テレビで谷崎潤一郎をやっていた、大坂の豪商の娘との恋愛、二人とも結婚していた、それでも愛を貫く、私が驚いたのは、その女性の知的レベルの高さ、二人が交わした手紙がクローズ・アップ、それは、谷崎を上回る格調の高さ・繊細なこころ、そして優美な書体、なによりも相手への深い理解と思いやり、そこには、ほろびゆく日本のうつくしさとかなしみが、こぼれていた。
知らないわけではないが、これほどとは思わなかった。
それは、あの諏訪根自子さんにつながるものであり、当時の日本人の秘密、それを深く知るのが台湾の知識人で、戦前の日本には
「下町には下町の良さが 山の手には山の手の気品があった」
これをぶちこわしたのが戦後の物質思想、その手足が欲望第一主義、成り上がり者や成金たちがカッポする、だから、本来の日本文化が分からなくなっている、江戸のイキは銀座に日本橋に、下町のイナセは浅草や両国に、ピイーと鋭い笛の音が貫く、神田明神の祭礼だ、空気が一変、江戸のマボロシが訪れている、いきでいなせでさっぱりとした江戸のおとこ、そして、自分のことよりも相手のことを思いやる江戸のむすめ、
「あの日本人は どこにいったのだろう」
「うすぎたなくあつかましい日本人に なってしまった」
戦争に敗けたのはしかたないが、
「さびしいなあー」
谷崎が関西を愛した理由は、そこに本当の日本の文化があり、本当の日本人がいたからであり、明治以後の日本は、日本の中心になった東京には、田舎者がふんぞりかえる強権国家の野蛮な政治屋と役人がいるばかりだ、それを、実感したからかもしれない。