院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

『何者』(新潮社)

2013-08-27 05:10:48 | 読書
 男性としては史上最年少の直木賞作家というので、下の小説を読んでみた。けっこう面白かった。



 数日前に紹介した『ブラック企業』という本には、ブラック企業は、「君の代わりはいくらでもいるんだよ」という今の現状があって初めて存在しうるとあった。現在の大学生の就活(就職活動)の厳しさも、そこに起因すると思われた。

(「君の代わりはいくらでもいるんだよ」というような社会構造になったのは、労働力の過剰供給による。過剰になった原因は「男女雇用均等法」にもあるのではないかとは、いつぞや指摘した。)

 この小説には現代の大学生の就活が大変なこやと、大学生がWEBやSNSをどのように活用しているかが生々しく描かれていた。私のような年配者には覗くことができない世界だ。

 この小説は「俺」が、就活に苦しむ同級生を観察しながら物語が進んでいく。中に自分の留学歴やボランティア歴を吹聴しても、いっこうに就職できない女子学生が出てくる。こういう娘って昔からいたなぁ、と思わせる。

 最後に彼女が、あなた(「俺」のこと)は高みから他人を観察ばかりしているから、あなたも就職できないのだと「俺」を糾弾する。ここでどんでん返しが行われ、同じく「観察者」の側にいた読者も主人公と共犯関係に置かれる。

 最後のどんでん返しが、この小説にあらかじめ仕組まれていたかどうかは怪しい。留学歴をひけらかすような娘は、「観察者」に対する批判眼を永久に持ちえないと思うからだ。

 いくらかの瑕疵があったとしても、この小説は最後まで読ませた。作者は学生時代から注目されていたらしい。漫画やアニメをこころざす大学生は多いけれども、作者のように小説という古めかしい表現手段を選ぶ若者もまだいるのだと再認識した。

 漫画家志望の若者のうち、ちゃんとした漫画家になれるのは10万人に一人だそうだ。この小説の作者も10万人に一人の才能なのだろう。年齢離れした描写に驚いた。

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