二銭銅貨

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香華

2006-10-21 | 邦画
香華  ☆☆☆
1964.05.24 松竹、白黒、横長サイズ
監督・脚本:木下恵介、原作:有吉佐和子
出演:岡田茉莉子、乙羽信子、三木のり平、加藤剛、田中絹代

ゆるくて、しなやかで、曲線的な乙羽信子、
鋭く、スキなく直線的な岡田茉莉子、
2つの異質な姿がからみ合い、
からまりあって一つの絵が構成されます。
その結節点は三木のり平。
扇のかなめのように、物語を進行させていきます。

狂う田中絹代。
よろめく乙羽信子。
気丈な岡田茉莉子。

雨の日も、風の日も、心に思う人のため、
お寺にお百度を踏む岡田茉莉子。
直線的に、一生懸命に、
自分の命、自分の運命、自分の信念、
思いは通ずるのか?
願いはかなうのか?
人は冷酷なのか?
世は無常なのか?
突きささる、細い雨がひんやりとします。

岡田茉莉子の母が乙羽信子、その母が田中絹代。
母娘三代の長い物語。
05.12.11 シネスイッチ銀座
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噂の女

2006-10-20 | 邦画
噂の女  ☆☆
1954.06.20 大映、白黒、普通サイズ
監督:溝口健二、脚本:依田義賢、成沢昌茂
出演:田中絹代、久我美子、大谷友右衛門、進藤英太郎、浪花千栄子

絹のように、しなやか。
強くて丈夫、元気な田中絹代。
鋏のように、美しく。
理知的で、鋭くて、それでいて、ちょっと淋しい久我美子。

田中絹代と久我美子は母、娘。
2人とも意欲満々、気合入りまくりな感じ。
2人の強い気持ちの交錯、ぶつかり合いが、
このドラマを構成していきます。
カメラは冷静に人々を構図に収めて行きますが、
それぞれの人にそれぞれの思いがあります。

薄雲という名の太夫と妹。
正座して頭を下げて久我美子に頼み込む妹の姿。
病に倒れて久我美子に看病してもらう姉の姿。
2人とも健気で、かわいそう。

久我美子の髪型、衣装、メーク、所作、
初期のオードリー・ヘップバーンに似ている。
おそらく、ローマの休日かサブリナを参考にしたのではないか。
結構、雰囲気は良くに似ている。
オードリー・ヘップバーンよりは理知的な感じです。

大谷友右衛門は現在の中村雀右衛門

06.10.15 恵比寿ガーデンシネマ
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雨月物語

2006-10-18 | 邦画
雨月物語  ☆☆☆
1953.03.26 大映、白黒、普通サイズ
監督:溝口健二、脚本:川口松太郎、依田義賢、原作:川口松太郎
出演:京マチ子、森雅之、田中絹代、水戸光子、小沢栄

美しい着物。
やさしい物腰。
謙虚なこころずかい。
いとおしい気持ち。
淋しい別れ。

深い欲情。
見苦しい強欲。
奈落の絶望。
はちきれる歓喜。
狂おしい恋。

滑らかで曲線的なカメラの動き。
途切れず、連続的で、それでいて崩れない、
構図、人物配置、人々の動き、物の動き、カメラワーク。
落ち着いていて、そして緩み無く。よどみ無く。

ふくよかな京マチ子。とても幽霊には見えない。
魂から染み出る、妖艶で深い怨念は、
強烈に森雅之の肉体に食い込み、
それは銀幕を超えて、観客席にまで深く照射して、
こちらの精神まで破壊してしまうかのよう。

森雅之の苦悩、絶望、喜び、希望。
良く表現されて、物語全体を体で支えています。
田中絹代は健気な「宮木」。みんなを思うやさしい気持ち。
映画全体の優しさを田中絹代が代表しています。

小沢栄は調子のいい愚か者。
人間の愚劣さを一手に引き受けて表現しています。
水戸光子は硬い役。実直でまじめ。
きちんとした硬質な表現が物語りに、締まりを与えています。

役者たちの優れた表現、
バリエーションのある人物像・人生の深い表現は、
うまく調和して物語り全体に織り込まれ、
加えて、しっかりした美術、撮影、衣装、演出
がフィルムに刷り込まれてます。

人々の気持ち、思いは強くフィルムに定着されていて、
そのなかでも、
とりわけ、京マチ子の怨念は色濃く、深い。

古典の上田秋成作の「雨月物語」に想を得て、川口松太郎が書いた小説をもとにした映画。古典の9編の物語のうち、「蛇性の婬」「浅茅が宿」がベースとなっている。
06.10.08 恵比寿ガーデンシネマ
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放浪記/帝劇

2006-10-17 | Weblog
放浪記/帝劇

原作・演出:菊田一夫、潤色・演出:三木のり平、演出補:本間忠良
出演:森光子、奈良岡朋子、米倉斉加年

7月の予約チケットの発売日はボーッとしていました。即完売らしく、私の技量では切符は手に入りません。一生、見ることができないままとあきらめていましたが、9月中旬に、たまたまブログで「当日売りで見に行って来た」という記事を見つけ、私もトライしました。10時発売開始のところを9時前に行き、なんとか、めでたく当日売りの切符で見ることができたのです。

尾道の場面では、ハクモクレンが印象的です。それはあたかも林芙美子の心のごとく、寂しそうに、葉の無い一本の木の梢に、明るく白く大きく輝いていました。廻る舞台は立体的で大きさや空間を感じます。3人の親子の行商は成瀬映画では冒頭に出て来ます。舞台でのこの3人づれは、林芙美子がそれを見て過去を思い出す3人づれですが、映画では林芙美子自身とその両親となっています。海岸のシーンもリアル。淋しくて味気ない砂浜の砂、冷たい風、透き通るような空に、よそよそしい雲、そらぞらしい波の音、しぶき、眼には見えないそれらの景色が見えるように思い出されます。林芙美子と初恋の男性との間を切り裂くように汽車の轟音が鳴り響きます。これは映画では冒頭の東宝マークのところで出て来る音です。映画では、これを使っていたんですね。

でんぐり返しの場面では、その前から会場がざわつき出しました。皆さん、どこでやるのか知っているのです。この部分は、ちょーどサッカー選手がゴールした時にとんぼ返りを打ったりしますが、それと同じ調子です。これは林芙美子の元気よさ、明るさ、猿飛佐助っぽさを表現した部分です。

林芙美子の自宅の場面のセットは美しい。青く澄んだ秋の空、オレンジの紅葉、紅色のもみじ、落ち着いた邸宅のシーンでは、幕が開いたとたんに観客から薄く、ほーっと驚きのため息の音が聞こえました。

奈良岡朋子演ずる日夏京子のセリフから、最後の幕切れまでも見事です。
でも、そのセリフにもかかわらず、舞台は明るく強く元気な印象でした。

明るく強く元気な森光子。
明るく強く元気な林芙美子。
06.09.23 帝国劇場
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