リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

英語スピーキングテスト

2022年11月30日 16時17分22秒 | 日々のこと
東京都が都立高校入試でスピーキングテストを実施しました。

受験中の写真をみると大勢の受験生がヘッドセットを付けて机に向かっています。多分のこのヘッドセットはノイキャンが付いてて隣の人の話し声は聞こえず、指向性の強いマイクで自分の声だけを拾うという感じなんでしょう。少し前ソニーのノイキャンイヤフォンを持っていましたが、外の音は全く聞こえないというわけではないんですよね。それと指向性の強いマイクといっても多少は近くの声も拾いますから大丈夫なんでしょうか。まぁ都立高校の入試で使うくらいですからこのレベルのことはクリアしているのでしょう。

以前国立教育政策研究所で学習指導要領実施状況テスト(全国で抽出校が受検します)の制作に携わっていたときに、スピーキング力をペーパーテストでどう測定しようかというのをいつも議論していました。ペーパーテストですからもちろん擬似的は測定になりますが、なかなか難しい課題でした。今回の東京都のテストはタブレットの画面を見て実際に音声を聴いて、スピーキングを録音するものですから、画期的だと思います。テクノロジーの進化が後押ししたという感じがします。

ただ大きな問題があります。それは採点時間(人材)の確保と採点の公平性の担保です。

このテストは15分のテストのようですが、答えの録音は多分その何分の一かの時間でしょうけど、それでも採点に時間がかかりすぎるのではないでしょうか。15分のテストというのは普通の授業で行われるペーパーテストなら「小テスト」と呼ばれる類いのものですが、一枚採点するのにものの30秒もあれば出来てしまいます。

それと今回は約6万9千人が受験したそうですが、公平性は担保できていたのでしょうか。よほど評価基準をしっかりと策定して(これは問題作成時から考慮しないといけません)採点にあたらないといけません。それに採点は英語教育の専門家でないと無理ですが、人数は確保できているのでしょうか。

恐らく教育現場や教育委員会だけの人数では無理です。いくら評価基準がしっかりしていても、数学や国語の先生が英語のリスニングテストの解答録音を聞いて採点をするのは無理です。ペーパーテストなら、当該高等学校の先生が総出で採点するわけですが、公平性は担保できていると言えますが。

東京都がどういう方法を採っているかはわかりませんが、いろんな状況を考慮すると結局採点をアウトソーシングする以外手はないと思います。ともあれ、公立高校の入試に音声を伴いインタラクティブ性が取り入れられたテストが導入されたのは大変結構なことだと思います。これが各道府県にも浸透すると日本の英語教育も変わっていくのではと思います。

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(17)

2022年11月29日 18時12分01秒 | 音楽系
前回の最後:
現代のプロ奏者でこのポジションは少ないと思います。多くはもっとブリッジよりとかあまり位置を固定しないという方法をとっています。

今回はここから:

これはプロ奏者は合成樹脂弦を使うケースが多いからそうなるのだ。つまり(1)合成樹脂弦を張ってブリッジ近くで弾いたのでは綺麗な音がでないからだ。しかし昔は(2)ガット弦を使っていたのでブリッジ寄りで弾いても綺麗に音が出るのだ、などとよく言われます。

しかし(1)(2)の2つとも正確ではないかも知れません。プロ奏者には綺麗な音を出し、いい表現をするためにそういう方法(合成樹脂弦+ブリッジから離れた弾弦)をとる人がいます。でも合成樹脂弦+ブリッジ寄り弾弦でも綺麗な音は出せます。

また(2)のようにガット弦を張ってブリッジ寄りで弾いたら即綺麗な音が出るわけではありません。そういう方法をとって汚い音を出している人はいくらでもいます。

ガット弦+ブリッジ近くでの弾弦(あるいはガット弦のみ)にこだわる人がいますが(アマチュアの人に多い感じがします)バイアスをかけずに自分の出している音をしっかり聴いてみる、あるいはバイアスのかかっていない人で率直なに聴いてもらうといいと思います。でもリュートというだけでバイアスがかかってしまうので、難しいところですが。

いい音が出ていないのなら、その方法で綺麗な音をめざすか、弾弦位置や弦も合成樹脂に変えたりして別の方法も試すべきです。ガット弦+ブリッジ近くの弾弦ということだけで止まってしまい、そこから先のいい音いい表現をめざさない、あるいはガット弦+ブリッジから離れた弾弦で汚い音が出ているのに、合成樹脂弦を否定してガット弦にこだわるなどというのは教条主義に陥っていると言っていいでしょう。方法論にこだわるのではなくよく練習していい音楽を奏でることが大切です。

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(16)

2022年11月28日 14時34分37秒 | 音楽系
それではMf.2002手稿本に関するスミス他論文をもとに、同手稿本のリュート技術解説を見ていきましょう。項目1番2番は調弦のことなので省略して3番です。

右手小指の扱いです。

「右手小指はブリッジの向こうではなく手前に置く」

右手小指を表面板に置くのは、リュートを弾くときの常識といって言いことがらですが、どのあたりに置くかの話です。小指がブリッジの向こう、つまり弦を張っていない側においている昔の絵を見たことがありますが、それはアカンと言うことなんですね。

シャルル・ムートンはこんな感じです。



さすが、項目3番の仰せの通りです。

土曜日のコンサートの私はこんな感じでした。



うむ、まぁよく似た感じですね。

でも現代のプロ奏者でこのポジションは少ないと思います。多くはもっとブリッジよりとかあまり位置を固定しないという方法をとっています。

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(15)

2022年11月27日 17時32分22秒 | 音楽系
先述しましたように、ヴロツワフ大学図書館にあるMf.2002手稿本の始めの方のページに22項目にわたって奏法や諸記号、調弦の解説などが書かれています。アメリカ・リュート・ソサエティのジャーナルVol.IX(1976)にダグラス・オールトン・スミスとピーター・ダナー共著の論文が掲載されていて、同手稿本の解説とそれら22項目の翻訳が掲載されています。それらをいくつかかいつまんで紹介していきたいと思います。

22項目中3番から17番までの15項目がルサージュのものをほぼ引き写しているようです。次のような感じです。

ルサージュ(1695)の15項目→Mf.2002の3番~17番。

そして追加された部分はいつ頃書かれたかということに関して、スミスらはルサージュの出版からまる一世代後くらいだろうという推測をしています。その根拠として次の2点をあげています。

(1)13コースリュートは1830年代にならないとドイツ語圏諸国では一般的とは言えなかったが、件の解説では13コース楽器を扱っている。

(2)同手稿本に収められている曲のうち1720年頃に書かれたヴァイスのパルティータ(ソナタ)ヘ長調に1739年という筆記の年号が書かれているので、同手稿本の筆記は1720年頃以前はありえず、また1740年頃以降に完成していたこともありえない。

手稿本は何年もかけて筆記していった可能性がありますので、(2)の根拠はなかなか実証的です。

大学のギタークラブOB演奏会

2022年11月26日 23時31分51秒 | 音楽系
今日は母校でありますN大学のギター音楽研究会のOB演奏会に出演しました。会場は名古屋市北区のギター専門店ミューズ音楽館のミューズ・サロンです。



今を去ること52年前、大学でギター音楽研究会という同好会を結成しました。(後に正式な部になったと思います)当時の大学ギタークラブの多くは大人数で大合奏をしていましたが、そういう形態に異を唱え、仲間とソロ・重奏中心のクラブを作りました。大学に入ったときは、別の大合奏のギタークラブに入っていたのですが、そういった趣旨のクラブを何人か引き連れて作ったものですから、上級生にはクラブの存続が危うくなるということで嫌われてしましました。でもその大合奏クラブはその後も潰れることなく健在でしたけど。

卒業して何年かたってOBと現役の合同演奏会始めましたが、その後はクラブが雲散霧消しましたので、合同はなくなりOB演奏会になりました。もう30年くらいは続いていると思いますがだれも正確な開催数は覚えていません。

OB演奏会は大体11月の中頃から終わり頃に行われるのですが、この時期私は別のコンサートのリハーサルや本番と重なることがあってときどき出られないこともありますが、今年は参加することができました。

しかしこの手の演奏会は、実は私は苦手です。というのも私の番はいつも最後ですが、2時間くらいじっと座って楽器に触ることもなく、いきなり15分くらい弾くことになります。まぁ別の部屋に行って練習してから本番に臨めばいいのですが、後輩の演奏も聴いてやらねばならないですからねぇ。曲目は最初何曲かは手慣らしの曲を入れておくのですが、手慣らしとしてはそれだけでは足らず、やっと手が慣れたところで終わりという感じになります。(笑)

今年はバロック・リュートで18世紀初め頃の小品を演奏しましたが、来年はポップなのをやってみましょうか。




彼こそが海賊(チェロデュオ版)

2022年11月25日 17時46分58秒 | 音楽系
孫が通うチェロ教室用に「彼こそが海賊」(パイレーツ・オブ・カリビアンのテーマ)を2本のチェロ用に編曲したということは以前のエントリーで書きました。実際にどんな演奏になるか、それなりにリアルな音源を制作してみました。アーティキュレイションも強弱もきちんとつけています。

彼こそが海賊

メロディは生徒が弾きますが、この曲はものすごく有名なので慣れないと難しい複合リズムも全く問題がないそうです。先生パートが伴奏になりますが、ダブルストップのオンパレードなので結構難しいかもしれません。でも実際に弾けるように書いています。

私のアイデアで真ん中にスローな部分を挟みました。でも実はメロディは速い部分をゆっくり弾いただけです。感じを変えるために先生パートのハーモニーをいままでとは別のものに付け替えています。そしてそれをピッチカートで演奏することによってがらりと雰囲気を変えています。

音源はMiroslav Philihamonik 2 CE (IK Multimedia) というオーケストラ音源のチェロを使っています。この音源はピッチカートが用意されていませんので、それだけはNative Insrument の Cremona Quartet のチェロを使っています。DAWはStudio One 4です。

フランス語のCM

2022年11月24日 13時41分22秒 | 日々のこと
最初はフランス語で言ってるのかと思いました。

最近よくTVお目にかかるメガネのCM。

オーン、オーン、オンオンオン、オンデーズ

と若い女の子が口ずさみながら踊るCMですが、OWNDAYS というメガネチェーンのCMです。はい、私はこの女の子にもメガネにも興味はないのですが、発音がささってしまいました。「デーズ」の部分意外な全て鼻音に聞こえますので、奇妙な感じでした。日本の「ん」は英語の「n」と異なり鼻に息を抜く鼻音ですが、6回も連続で鼻音が続くしゃべりは普通はありませんので、フランス語っぽく響くのです。「オーン」の「オ」も本来の日本語では鼻音ではないのですが、「オンオンオン」と続くと隣接の「ン」に飲み込まれてほとんど鼻音の母音にになっています。

これを英語でやってみると、

own, own, ownownown, owndays

となって鼻音がひとつもないので、TVCMのお姉さんの発音とはかなり異なった響きになります。ownownownも続けて速く言うとリンキングが起こりますので「オウノウノウヌ」みたいな感じになってしまい子音が多すぎて重くなってしまいます。オーン、オーン、オンオンオン、オンデーズは母音が多く軽やかで「デー」の濁音でぐっと締めていますので印象的なサウンドです。

ちなみにこの会社の日本語表記は「オウンデイズ」ではなく「オンデーズ」です。先発のJINSみたいに迅速、安価なメガネを売る店です。私は今JINSのメガネをかけてこのエントリーを書いていますが、調べてみるとオンデーズは四日市にお店があるので行ってみたくなりました。うむ、結局CMにはめられたか。

正しい言葉遣い

2022年11月23日 22時12分33秒 | 日々のこと
天皇陛下がユーミン、ひふみんら今年の文化功労者17人と皇居で面会面会されたとのことです。皇后様はユーミンに直接お言葉がけをされたそうです。ユーミンの音楽はアレンジャーの松任谷正隆がいて成り立っているので、彼も功労者に選ばれるべきだとは思いますが、それはさておき。

新聞にはこのことが小さく載っていて、「大衆音楽の松任谷由実さんら・・・が皇居で・・・」とありました。大衆音楽ねぇ。もうあまり使わない言葉ですよね。ここはシンガーソングライターと書くべきところでしょう。大衆音楽ということばからは50年くらい前の演歌っぽい音楽を連想してしまいます。

以前ラジオで「本格的バロック音楽の演奏家である鈴木秀美さんのコンサートが開催されます。・・・」という宣伝を聞いたことがありましたが、本格的というのは普通はシロウトがすることに対してして使うことばでしょう。本式なんかも同様な状況で使われると思います。だれもカラヤンの演奏を本格的とは言わないですよね。

これらとはレベチですが、私も昔教員をやっていた時代に名古屋でリサイタルを開催した際、来場していただいた学校関係者の方から、「センセイ、本格的なコンサートですね!」って言われたことがありました。私は「あなたねぇ、本格的という言い方はトーシローに対していうことば。ことばの使い方に気をつけて。これはちゃんとしたリサイタル!」と言えるとよかったんですが、気が弱い私はとてもそんな傲慢な言葉は口にすることはできず、「あ、ありがとうございました。なんとか無事に終わりました」と言って波風たてずに善人のフリをしていました。(笑い)

バロックリュート奏法の歴史的根拠と実践(14)

2022年11月22日 09時36分18秒 | 音楽系
今まで見てきましたように左手の薬指の指示がある楽曲は確かにありますので、少なくとも17世紀後半から18世紀初め頃には薬指を使うテクニックがあったというのは間違いありません。

ただ、先述していますように、バロック・リュート用のタブに限ったことではないのですが、タブに指の指示があることは稀で、指の指示があるところは特殊な指使いだということなのでしょう。

特殊な指使いをするところというのは、速いアルペジオなど技術的に華やかな部分に限られているようです。指の指示がないところでは概ね親指、人差し指、中指を使って弾いていたと考えられます。

では具体的にどうするかということになると、これはやはり装飾の弾き方と同様、経験を積んだ方に直接教えてもらうのが一番だと思います。1コースのメロディは中指連続、2コースは人差し指連続で弾くなんて論外。でもこういうの多いです。また学術的にということで文字情報や聞き覚えだけで適当に解釈するとトンデモ演奏になってしまいます。(方向性は買いますが)先達には技術的なことだけでなく音楽そのものを教えてもらうべきですけどね。

さて次回から装飾記号に戻って、コンマ様の印以外の装飾記号も見てみましょう。

リハーサル

2022年11月21日 21時54分32秒 | 音楽系
今日は都内某所でフラウト・トラヴェルソとリコーダー奏者の國枝俊太郎さんとリハーサルでした。


終わったあとシーメーをファミレスで頂きました。

彼はフラウト・トラヴェルソとリコーダーの両刀使いですが、単なる両刀使いではなく、ひとつのコンサートで曲単位で交代でふたつの楽器を演奏しても大丈夫という稀有な方です。

今回のプログラムは、バッハ、テレマン、ヴァイス、クヴァンツ、バロンの作品を用意しました。これだけの大家の作品が並ぶとバロンの作品はちょっと苦しいところですが、今回演奏する彼の作品、「リコーダーとリュートのためのコンチェルトニ短調」は彼の唯一リコーダーのソロの作品で(フラウト・トラヴェルソ・ソロは何曲かあります)、滅多に演奏されない曲ですがなかなかの力作です。

ヴァイスはもちろんソロも演奏しますが、注目は「リュートとフラウト・トラヴェルソのためのコンチェルトヘ長調」で、私が失われたトレヴェルソ・パートを復元したものです。3年くらい前にギターとモダンフルートのために書き直したものをギター専門誌に発表したことがありましたが、それから大幅に書き直しをしたものです。

実はトレヴェルソときちんと合わせたのは初めてです。ナンチャッテ奏者の人とは合わせたことは以前何回かありましたが、そのときはリュートとはそんなに相性がいいとは思いませんでした。ヴァイスのコンチェルトはヴァイオリンと何回か合わせたことがありましたが、ヴァイオリン相手だとちょっとヴァイオリンが出過ぎることがありました。でもトラヴェルソはしっくりとリュートの音に溶け込みます。自分でメロディを書いたわけですが、これほどしっくり行くとは思いもしませんでした。もちろんそれは國枝さんの腕によるところが大ですが。もっと早くトラヴェルソとのアンサンブルをやっておけばよかったですが、近所にちゃんとした人は見つからなかったし。来るべきコンサートが楽しみです。

コンサートは12月11日、バロック音楽の旅15第4回コンサート、会場は桑名市メディアライヴ1F時のホール15時開演です。