電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

藤沢周平『漆の実のみのる国』(上巻)を読む

2005年08月27日 21時35分04秒 | -藤沢周平
昔から不思議に思っているのだが、NHKの大河ドラマで、上杉鷹山を取り上げていない。世の中がいくら不景気で借金があって政治が乱れても、上杉鷹山はドラマにならないらしい。なぜなのか理由は不明だが、まさか「伝国の辞」の内容に不満があるというわけでもなかろうに。

藤沢周平は、文庫版の上巻の半分以上を費やして、米沢上杉藩の窮乏を描く。桁違いの余剰人員を抱え、累積債務が雪だるま式にふくらみ、暗愚の経営者は現実を見ず、財界活動しか興味がない、そんな倒産必至の会社にたとえられる状態だ。江戸家老・竹俣美作当綱(まさつな)は、専権を振るう森利真を除き、藩主・重定を隠居させ、養子・直丸君をかつぎだす。ところがこの養子の主君の出来が抜群に出来がよい。主君に対するクーデターも辞さないほどの老練な政治家である竹俣当綱も、わずかに希望の光を見る思いだ。先の藩主を隠居させた老臣たちが、今度は若年と侮り、若い新君主に対しクーデターに近い形で保守的な確約を迫る。これに対する新君主の対応は、老練な政治家も一目置くほどの慎重かつ果断なものであった。

『密謀』で直江兼次を描いた藤沢周平が、後代の上杉鷹山治憲をどう描くか。まず、竹俣当綱を描くことで、米沢藩の実情を余すところなく語っているというべきか。
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藤沢周平『秘太刀馬の骨』を読む

2005年08月27日 09時54分50秒 | -藤沢周平
昨夜の金曜時代劇を見て、原作を読み返した。浅沼半十郎は、小出家老から六年前の筆頭家老暗殺の際、『馬の骨』という幻の剣が使われたこと、そしてその剣を伝授された暗殺者の探索を命じられる。探索は、家老の甥の石橋銀次郎が行い、半十郎は協力者として同行することとなる。ところがこの銀次郎はいたって乱暴者で、目的のためには手段を選ばない男だった。

海外の推理小説を好んだ藤沢周平らしく、舞台こそ江戸時代の北国の小藩に設定されているが、内容は真犯人探しの物語である。そして、推理小説の鉄則どおり、重要なヒントは最初の重要場面に隠されている。この物語で言えば、前夜の放送にあった矢野家の訪問の場面であろう。そして、北国の小藩の権力闘争のありようを背景に、次第に深みにはまっていく形になるのだろう。

テレビでは、『蝉しぐれ』で主役をつとめた人気者の内野聖陽が銀次郎を演じ、乱暴者だが憎めない性格にやわらげられていた。かわりに、原作にある半十郎と妻との不和、息子を失った妻の精神の長いさまよいが消え去る、最後のカタルシスが省略されるらしい。このあたりは、原作の持つ陰影がテレビカメラの照明によって一様に明るく照らされるようで、評価が分かれるところか。

一週間の最後に気軽に楽しむ連続ドラマとしてテレビを見、豊かな陰影に富んだ原作を通じて原作者の力量を堪能する、そういう楽しみ方が適当なのかもしれない。
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法事のお使い(案内)が来た

2005年08月27日 07時26分03秒 | Weblog
近所の親戚の家で一周忌を行うので、私が行くことになった。最近は、お盆の際も親戚まわりは私が出ているので、当然のことだ。まだ若い頃なら、親戚の家の法事など億劫に感じたものだが、むしろこの機会に、法事の習慣をよく観察して来ようと思う。
田舎の習慣で、法事は自宅で行う。最近は、料理屋で営む例も増えてきたが、それぞれの家の味があり、精進料理のごちそうも家々の特色がある。近所の魚屋の仕出しを中心としながら、その家の自慢の数品が並ぶ、という具合だ。家に帰ると、たぶん老母と家人から質問ぜめにあうだろう。ごちそうは何が出たか、どんな味だったか、と。
田舎の人間関係が鬱陶しいと思い、都会のクールさに憧れた時期もあったが、少なくとも、田舎料理の豊かさ、大きく言えば地方の食文化を伝承しているのは、こうした機会が残っているからだろうと思う。親戚の法事も文化の伝承の一部と考え、お酒とごちそうを楽しみに待つことといたしましょう。
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