リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

BWV1006a(27)

2024年10月14日 21時25分11秒 | 音楽系

少し間があいてしまいましたが、BWV1006aのアレンジの続きです。

今回から Loure です。ヴァイオリン用のBWV1006にはほとんど装飾の記号はついていませんが、BWV1006aには装飾音がいろいろ書かれています。Preludeでは終わりの方にトリルがあるだけでしたが、Loureでは沢山出て来ます。

自筆譜のLoureの冒頭です。ここでは装飾音としては、上からのアポジャトゥーラ、トリル、アポジャトゥーラ付きのトリルが見られます。他にモルデント、下からのアポジャトゥーラが出て来ます。リュートのタブではこれらに完全に対応している装飾記号がありませんので、タブで記述する際はリュート式に )と )を時計回りに90度回転した記号そして(  の3つを使うことにします。この場合自筆譜に書かれているトリルとアポジャトゥーラは区別できませんが、もともと )は多義的な記号なので奏者の判断でいろんな形で自由に装飾した方がいいと思います。ひとつの記号で即興的にいろんな装飾をすることこそ当時のスタイルだと思います。

1-7小節です。

装飾記号の種類が少ないと楽譜がとてもスッキリしますね。


バロック音楽の旅17第2回レクチャー

2024年10月13日 22時24分09秒 | 音楽系

今日はバロック音楽の旅17の第2回で「秀吉の聴いた西洋音楽」というタイトルでレクチャーをしました。

とても天気がよかったので行楽に出かけるのを優先してしまうのではと危惧しましたが、今年の応募者89名の内の大半の方にお越し頂き大盛況でした。きっと午前中にどこかに出かけてランチをして、そのあとでレクチャーに来られた方も多かったのでは。帰りはちょっと早めの夕食をとり温泉に立ち寄って帰宅するという一日コースの方もいらっしゃったかもしれません。

秀吉の聴いた西洋音楽については皆川達夫説の「皇帝の歌」が定説化しているという困った状況にありますので、まず皆川説を紹介して、それの矛盾点を指摘しつつ歴史的事実を立脚点にして可能性を推測するという流れでプレゼンを進めて行きました。

まず天正少年使節団の足取りを地図と年代を見ながら辿ってみました。途中の流れは省略しますが秀吉が聴いた音楽はパレストリーナ、アルカデルト、ゲレーロあたりが順当ではないかという推測をレクチャーでは示しました。いろんなファクトを積み上げていった上で可能性を提示したわけです。いきなり「皇帝の歌」だと決めつけてあとでその理由をつけていくという乱暴なことは致しません。

それから秀吉に聴いてもらった音楽は宗教曲ではなく世俗曲だったろうという推測も致しました。それは秀吉の御前演奏(1591)から遡ること4年前、少年使節の一団が日本に向けてリスボンを出帆した1年後、に伴天連追放令が秀吉から出されていたからです。伴天連追放令が出されているさなかに、異教徒である「『暴君』秀吉」(ルイス・フロイスの記述による)の前で宗教曲を演奏するほどイエズス会の面々は愚かではなかったでしょう。

こうして可能性を積み上げて推測を試みたわけですが、これはあくまで中川による推測、具体的にどういう曲なのかについてはもう手がかりはないし、求める必要もないでしょう。この先はファンタジーの世界ですから自由に想像すれば楽しいのではないでしょうか。

さて、次回の講座からはコンサートシリーズです。初陣の第3回講座は私がつとめます。11月17日です。興味のある方は是非ご参加下さい。詳細は私のHPをご覧下さい。


ペグの回し方(4)

2024年10月12日 10時46分04秒 | 音楽系

しかしペグ回し器を演奏会で使うわけにもいきません。結局は弦を交換するときにくらいしか使い道はなさそうです。楽器にくっつけておくわけにもいかないので、調弦する度に横に置いてあるペグ回し器を取りペグを回し、終わったら元の場所に戻すということをいちいちしなくてはなりません。

昔の人はもちろんこんなシチ面倒くさいことはやらず素手でペグを回していたんでしょう。現代には音程の狂いがより少ない合成樹脂弦があるので、それを使えばペグ回し器を使いたくなる場面は減るかもしれません。ガット弦を使っている方でこういったペグ回し器を使うというケースが多いようですが、これは方法論としては矛盾しています。昔の弦を使うなら昔の方法で調弦、です。

ガット弦はよく狂いますから、とにかく高い頻度で素早く弦を調整する必要があります。いちいちペグ回し器を使っていては時間がかかってしかたありません。素早くきちんと出来る人こそがガット弦を使いましょう。

将来は左横に置かれたAI搭載の調弦ロボットが、私の脳波を感じ音程を聴き取って素早く正確にペグを回してくれるようになるといいですねぇ。


ペグの回し方(3)

2024年10月08日 16時41分42秒 | 音楽系

こういった栓は17、8世紀の人々にとってはあたりまえの世の中であったため、いちいち押しながら回すということを言われなくとも指先が知っていた筈です。

当然こういった栓は固めですから指先の力もついていたことでしょう。これが現代人、とくに50歳くらい以下の人たち、になるとペグの回し方を知らないため、人差し指と親指でペグの持ち手を挟んだだけで回転させるだけというような回し方をしてしまいます。

それでは回るわけがありません。ペグの持ち手のカドを指に当ててテコの原理で回さないとまわりません。まぁ水道の水栓でも今は回さず上に上げるだけ、それすらもない自動水栓も増えているので出来ないのも無理はありませんが。

指先で「回す生活」がなくなっているために指先の筋力も衰えているので、もうひとつ出来にくくなる要素が増えます。回し方がわからない、プラス筋力不足です。

こういうことに対処するためにペグ回しの補助具が実はあります。

これは私の生徒さんの自作品を頂いたものです。これだと固いペグでも易々回りますし、ロー・ギア化するのでより細かい精度で回すことができます。


ペグの回し方(2)

2024年10月07日 18時50分27秒 | 音楽系

大昔私にとって初めてのリュートが完成したというので製作家野上三郎氏のスタジオを訪れました。氏は完成した楽器を手に取り、まず始めにリュートを調弦するときの注意事項を教えてくれました。楽器を演奏するときのようにかかえたまま調弦するのではなく、自分の前に楽器を置き右手と左手でペグを回しなさい。そのとき顔を近づけすぎると、弦が切れたりペグが抜けたりしたときに弦が目に当たるので注意しなさい、というような内容でした。

今聞くと笑い話のような内容ですが、もちろん調弦するときは演奏するときと同じように楽器を構えて左手でペグを回します。

注意することは演奏しているときとは異なり右手はより斜めにして楽器を自分の方と右膝上に軽く押さえ気味にすることです。前回のフェルメールの絵のような感じになります。
バロック・リュートの弾き方は、右手アームを下の絵のようにしていました。

これが調弦するときには右アームがフェルメールの絵のような角度になるわけです。

さらに重要なことはペグを回すときはペグボックスに押し込み気味にすることです。これをやらないと数回も回さないうちにペグはポロッと抜けてしまいます。ペグの棒は円錐状になっていて先の方が少し細いです。これは突っ込みながら回すことによって抜けないようにする工夫です。ペグを円柱状にしたらうまくしまりません。酒樽などの栓も同じ仕組みです。


ペグの回し方(1)

2024年10月06日 13時57分49秒 | 音楽系

リュートは産業革命以前の産物なのでいろんなところで現代人には多少の不便を強いることがあります。ペグに関することもそのひとつです。

一部のロマンティック・ギターではペグ仕様のものもありましたが、多くは金属のギアを回して調弦します。金属ギアがついているペグはロー・ギアになるので「大きく回して、少しずつ音程が上下」します。この方が当然音程は細かく合わせやすいわけです。さらに木のペグと異なり絶対に抜けることはありません。

私はこういった仕様のペグがついているギターがとてもうらやましいく思います。リュートの場合は、ギヤ比は車でいうとトップ・ギアと同じハイギアードですので、指で回した分と同じ回転で弦を巻き上げたり緩めたりします。ほんの数セントに満たないくらいの音の狂いを修正するのは、一発で決めるのはなかなか難しく「運」も影響してきます。

上の絵はフェルメールの有名な絵ですが、以前はリュートを弾いているところだとされていますが、今はそうはいわれていないようです。この絵については以前当ブログでも書いたことがありますが、絵の女性は少し前まで11コースバロック・リュートの5コースか6コースあたりを調弦していたが、何かに気づいて調弦するのを止めたところ、が描かれています。

調弦をしている最中でない証拠に左手は調弦しようとしているコースのペグを触っていても、右手はその弦は触っておらず10コースあたりの上に来ています。何かに気づき窓を見たらふいに右手が調弦している弦から離れてしまったのでしょう。

女性が何に気づいたかはさておき、正しいペグの回し方をよく表していると思います。


絵本太功記

2024年10月05日 19時38分58秒 | 音楽系

文楽を見に行ってきました。会場は津市の三重県文化会館中ホールです。このホールは三重県総合文化センター内にある施設で、この文化センターで教員時代の30年以上前に高円宮杯全日本中学校英語弁論大会の三重県予選を何回か運営したことがあります。当時は出来たばかりの建物でしたが、さすがに少し年期が入って来た感じがします。中庭にカラフルな彫刻がありましたが、塗り直し作業の真っ最中でした。

会場内のカフェで簡単な食事をとって中にはいりますと、文楽の人形が展示してありました。

今回の演目は二人三番叟と絵本太功記です。実は文楽のライブを見るのは今回が2回目。1回目は徳島に行ったときに見ましたがこれは短い簡略的なものでした。本格的なものを見るのは今回が初めてです。

この絵本太功記は本能寺の変を題材とする時代物だそうで、1799年に大阪の道頓堀若太夫芝居で初演されたと解説に書いてありました。全編はとても長いので今回は夕顔棚の段と尼崎の段の2編の上演。この2編でも1時間半くらいかかります。

上演に際しては左側に字幕があるので助かりました。さすがに太夫の語りだけでことばの意味を理解するのは難しいです。私は弦楽器奏者なので三味線のプレイについ耳目が行ってしまいがちです。絵本太功記の三味線は三人の方が交代で演奏しましたが、その中で一番最後に登場した鶴澤清介の三味線が圧巻でした。そもそも調弦を始めた第1音からして音が違いました。テクニックは素晴らしく太夫の語りによりそってストーリーを作って行く技量は大変なものだと思いました。まるでリュート一本と福音史家で受難曲をやるようなものです。もっとも太夫は歌唱はしませんが。

ヨーロッパのオペラは沢山の音を使い、沢山の人が登場してストーリーを展開しますが、人形と太夫の語りと三味線という全く別の方法でオペラに匹敵する舞台劇が展開できるとは、すごいものが日本にはあるものです。

 


瀬川千鶴

2024年10月04日 11時05分52秒 | 音楽系

リュートやクラシック・ギターの世界では女性奏者は普通だと思うのですが、ジャズやロックの分野では大半が男性だというイメージがあります。私が知らないだけなのかも知れませんが。

少なくとも40何年か前にフュージョンが流行り始めた頃は、フュージョンギタリストと言えば男性だと相場が決まっていました。その頃私は渡辺香津美のギターアルバムに衝撃を受けていろんな人の演奏を聴いていたのでそれは多分間違いないです。

最近 You Tube で The Jazz Averngers という女性ばかりのジャズ・フュージョングループの演奏をたまたま聴きました。編成は、サックス4人、キーボード、ギター、ベース、ドラムです。その中でギターがとてもいい感じなので名前を調べてみましたら瀬川千鶴というまだ30代の人でした。

キャリアはもう結構長いみたいですが、確実な技術とセンスのある音楽性を聴くことができましたので、早速ソロアルバムを探しましたら1枚出していました。

こっちの分野はシロウトなのであまり詳しくはないですが、昔に比べるとインストルメンタルはぐっと少なくなっている感じがします。そんな中、伝統的?なフュージョンやジャズの分野がまだ受け継がれていることがとても嬉しく思いました。車の中やワークアウト時の新しいお伴です。 次のアルバムが楽しみです。


驚きのワイヤレス

2024年10月02日 10時43分12秒 | 音楽系

iPhone でときどき英語のリスニングをするので、どこにいても出来るようワイヤレスイヤホンがあったらいいなと前から思っていました。はい、大層勉強熱心な私です。

ワイヤレスは多分そこそこのお値段がするだろうからと思いこんでいたのでなかなか購入には至りませんでした。大して勉強熱心ではない証拠です。

一昨日急に思い立ってネットでしらべてみましたら何と安いものは1000円台からありました。まぁ音楽用ではないので、昔の携帯ラジオで使われていたような片耳だけのコード付きイヤホン程度の音が出れば充分と、Xiaomi Redmi Buds 6 Play1380円をポチってしまいました。アマゾンのポイントがあったので実際は0円です。

注文が23時58分頃でしたのであと2分以内に注文すれば明日に届きますと脅されたのであわててポチったのですが、ホントに14時間後(つまり昨日のお昼過ぎ)に置き配されていました。

早速iPhoneとBluetoothのペアリングを行い音を聴いてみましたが、何と驚くことに片耳イヤホンどころの騒ぎではないのです。それどころか高級品に匹敵する?くらいの音が出ています。え?これが1380円?という感じです。

そこで高級品と比較をしてみました。比較品は泣く子も黙るShure SE846です。100倍のお値段の品です。比べてみるとまぁもちろんSE846と比べると音の解像度は劣り音質も少し薄い感じはしますが、それにしてもてっきりドンシャリだと思っていたのでこの音質なら大健闘です。高音域から低音域までナチュラルにバランスよく音が出ています。以前持っていた3万円台の日本製やデンマーク製の品よりはいい感じがしました。クラシックの音楽も充分聴くことができます。

Redmi Buds 6 Playはこの夏に出たばかりの新商品のようですが、ペアリングもとても楽で確実でしたしどうしてこんな値段で出せるのか不思議な感じがしますが、Xiaomiはスマホの巨大メーカーなので量産効果が高いからでしょう。ただこの品、お値段がお値段だけにケーブルは付属していませんでしたので、アマゾンで注文しました。こちらもポイントを使いましたが。

 

 


Finaleがフィナーレ

2024年10月01日 09時20分08秒 | 音楽系

現在楽譜作成アプリは Sibelius を使っています。まだヤマハが扱っていた頃の Sibelius 4 のマニュアルを持っていますので、20年以上前からのユーザーです。初めて買ったのは Sibelius 3だったかも知れません。

現在作曲、編曲に Sibeliusをフル活用しています。孫達のチェロ教室用の作・編曲を始め、少し前に名古屋のミューズ音楽館から出版したギター合奏曲集など楽譜はほとんど全て Sibeliusで書いています。Sibeliusでプレイバックできるので作・編曲で楽器を使うことはありません。バッハのリュート編曲も Sibelius を使います。ルネサンスもバロックも、そしてどんなスコルダトゥーラも対応できます。楽譜を手書きするのはアイデアをメモするときくらいになってしまいました。

スイスにいた頃すでに Sibeliusを使っていました。バーゼルの私の周りの人たちも皆 Sibeliusユーザーでした。噂ではバッハのカンタータ1曲を1日で打ってしまうという人もいたとか。その頃日本では Finale という別の会社のアプリを使う人の方が多かったみたいです。

実はそのFinaleも購入して使ってみたことがありました。でも 直感的に操作できるSibeliusと比べると、Finale はいちいち手順が面倒くさく使うのをすぐ止めてしまいました。ことばで言うと intuitive な Sibelius VS logical な Finale ということになるのでしょうけど、楽譜を書くというもっとも実用性を求められる作業においては Finale では話になりませんでした。

その後 Finale は改善されたのかも知れませんが、日本では一定数の方が Finale を使っているのが不思議でした。しかしついにそのときがやってきました。Finaleは今年の8月一杯をもって開発・販売を終了することになったのです。やはり支持する人が減り販売減に陥っていたのでしょう。

Finale の開発元は Steinberg の Dorico の優待販売をするみたいですが、Finale ユーザーで楽譜を沢山書いていた人であるのなら、アプリの性能を考えると絶対に Sibeliusに行くべきでしょう。Doricoでは力不足、ましてや無料のアプリや日本のベンダーのアプリではもっと力不足です。もっとも楽譜をあまり書かない人であればどれに行っても同じかも。そもそもそういう方は楽譜アプリは必要がないとは思いますが。