なかなか努力が結果に追いつかない。
事務所の近くの中華料理屋さんで偶に日替わりで提供されていたのが、トマトと卵炒めであった。具材は本当にトマトと卵だけ。ところが、これが望外に美味い。調味料は塩と、多分隠し味にウェイバーを少々だと思う。
ところが、このコロナ禍で店が閉店してしまった。気に入っていた定番の料理だけに、これが食べられなくなってしまったのが、とても残念であった。銀座は中華料理店が多い街だが、このトマトと卵炒めは、あまり見かけない。
はっきり言えば、高級とされる中華料理店では、ほとんどメニューにない料理であった。ということは庶民的な料理なのだろうか。
幸いにして情報あふれるネット社会のおかげで、レシピは分かった。そして、この料理がシナでは一般的な家庭料理であることも分かった。ならば、生粋の庶民である私向けに相応しい料理ではないか。
そこで私も作ってみた・・・う~ん、こりゃ失敗。味付けが難しい。すごく簡単そうにみえるレシピなのに、いざ作ってみると、近所の中華料理屋さんのものとは別物なのだ。
何度か失敗してみて分かったのは、塩振りの難しさ。単に塩の量だけの問題ではない。炒り卵全体に上手くいきわたるように塩を振りかける難しさ。レシピを熟読し、調理動画を熟視しても、これはなかなか身につかない。
思い起こされるのは、フレンチの三國シェフのことだ。北海道に生まれ、札幌のホテルで料理人として修業した若き日の三國氏は、更なる技量向上を求めて東京の帝国ホテルで働き出した。
しかし、来る日も来る日もひたすら鍋を洗う毎日。少し心が折れかけたと後年述べていた。その帝国ホテルの元へ、外務省から依頼が来た。スイスの日本大使館付きの料理人を派遣して欲しいとのころ。
すると、当時の村上総料理長は、鍋洗いをやっていた三國氏を抜擢した。本人も驚いたが、周りも驚いた。すると村上総料理長は一言「三國君は塩振りが上手い。だから大丈夫です」と。
鍋洗いの合間に、味見をしたりして研究熱心な姿を村上総料理長はしっかりと看ていたのです。その後、スイスに渡り修行に励み、やがてフランスに赴き各地のレストランで働き技量を高めて帰国して有名になったことは、よく知られている通り。
塩の扱い方って、料理の肝なのでしょうね。
私が料理が下手な理由の一つは、20代の時に腎臓を傷めた結果、やたらと減塩に拘るようになったことが一因だと思います。今は特に、塩の制限は言われていないのですが、長年塩を減らすことに注意していたので、無意識に塩を使いたがらない性向があります。
ちなみに、トマトと卵炒めですけど、あれこれと試した結果、卵を割ってカップに入れてかき回しておくのですが、その際に塩を振り、全体に行き渡るようによくかき混ぜることで、なんとか食べれる味になりました。
でも、まだあの店の味には遠く及ばないです。料理の世界は奥が深いと痛感しています。