えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・夕間暮れより

2019年06月08日 | コラム
 ようやく空が陰って風が涼しくなった。梅雨入りを宣言した昨日はあれほど昼間から梅雨をたたえるように降り注いでいた雨の気配もなく、雲間から青空と日光を覗かせていた昼間から、天気は雨の夜へと変わろうとしている。窓を開けたまま眠れないのは残念だが、雨音を聞きながら眠りに沈み込む夜は特別に体が休まる思いがする。次の日にどこかへ行く予定がなければなおよい。濡れるのは仕方ないとしても、電車だろうが道路だろうが、普段使わない傘のおかげで何かと騒がしいのだ。
 そんなに本数の少ないわけでもなしに後を絶たない(気分は十分に同情するが)駆け込み乗車用の道具に傘はぴったりで、腕よりも長いそれをドアの間にさしはさむ人が後を絶たないらしい。カバンや肩をラグビーのゴールのように突き出す人は何度か覚えがあるが、傘を突き出した人はまだ見ていないので、あくまで電車の車内放送の伝聞である。時間帯のせいなのか、どの駅でも傘で割り込みを働く人が一定数いるようで、電車は冷やしすぎたところてんのように目詰まりして駅と駅の間で立ち往生しないよう、一つの駅に停車する時間が長くなった。
 運よく前の席が空いたので座りぼんやり雨脚の強まる外を眺めていると、次第に眠くなり窓枠へ頭をもたせかけてうとうととした。座っていれば駅へ着くはずだった。だが、あまりにも傘を電車の窓枠に差し込む人が増えたせいか、終着駅で電車をまわしきれなくなったせいか、突然車掌が声を張り上げて行き先の変更を告げた。私の降りる駅は変更された行き先のさらに先の駅だった。
 降りたホームには案の定人がこぼれるほどたむろし、慌てたような構内放送が電車とホームの間に挟まった人を理由にさらなる遅れを説明している。どうせ混むだろうと敬遠した電車に結局は乗ることとなり、傘と人いきれで蒸れた気分の悪い車内に揺られては止まり、揺られては止まりを繰り返し、駅に着くころには雨は小雨となっていた。降りた電車はドアを閉じて蒸し器のように停車していたが、それもこれも傘のせいだろう。
 雨が降り出している。次々に窓のシャッターが降りた。私も背を伸ばしてシャッターを下ろす。夕暮れが訪れながらも、夜になるのはまだ十二分に早い時間だ。
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