小学館文庫で、飯嶋和一著『雷電本紀』を読みました。著者は同郷・同世代、共感するところも多く、たいへん楽しみました。
本書は、江戸時代、序と蒼竜篇、朱雀篇、白虎篇、玄武篇の五篇からなる物語です。
1.序では、鍵屋助五郎が、大火の後に赤子や稚児の病魔祓いをしている大男を見かけます。それが江戸の勧進大相撲において圧倒的な強さを見せる雷電為右衛門でした。小野川との対戦のあと、鍵屋が贈った魔獣の化粧まわしの礼に、雷電本人がやってきて、助五郎と麻吉と意気が通じます。
2.蒼竜篇、信州浅間山の噴火と、圧政により爆発した打ち毀しには、草相撲で抜群の素質を持つ太郎吉が目標の一人とした日盛が参加していました。日盛は侍たちに切られ、槍で突かれて死にます。江戸の相撲部屋の年寄・浦風林右衛門は太郎吉の素質を忘れられず、ダメもとで太郎吉の父親に、たった一人の息子を弟子にと願い出ます。意外にも承諾した父親の思いは、深いものがありました(*)。
3.朱雀篇、師匠の林右衛門は、当時最高の大関であった谷風の下で、太郎吉を鍛えます。やがて雷電の存在が、拵え相撲で汚れた相撲界に激震を走らせます。また、助五郎と麻吉かの過去も語られます。大火で親と店とを失った助五郎は、麻吉と二人で鉄物商鍵屋を起こします。鍵屋助五郎と麻吉の男気は、人目を忍ぶ打ち毀しの頭目の娘さよを遊廓から身請する話や、孤児の真吉を店に置くことになった経緯にもあらわれます。雷電の痛めた腰が真吉の紹介した医者の治療によって快癒し、千曲川という力士もまた、恵船先生の診立てに助けられ、助五郎との縁が深まります。
4.白虎篇、雲州抱え雷電王朝の全盛時代、実力による激しい相撲が人気を沸騰させ、雷電が勝つのは当り前、負ければ初めてニュースになるほどです。しかし、雷電の真価はそこにはありません。希望を失った村に、弟子とともに「疫病退治」に出かけ、村人や売られた娘たちに生きる望みを鼓舞するのです。そして歳月が流れ、そんな雷電も引退を決意する時が来ます。
5.玄武篇、雷電の引退は、後に残された力士に重い負担となります。人気力士も、体をこわせばお払い箱となり、不遇な末路が待っています。雷電が発願した吊鐘の新造は、これらの力士たちの供養のためでしたが、幕府内の権力争いにより、罪に落とされ、世情は騒然となります。さて、この結末は・・・
中学生の頃、子ども向けの雷電の伝記を読んだことがありました。鐘の新造の話は全く理解できませんでしたが、この年齢になり本書を読み、ようやくその意味を知りました。相撲の取組の描写は、まるでスローモーションのビデオを見ているようで、打ち毀しの場面も緊迫感があり、実に読みごたえのある物語です。堪能しました。
(*):飯嶋和一『雷電本紀』を読んでいます~「電網郊外散歩道」より
本書は、江戸時代、序と蒼竜篇、朱雀篇、白虎篇、玄武篇の五篇からなる物語です。
1.序では、鍵屋助五郎が、大火の後に赤子や稚児の病魔祓いをしている大男を見かけます。それが江戸の勧進大相撲において圧倒的な強さを見せる雷電為右衛門でした。小野川との対戦のあと、鍵屋が贈った魔獣の化粧まわしの礼に、雷電本人がやってきて、助五郎と麻吉と意気が通じます。
2.蒼竜篇、信州浅間山の噴火と、圧政により爆発した打ち毀しには、草相撲で抜群の素質を持つ太郎吉が目標の一人とした日盛が参加していました。日盛は侍たちに切られ、槍で突かれて死にます。江戸の相撲部屋の年寄・浦風林右衛門は太郎吉の素質を忘れられず、ダメもとで太郎吉の父親に、たった一人の息子を弟子にと願い出ます。意外にも承諾した父親の思いは、深いものがありました(*)。
3.朱雀篇、師匠の林右衛門は、当時最高の大関であった谷風の下で、太郎吉を鍛えます。やがて雷電の存在が、拵え相撲で汚れた相撲界に激震を走らせます。また、助五郎と麻吉かの過去も語られます。大火で親と店とを失った助五郎は、麻吉と二人で鉄物商鍵屋を起こします。鍵屋助五郎と麻吉の男気は、人目を忍ぶ打ち毀しの頭目の娘さよを遊廓から身請する話や、孤児の真吉を店に置くことになった経緯にもあらわれます。雷電の痛めた腰が真吉の紹介した医者の治療によって快癒し、千曲川という力士もまた、恵船先生の診立てに助けられ、助五郎との縁が深まります。
4.白虎篇、雲州抱え雷電王朝の全盛時代、実力による激しい相撲が人気を沸騰させ、雷電が勝つのは当り前、負ければ初めてニュースになるほどです。しかし、雷電の真価はそこにはありません。希望を失った村に、弟子とともに「疫病退治」に出かけ、村人や売られた娘たちに生きる望みを鼓舞するのです。そして歳月が流れ、そんな雷電も引退を決意する時が来ます。
5.玄武篇、雷電の引退は、後に残された力士に重い負担となります。人気力士も、体をこわせばお払い箱となり、不遇な末路が待っています。雷電が発願した吊鐘の新造は、これらの力士たちの供養のためでしたが、幕府内の権力争いにより、罪に落とされ、世情は騒然となります。さて、この結末は・・・
中学生の頃、子ども向けの雷電の伝記を読んだことがありました。鐘の新造の話は全く理解できませんでしたが、この年齢になり本書を読み、ようやくその意味を知りました。相撲の取組の描写は、まるでスローモーションのビデオを見ているようで、打ち毀しの場面も緊迫感があり、実に読みごたえのある物語です。堪能しました。
(*):飯嶋和一『雷電本紀』を読んでいます~「電網郊外散歩道」より