第二の自民党(ただし農林派限定だが)ぶっ壊し計画だと、私は考えている。
元々の始まりは「自民党をぶっ壊す」と威勢よく登場した小泉・元首相である。正確には公共事業に巣食う自民党の経世会潰しが表向きの目的である。だが、その裏には大蔵省(当時)が画策していた公共事業費の大幅削減があったのは確実である。
実際、小泉改革以降、政府の公共事業は大幅に減少に転じ、梼Yしたり、合併救済されたゼネコンが続出した。同時に建築業界に大幅なリストラが強行され、多くの熟練技工士が職を離れた。
これは日本経済に大きな影を投げかけたが、大蔵省は公共事業費削減を達成したことに満足してはいなかった。そこで次の手を打ち出すつもりであった。それが農政改革だ。
しかし、第一次安倍内閣は早期退陣であり、福田政権は現状維持に固執した。麻生内閣で再びと思ったが、公共事業の削減は自民党政治への不信を招き、結果として民主党政権誕生の土壌となった。
その民主党を陰で支えたのが当時の財務省、勝事務次官であったが、民主党は見当違いの政策実現に奮闘し始めてしまい、なかなか農政改革には手を出しずらかった。とりあえず消費税の増税案を実行したことで満足せざるを得なかった。
そこで登場した第二次安倍内閣には、なにがなんでも農政改革を実行してもらわねばならなかった。
今だから分かるが、バブルの崩壊による住専の不良債権処理が遅れたのは、住専への大口出資者である農協を守るためであった。農協を潰さないために、自民党は躍起になっていた。そのことを深く恨んでいたのが当時の大蔵省である。
しかし、農協は自民党の集票団体であり、容易に手が出せなかった。しかし、農業が日本経済に大きな役割を果たしているとは思えず、そのわりに多額の財政支援を余儀なくされていることに憤る大蔵官僚は少なくない。
小泉という絶好の改革者を得た大蔵省は、公共事業に関連する農業支出を徐々に絞っていった。その結果、農協は自民党に見切りをつけて民主党に鞍替えした。民主党が失政により退陣しても、素直に自民党への支持へと動けなかったのは、TTP交渉があったからだ。
もはや自民党及び財務省は、農業を守る気はないと農協側が考えても不思議ではない。だからこそ、先の選挙で九州などにおいて自民党候補が落選した。実際、第三次安倍内閣は農業を守る気は少しはあるようだが、農協を守る気はない。
ところで、農協は農家のためにあるのか、私は疑問に思うことは多々ある。ご存じの方も多かろうと思うが、現在の農協は、農家のための共済団体とは言い難い。むしろ農家を名目とした巨大な金融組織である。
なかでもJA共済の巨大さは群を抜いている。JAの金融機関としての規模の広さも無視できない。地方へ行けば分かるが、メガバンクはなくても郵便局とJAがあれば、ほとんどの金融為替業務は対応できる。
そして、この巨大な金融組織は、自民党及び農水省の縄張りであった。金融機関であるにも関わらず、財務省及び金融監督庁に権限はなく、郵貯の財政投融資に次ぐ、裏の資金源でもあった。
だからこそ、日本各地の農協を監督する権限を、なんとか中央農協から取り上げたい。これは財務省と農水省の縄張り争いの第二陣なのだ。ちなみに第一陣は、小泉改革による公共事業支出削減である。財務省は少しずつ外堀を埋めにかかっている。だからこそ、中央農協は断固として、安倍内閣の農中改革に抵抗するのだ。
そこで、改めて問いたい。いったい、この改革は日本各地で高齢化と後継者難に悩む農家の為になるのか、と。
私は農協を巨大な金融機関だと書いたが、それは中央農協の話であり、日本各地にある地域の農協を指すものではない。一般的な傾向として、やる気のある農家ほど、農協を使わずに出荷する傾向がある。
例えば農家のAさんが、長年の研究成果として格段に美味しいコメを作ったとしても、それを農協に出荷すると、他の米とブレンドされてしまう。農協は農家全体の共済組織であるから仕方ないのだが、それではAさんの努力は実らない。
だからAさんは、農協を通さずにエンドユーザーに個別出荷する道を選んだ。仲介する商社や、直接取引を望む飲食店の援助もあり、Aさんの収入は右肩上がりだ。しかし、農協はそれが気に食わない。だから妨害することさえある。
その一方で、農協が主導して地域の特産品を開発し、地域の農家の協力のもとに売り上げを伸ばすことも珍しくない。日本各地にある農協は、現在の農家の現状を理解しており、危機感を農家と共にしているからだ。
私の観たところ、成功例よりも失敗例が少なくない。だが、それでも農協と農家は生き残りを賭けて、模索をしている。その農家や農協にとって、今回の農協改革はいかなる影響があるのか。
安倍内閣と、中央農協の深刻な対立を報道するのはいいが、マスコミの報道は視点が定かでない。いったい、状況を分かって報道しているのか、さっぱり分からない。はっきり言えば、何が起きているのか分からずに報道している感が否めない。
邪推だが、官庁付の大手マスコミは、官庁から配布される資料の横流し報道に慣れ過ぎて、現場を取材する労苦をしていない。だから、あんな時間潰しの報道でお茶を濁すのだろう。
私は21世紀を、水、化石燃料、そして食料の世紀だと考えている。人間、金はなくても生きられるが、食べ物がなければ生きていけない。その食料を作る農家の問題を軽視するマスコミの見識のなさには呆れてしまいます。