
若い今東光が、谷崎の執筆している旅館を訪れると、黒光りする廊下に赤い点々、この旅館にはあの竹久夢二の愛人が宿泊していた、
「あっ 月よりの使者だ」
欣喜雀躍、ところが谷崎は、うんうんと執筆に没頭しているではないか、やがてイップク、
「これこれ こういうことです」
タニザキ、
「ガバッ」
ダットの勢いで飛び出した、ところが、ローカにはなにもない、
「秋の日を 反射している」
その時、廊下の向こうの部屋の衾が開いて、竹久のオンナが、こっちをにらんで、
「アッカンベー」
谷崎は鬼のギョウソウ・形相、
「なして おまんは もっとはやく言わんかったんだ」
「うんうんと執筆していらっしゃったんで・・・」
いきなり、
「ポカリ」
「な・な・なにをするんですか」
「小説なんか いつだって書ける だが 竹久のオンナのアレは 一生見られないんだぞー」
「ポカリ ポカリ」
今東光、すっかり感心してしまった、
「さすが 谷崎だ」
「これぞ 小説家」
「川端康成とは ちがう」