文春文庫で、藤沢周平著『漆の実の実る国』(下巻)を読む。
黒滝の開鑿や開田などの藩を富ませるためのいくつかの事跡がわりあいにあっさりと描かれ、竹俣美作当綱の起草した「三木植立て」の事業が起死回生の道として取り上げられる。計算どおりに行けば、米沢藩十五万石が三十万石になるはずであった。上杉治憲もまた、一抹の不安を覚えつつも同じ夢を見る。しかし度重なる飢饉が襲い、緻密な対策と救荒事業によりかろうじて大量の餓死者はまぬかれたものの、藩財政の再建は頓挫する。
執政府は倦み、担当者は交代する。しかし、財政再建は立ち行かない。後半は治憲に寂寥感が漂い、藩政改革に対する徒労感が強く出ている。この頃、作者・藤沢周平は、病気のため執筆が辛かったのではなかろうか。そう考えると、後半の本文中に「投げ出す」「飽きた」「嫌になった」などの語が頻出する理由が説明できよう。また、治憲の動作を描く表現も、「座っていた」「考えにふけった」などの表現が多くなる。上巻にあるはつらつとした動作はほとんど姿を消している。これは、上杉治憲が老いただけではなく、作者の気力・体力が下降したことを表しているのではないか。
黒滝の開鑿や開田などの藩を富ませるためのいくつかの事跡がわりあいにあっさりと描かれ、竹俣美作当綱の起草した「三木植立て」の事業が起死回生の道として取り上げられる。計算どおりに行けば、米沢藩十五万石が三十万石になるはずであった。上杉治憲もまた、一抹の不安を覚えつつも同じ夢を見る。しかし度重なる飢饉が襲い、緻密な対策と救荒事業によりかろうじて大量の餓死者はまぬかれたものの、藩財政の再建は頓挫する。
執政府は倦み、担当者は交代する。しかし、財政再建は立ち行かない。後半は治憲に寂寥感が漂い、藩政改革に対する徒労感が強く出ている。この頃、作者・藤沢周平は、病気のため執筆が辛かったのではなかろうか。そう考えると、後半の本文中に「投げ出す」「飽きた」「嫌になった」などの語が頻出する理由が説明できよう。また、治憲の動作を描く表現も、「座っていた」「考えにふけった」などの表現が多くなる。上巻にあるはつらつとした動作はほとんど姿を消している。これは、上杉治憲が老いただけではなく、作者の気力・体力が下降したことを表しているのではないか。