えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・星色青天

2022年01月01日 | コラム
 突き抜けるほど晴れている。
 深夜に近くの寺の除夜の鐘が天に響き渡る下、今年も地元の神社ではどんど焼きや福銭配りやお神酒を分ける氏子の姿は見られなかった。御神籤の台も受付からは離され、見慣れたアルコール消毒液の四角いプラスチックボトルが使い込まれた木製の郵便受けのような箱の隣に置かれ、その隣には上に三十センチほどの穴が開いた箱に御神籤が詰まっている。時計が0時を示すと本殿の扉が開き、宮司が何がしかの儀式をして扉を開け放った。ここの本殿は本来の木製の本殿を守るため、鉄筋で出来た本殿を上から被せるような二重構造になっている。手前には柱に二本の鈴緒が結び付けられ、賽銭箱が設えられている。参拝客は神妙に宮司の儀式が終わるのを待ち、かれが社務所のほうへ去ったあとも境内は静かで、列の最後尾に並ぼうと人の間を抜けても「あけましておめでとう」の声は囁きすら聞こえなかった。
「オリオン座しかわからないや」
「冬の五角形はわかるよ。あれとこれとそれ」
「わからねえよ」
 一月の深夜はオリオン座が社務所の真上にかかる。そこからベテルギウスの橙色を起点に左下でダイヤモンドのように煌めくシリウスを捉え、シリウスからプロキオンへと星を繋げば大三角形がわかる。昨日の昼間の雪雲はどこに流れたのか、空にかかる汚れを拭い去って新年の夜は冴えていた。列が進めば進むほど列が長くなり、少しずつ後ろの方からさざなみのように明るく今年を祝う声が聞こえてくる。参拝を済ませ、先程の御神籤の箱から消毒を忘れずに御神籤を引いて持ち帰った。帰宅すると玄関口からは残った家族が仏壇に供えた線香の香りが溜まっている。軽く咳き込んで私も仏壇に線香を供え、お灯明を消して寝室に戻った。眠って起きた今日も奥底まで青い空が期待通りに広がっている。空が青い正月の清新な空気を吸って、皆で挨拶を交わした。

 今年もまた新型コロナウイルス感染症の余波はなくならず、新しい生活様式に馴染みながらもまだまだ余談を許さない状況が続いておりますが、年神様は決まった足取りで決まった時間に訪れます。歳を重ねていく実感を積み重ねながら今年も拙文にお付き合いをいただければ何よりの幸いです。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする