2月11日に開催するバロック音楽の旅11の第6回講座(コンサート)もいよいよ迫ってきました。今回のタイトルは、「リュート、ヴァイオリン、チェロのための疾風怒涛」で、18世紀第2四半期以降のバロック音のスタイルから脱却しつつある新しい様式の音楽を演奏する予定です。ヴァイオリンは廣田雅史君、チェロは波多和馬君です。
曲目はファルケンハーゲン、ハーゲン、ハイドン、シャフラートの作品を予定しています。この中で特にシャフラートの作品はまだ録音もされていないみたいだし、ひょっとしたら世界初演!?、まぁ少なくとも中京地区初演は間違いないです。(笑)
演奏予定のシャフラートの作品は、「二人の奏者のためのソナタ、チェンバロまたはリュートのオブリガートとチェロのために」というタイトルがついています。三楽章で構成されており、繰り返しをすると20分ちかくかかる大曲です。コンサートでは時間の都合で繰り返しはすべて省略しますが、それでも十二、三分はかかります。
(部分)
シャフラートはプロイセン王国のフリードリヒ大王の楽団でチェンバロ奏者を勤めていた人で、バッハの次男、カール・フィリップ・エマニュエル・バッハの同僚になります。同楽団にはリュートのエルンスト・ゴットリープ・バロンも参加していました。この曲のタイトルの書き方「チェンバロまたはリュートの」という部分は曲者で、どうみてもチェンバロ専用のための書き方ではありませんが、リュートでぴったり弾けるというものでもありません。チェンバロで弾くと音が少なすぎるし、リュートで弾くと技術的な難易度が極端に高い部分がある、というわけです。
バッハのBWV998も「リュートまたはチェンバロのための」という副題がついていまして、こちらはラウテンヴェルク(チェンバロにガット弦を張ってリュート風の音が出る楽器、当然曲もリュート風に作曲されたものを弾く)用というのが定説になっていますが、このシャフラートのソナタもどうもラウテンヴェルク用みたいです。同じ楽団にリュートのバロンがいますので、彼にアドヴァイスをもらって書いたのではないでしょうか。どうせなら、バロンに弾いてもらってタブに直してもらっていたらよかったんですけどねぇ。
この曲はチェロ奏者の高橋弘治君に以前楽譜を頂いていて、いつか演奏してみようと思っていた曲です。楽譜をチラっとみた感じではとてもリュート的な音の密度で音域もリュートの音域内でしたが、いざリュートで弾いてみるとこれがどうしてなかなか曲者でした。やっぱりラウテンヴェルク用ですねぇ・・・
第1楽章の出だしなんかとてもリュート的な動きで好印象なんですが、途中で何か所かなんともリュートでは弾きづらい箇所が出てきます。そういった箇所の音型を少し変えたり、バスをオクターブ上げ下げしたりして演奏可能なタブを作りました。こういうときはシベリウスはとても便利です。実は最初手書きでアレンジを始めたのですが、あまりに手がつかれるので、途中でシベリウスに切り替えました。丸一日無駄になりましたが・・・
今回のアレンジにあたって、オリジナルの手書き譜も参照しました。高橋君からもらった楽譜はフーゴ・ルーフによるものです。楽譜自体に音の間違いがあったり、多分編曲者の意思が入っているかもしれないので、第一次ソースに戻ってみました。今は便利な時代でオリジナルはIMSLPというサイトにパブリックドメインとして公開されています。実は40年くらい前に、欧米の図書館や博物館に所蔵楽譜のコピーを大量に発注したことがありました。
もう絶版になっていますが、エルンスト・ポールマンという学者が編纂した、「リュート・テオルボ・キタローネ」という、これらの楽器のための楽譜のカタログおよび所在地一覧本がありました。1970年代の前半にそれで調べてすべてのバロック・リュートを含んだ室内楽作品を記載されている図書館・博物館に照会したことがありました。当時の東ドイツにあったものは全く返事がなかったものや、お金を送ったのに最終的には届かなくて入手できなかったものもありましたが、大半はちゃんと届きました。私の記憶ではシャフラートという人の作品は照会していませんでしたし、当時の私の送付記録を見てもシャフラートはありませんでした。ところがポールマンの著書を改めて見てみますと、ちゃんとシャフラートは記載されていました。あらら、見落としていたんですね。
でも現代は便利な時代になりました。所在地がベルリンなので、70年代だとひょっとして入手できなかったかもしれないし、入手できても白黒だしマイクロ・フィルム代、それの現像代、製本代などいろいろ経費もかかったことでしょう。旧東ドイツだから入手まで半年から1年かかります。今はあっというまにタダでダウンロード、しかもカラーでとても鮮明です。おかげで今回のコンサートには楽勝に間に合いました。
コンサートは先述のように2月11日(日)15時、会場はくわなメディアライヴ「時のホール」です。曲目はシャフラートの他に、ハイドン「カッサシオーナ」、ハーゲン「リュート、ヴァイオリン、チェロのためのソナタ」、ファルケンハーゲン「ソナタ第5番より」他を予定しております。