リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

リュートとの出会い (16)

2005年04月30日 04時25分42秒 | 随想
 晴れて加納氏の楽器を買うことになったのはいいのだが、実はお金のことなんぞ何も考えないで決めてしまったことなのだ。いや正確にいうと自分の楽器を売ってお金を作ることを考えていたことはいたのだが、今でもそんなに演奏人口が多くない楽器のこと、当時はもっと少なく、冷静になって考えると、売ってお金を作るということはあまりにも都合がよすぎることだと思えた。しかし、何という幸運か、ある人の紹介で野上リュートを欲しいという方が現れ、驚くことに加納氏の工房を訪れて1週間後には氏のリュートを買うための資金をほぼ手にしていた。

ロザリオ

2005年04月29日 00時23分50秒 | 日記
先日のクラッセンで、ロザリオがバロックギターを弾きました。彼はイタリア人で、スペイン人のマリーアとともに英語がしゃべれない希有な存在です。(笑)彼はいかにもイタリア人って感じのすごく愛想のいい人で、会ったときにおおげさに抱きついてキスをしてくれる唯一の男性です。あまりうれしくはないけど・・・
彼が弾いているときに、レオンのことを思い出しましたが、どうもあの「ちょいワルイタリアオヤジ」のイメージとロザリオが結びつきませんね。あれはどうもレオンが創作した日本人向けのイタリアイメージなんでしょう。
彼の演奏はとても繊細でしゃれているので大好きです。もうすでにイタリアで教えているらしいですから、そのうちソロアルバムを出すかもしれません。
演奏を始めるときに、めずらしく足台をさがしていたのでおやっと思いました。彼は、いつもはストラップで楽器をつって演奏するのですが、その時は足台を使いました。左足を足台に乗せて弾く、クラシックギタースタイルです。
楽器のホールドや右手のポジションはなかなか決定打がないのか永遠の課題なのか、ほんとにみなさんいろんなことをしているし、同じ人でも時々変えることがよくあります。ホピーも私がこちらに来てからの間にルネサンスリュートのホールドの仕方を変えましたし、かく言う私も日本にいたときと全然違うスタイルで弾いています。昔の絵に描かれているリュート奏者も、よく見るとみんなホールドの仕方やタッチの仕方は微妙に異なり、同じ人はいません。ま、要するにいろんな人のを参考にしながらも自分に合った方法を追い求めていくしかないわけですね。

リュートとの出会い (15)

2005年04月28日 05時49分29秒 | 随想
 加納氏の工房は、大学がある区と同じ区内の住宅街にあり、そう遠くはなかった。バス停からは近いはずだが、少し道に迷ってしまい、結局氏の工房の裏の空き地から直接工房に入ってしまった。突然入ってきた私に、氏は驚いたようだったが、事情を話すときさくに中に入れてくれた。工房でさっそく氏が試作したというリュートを見せてもらった。その楽器の表面板は少し色が濃く、ルーマニア産のスプルースを使っているとのことだった。弾かせてもらうと、自分のリュートとは全く異なり、きちんとコントロールできる音が出ることに驚いた。そんなことに驚くとは全く笑い話だが、これが当時の現実だ。嬉しくなった私は何曲もその楽器を弾いていた。弾いているうちに何とかこれを自分のものにしたい気持ちが心の底からわき起こって来た。だが氏はこれは試作品で非売品だという。しかし私の熱意が伝わったのか、氏はついにその楽器をゆずることに同意してくれた。

蔦 (2)

2005年04月27日 17時58分26秒 | 日記
以前、葉が落ちない蔦のことを書きましたが、あれ以来街の中の蔦を注意して見るようになりました。今まで何気なく見ていたのですが、よく観察してみると、スコラに行く坂のところだけじゃなくて、他にもいっぱい葉がついているのがありました。中には右側だけ葉がついていて、あとは葉が落ちているものも。そして何と自分の下宿の入り口にも葉がついているのを発見!さらに下宿の裏手のは全部葉が落ちていました。つまりどこにも出かけなくてもこの現象は発見できたわけです。いかに毎日ぼーっとすごしていたかが分かります。(笑)
てっきりなんかの異変では?ひょっとして500年ぶりにバーゼルに大地震、なんてことも思わなかった訳ではありませんが、まぁ、奇妙なこととは思っていました。でも春になって理由がわかっちゃいました。簡単なことで要するに品種が違うようです。全部葉が落ちていた「蔦」から最近急に葉が出だして(着きだしてかな?)、その葉が越冬した「蔦」とは形が異なり、色も黄緑色であるのに気づきました。越冬蔦の葉は青緑のような濃いめの色です。
建物にはい上がって行くのは全部同じ蔦かと思っていましたが、いろいろあるんですね。と思いながら、ホピーの家に行くとき、途中の林を観察して歩いていたら、なんかまだ別の種類がありました。うーん、植物の世界も奥が深い。

レオン

2005年04月26日 01時28分11秒 | 日記
以前は新聞を毎日取っていたのですが、べらぼうに高いので途中で止めました。うまいぐあいに駅の跨線橋にある本屋に朝日新聞の衛星版が売っていますので、それを週に1、2回買っていましたが、それももったいないので最近は止めています。
日本語の新聞はまだ一ヶ月分くらいは残っていますが、ちょくちょくそれらを読み返したりしています。面白いことに、目の行くところは以前読んだときと同じようなところに行くもんですね。結局人間いつも同じような行動をしている。(笑)
記事は大体読み尽くして、読んでないところはほとんどなくなりつつありますが、何回も読んでも面白いのは雑誌の宣伝ですね。中でも気に入っているのは、レオンとニキータ。姉妹誌らしいですが、面白いですよ。ちょい不良(ワル)イタリアオヤジとかコムスメに勝つ!とかね。(笑)日本に居たとき、レオンの宣伝は見たことがありましたが、姉妹誌ニキータは最近出たようです、たぶん。みなさんご存じですか?一種のファッション雑誌みたいらしいですけど、あそこに出てくるちょい不良(ワル)イタリアオヤジをやっている人って、日本にいるのかな。年齢的には私くらいのオッサンもターゲットに入っているみたいですけど、笑っちゃいますね、レオンのまんまの人見たら。イタリアがとにかくお手本のようですけど、イタリア人もかっこいい人とふつうの人とぶさいくな人がいるように思うんですけどね。それって日本人もいっしょですよね。ひょっとして、ちょい不良(ワル)オヤジのお相手はニキータしかいなかったりして。

リュートとの出会い (14)

2005年04月25日 08時27分14秒 | 随想
 その年の秋も半ばを過ぎた折り、大学の4年先輩の人でリュートを弾く人がいるということを人を介して知り、大学の学生食堂で会うことができた。その先輩、Nさんは当時もう卒業されていたが、実家は名古屋の人だ。彼は東京の情報にも詳しくいろいろなことを教えてもらった。話の中で、名古屋にリュートを製作し始めた人がいるという。その人は加納木魂という名前でお父さんもギターを製作していた人だとのことだ。私は非常に興味を持ち、Nさんに書いてもらった地図を持って加納氏の工房に向かった。

超速車椅子

2005年04月24日 01時30分33秒 | 日記
バーゼルの市内歩いていますと、杖をついている人、車椅子の人、盲導犬を連れている人を日本より多く見かけます。杖をついている人が多いのは、バーゼルの水が原因だというのは聞いたことがありますが定かではありません。
市内は、他のスイスの街と同様、結構坂が多いのですが、いわゆるバリアフリー設備が整っており、そういう人たちにとっても優しい街造りができていると言えます。
駅の跨線橋は、階段の他に、動く歩道、エスカレータ、エレベータ完備でまさに至れり尽くせりの感があります。
逆に元気のいいお兄さんたちは、こういった設備をスケボーやローラースケートで走り回っています。こっちに来たばかりの頃は、彼らが来ると思わず身をよけたものですが、結構慣れてくるもので、彼らの気配や挙動が分かるようになってきました。ちょうど、トラムをよけるくらいの感覚ですね。彼らにしても、もともとそんなにどんくさい人はそういうことをしないでしょうから、それなりに安全なんでしょうね。でもたまに事故はあるとは聞いてますが・・・
先日バーフューサ広場からスコラの方に上っていく坂道を歩いていたら、上の方からなにやらスケボーとは異なる音が聞こえてきます。何ごとかと見上げたら、車椅子の人がえらいスピードで降りて来て、目の前を通り過ぎました。速いだけでなく、その挙動の素早さにびっくり!後日エリザベーテン教会の脇の坂道でも、超速車椅子を見かけましたが、同じ人かどうかは分かりません。きっと車椅子競技の選手だったんでしょうね。

リュートとの出会い (13)

2005年04月23日 09時51分27秒 | 随想
 御殿場の講習会から帰って一ヶ月くらい後、1年半くらい前に野上三郎氏に頼んであったリュートがようやく完成、東京に取りに行った。私にとって記念すべき最初の楽器だ。当時まだ走っていた東海道線の急行「東海号」に乗り、昼過ぎに東京に着いて、道に迷いながらやっとの思いで野上氏の工房に到着したころは昼をかなり過ぎていた。私は、氏の工房の玄関ではじめての自分のリュートと対面した。氏の説明では、古楽器として軽く作ったとのことだが、なぜかその楽器を見て、御殿場でツァネッティの楽器を初めて見たときのようなときめきは全く感じられなかった。あとから思うとそれは多分楽器のデザインから来たものだったようだが、その第一印象は当たっていたようだ。家に帰って何時間も弾いてみても、一番よく響くはずのヘ長調の和音すら音楽的感情を乗せるほどは響いてくれない。おまけにペグの具合が全くよくない。氏の説明では、ペグの2カ所ある接点のうち、回すところから遠い方は、なめらかに回るように「遊び」にしてあるとのことだった。今から見れば、お笑いみたいな話だが、当時まだ楽器のことにそんなに詳しくなかった私は、言われてみてそんなものかと思ってしまっていたが、実際調弦が上手くできないので、この「一点支持」ペグではだめなのだとその時思った。せっかく長い間アルバイトして貯めたお金で買った楽器が期待はずれだったので、私の落胆は大きかった。リュートという楽器はこんなものであるはずはないという思いがあったが、その当時はまだ比べることのできる楽器もなく、確かなものとは言えなかった。これがリュートなのだと合理化する気持ちとそんなはずはないという気持ちの間で悩む日々が何日も続いた。

ロバート・バルト来る

2005年04月22日 04時50分20秒 | 日記
今日のクラッセンはロバート・バルトがドイツからやってきまして、「バロックリュートにおける右手に関する考察」と題して、お話と演奏を聴きました。彼は最近、右手のポジションを「サム・アウト」に変え、ブリッジよりで弾いています。これは去年の12月にレッスンに行ったときに知ったんですが、こっちの人はまだ誰もそのことを知らなかったようでした。「変貌した」彼の話を聞くのは今日が初めてとあって、みなさん興味津々。
彼の主張はこうです。昔のリュート奏者の絵を見ると、特に17世紀以降は全く例外なしに「サム・アウト」でブリッジ近くを弾いている。そのことはみんな承知しているが、だれもやらない。でも昔の奏者がそういう弾き方をしているのは必ず理由があるはずだというのです。サム・アウトはともかく、ブリッジ近くで弾くと音が硬くなりあまり美しくないのは彼も承知しているんですが、説得力を持つためには、楽器そのものの選定、低めのピッチ、そしてよく響くところで弾くということが必要になってくるそうです。ピッチは390くらいに下げているとのこと。あとガット弦を使うことも当然ファクターの中に入ってくると思うんですが、それはやらないとのこと。細いガット弦はよく切れますからねぇ。演奏しながら、説明をいろいろしてくれましたが、彼は気軽にいろいろ弾く人で、終わりの方では、結局ヴァイスの長いソナタをまるまる始めから終わりまで弾いてしまいました。

クラッセンが終わってから、ワインを飲みながら、クラッセンの二次会みたいなものが始まりました。話の中で、「サム・アウト」に変えるのにどのくらいかかったか、という質問には「1年くらい」と言っていました。また、新しいヴァイスのCD(第7集)の話しも出て、実は編集にミスがあって、間違っていたものが500枚くらい出てしまったそうな。今は正常なものが出荷されているそうですけど、その間違い編集されたCD、コレクターズ・アイテムですね。そのあと、持ってきた別の楽器を弾き合いっこしたり、なんやかんやでクラッセン本体を含めると延々3時間近くやってお開きになりました。

コンピュータミュージックショップ

2005年04月21日 02時03分42秒 | 日記
録音をしようと思って、日本からPCカードタイプのミュージックカードを取り寄せたんですけど、入力がラインレベルなので、マイクからは上手く録音できません。買うとき、てっきりマイクレベルの入力を持っていたと思いこんだんですね。
だって、「このカードがあれば、あなたのコンピュータが野外でも録音スタジオに変身!」みたいなことが書いてありましたからね。マイクをラインレベルに上げるアタッチメントは電源が要るのが普通だし、ちょっと宣伝文句と違うんじゃない?と思ったけど、向こうさんの言い分としては、「もちろん、電源を車などから取って、・・・」なんて言うんでしょうね。
しょうがないので、アタッチメントは現地調達。確かビニンゲンにコンピュータミュージック専門の店があったのでそこへ行くことに。
店へ行きまして、事情を説明すると、ものはあることはあるんですが、えらく高い。日本だと数千円くらいのものもあるんですが、200フラン近くします。おまけにでかいし・・・
近所のメディアマルクトというコンピュータショップにはまずないだろうし、どうしようか迷ってたら、おじさんが、
「こういうのもありまっせ」
と言って、丸いマック系デザインのものを持ってきました。
「これだけで録音できますぅ。この出力から、お宅はんのカードに入力したらよろしおま」
ほー、結構なもんですねぇ。電源もUSBから取るし。
よし、これに決めた!!で、いくら?
「100フランだす」
あー、やっぱりこっちは高い。なんでこんなんが100フランも。雰囲気的にはせいぜい40フランだよなぁ。ま、でもしょうがないので買うことに。
で、家に帰って接続したら、あのおじさんが間違ったことを言っていたことに気が付きました。ミュージックデヴァイスを2つ同時に認識できないんですね。うーん、しまった、店にいるときに気づくべきだったなぁ。
返品に行こうかとも思いましたが、とにかく一応は録音できる環境が整ったわけだし、(それも外部電源不要)とりあえずこれを使ってみようかということにしました。せっかくいいミュージックカードを買ったんだけど、まぁそれは日本に帰ってから使うかということで。