があって、「大きさの割には軽く」という文言もありました。著者はなかなかリュートにお詳しい方かも知れません。

「近年また愛好者が増えている由」という文言もありましたが、これは微妙なところです。さすがに昔みたいに「ギターくずれ」でリュートに来たという人はもういませんが。

絵画に描かれているリュートは音楽、聴覚というずばりの象徴であるとともに、両性具有、調和の乱れ、不和などを暗示するということでした。三点の作品が挙げられています。

ひとつめはハンス・ホルバインの「大使たち」(1533)。ロンドンのナショナルギャラリー所蔵。

この作品では二人の大使が描かれていますが、フランスからイングランドへ送られた若い大使たちとのこと。イングランド王ヘンリー8世が離婚しカトリックと手を切ろうとしているのを翻意させようと若いフランスの大使たちがイングランドに赴いたのですが、描かれているリュートの弦が1本「ゆるみきっている」ので交渉は失敗だったということを表しているそうです。この「弦の1本がゆるみきっている」というのは間違いで弦は切れています。4コースのオクターブ弦です。

もっと寄ってみましょう。

明らかに4コースのオクターブ弦が切れています。弦の太さやブリッジへの結び方もとても正確に描かれています。

この当時の4コースはユニゾンではなくオクターブで張られていて、そのオクターブ弦は f ですから1コースに次ぐ(あるいは1コースと同じかさらに細い)細さなので切れやすい弦です。切れている弦が1コースではなく、4コースのオクターブ弦が切れているというのがなんか現実的で意味ありげです。1コースが切れていたらもう曲は演奏できませんが、4コースのオクターブ弦ならなんとか曲は弾けるので、この絵が描かれた1533年当時はまだ交渉の余地があったという意味でしょうか。でも実際はイングランドは1534年にカトリック教会から離脱しヘンリー8世は1538年に教皇パウルス3世に破門されています。

あと2枚の絵についてはまた次回。


QUADERNO

2024年11月20日 11時59分53秒 | 音楽系

QUADERNOという言葉はイタリア語でノートブックのことですが、この名がついた商品があります。富士通から出ている手書きのメモやPDFへの書き込みができる超軽量・薄型電子ペーパー、QUADERNO FMVDP43Cです。

FMVDP43Cはカラー表示ができるモデルで昨日発売されたばかりです。サイズはA4とA5の二種類があります。発売は明後日11月22日です。これのモノクロモデルがあるのかと思って末尾に「C」がつかないFMVDP43を検索してみましたがありませんでした。FMVDP42もなくひとつ前のモデルはFMVDP41のようです。

金曜日発売の新モデルはA4サイズが税込み79800円です。数年前にGVIDOという名のA4見開き電子ペーパー楽譜リーダーが発売されました。お値段は税込みで20万弱でしたが、私は品定めに東京銀座の山野楽器までわざわざ見に行ったことがありました。高くても使い勝手がよくて有用なら大枚払ってもいいかなと思ったのです。しかしよかったのはA4見開きで軽量ということだけで、運用的重要点であるアプリ、ファイル管理、メモリ、処理速度、フットペダルなどの付属品等はiPad とは全く比較にならないレベルでした。

この税込み79800円はなかなか微妙なお値段ですね。私はすでにiPad Air 13 inchを買って使っているのですが、iPad Air 13 inch+Apple Pencil Proのお値段の約半額です。さすがに今乗り換えるつもりはありませんが、一番の差は重量です。iPad Air 13 inchが618gであるのに対してQUADERNO FMVDP43Cは368gです。この368gは魅力的ですね。さらに一世代前のカラー仕様でないモデルだと約6万円です。

今楽譜リーダーとして練習も本番も使っているiPad Air 13 inch+Apple Pencilは非常に高機能でメモリなんか128Gもあり楽譜リーダーとしては完全にオーバースペックです。(128G以下のモデルはありません)使用アプリのFor Scoreも高機能です。もう少し軽かったら言うことがないなという気持ちがあるので368gは魅力的に映りましたが、QUADERNO FMVDP43Cのアプリなどの使い勝手はどんなものなのでしょうか。気にはなります。