世間の評判や家庭さらに財産を捨てて、ひとりの婦人を愛する、それにふさわしい女性だったのか、ふたりの交わした手紙が映し出される、
「これは」
大谷崎に一歩も負けていない、
「こんな婦人が いたのか」
気品と優美・やさしさ、女性の美質が花ひらき、陰湿な意地の悪さはない、そう、谷崎の描いた源氏物語の女性だ、
「いぬきが にがしつる」
「ふせごのなかに こめたりつるを」
あかくすりなして立てるそのすがたは、
「ねびゆかんさま いとゆかしきひとなり」
ほんのりと花ひらいている、なんとゆかしいことか、王朝の美と誇りが香り立っている。
創建千有余年の古刹で、少年時代を過ごさなければならなかったのだが、塔婆の裏を書かされる、表は大人だが、裏は子供でもよかった、しかたない、「経曰(いわ)く」の下に、
一切天人 皆応供養
これひとつ、カンタンだからネ、くずすから3~5秒でOK、中学生になると、ちょっと気がとがめたので、
一色一香 無非中道
三千四千、いやそれ以上、それで、すっかりきらいになった、
「もー 見たくないもんね」
そんでもって、字に関するもんは、まっぴらごめん、うけつけないカラダになってしまったんだな。