秀吉の朝鮮出兵に対して戦った英雄である李舜臣は、コリアでは知らぬ人のいないと断言できる。
しかしながら、私からすると良く言って悲劇の英雄、下手すると憐れな英雄に他ならない。
元々この人は支配階級(両班)ではあっても、決してエリートではない。科挙に合格したのは30代だし、その後も対女真族という過酷な最前線に送り込まれている。おかげでコリアとしては珍しく実戦で鍛えられた武人となれた。
一応触れておくと、朝鮮半島北方に勢力を張っていた女真族は、きわめて精強であり、あの加藤清正が試しに戦ってみて、散々打ち破られている。後に清という中華史上でも特筆すべき強大な帝国を築き上げたのだから、その実力は本物だったのだろう。
話を元に戻すと、李舜臣は中央に帰任してからも上司との折り合いが悪く、かなり苦労している。対日本軍の海軍司令に任じられたのも、実力だけでなく、上司に疎んじられた影響が強い。
当時の朝鮮海軍は、軍とは名ばかりで、実際には対海賊のための海上警備隊に近い。その戦い方は、遠方からの長弓の攻撃や、今でいう火炎瓶の陶器版である焙烙玉を活用してのものが多い。
そのせいで、当初海戦を予定していなかった日本の艦船に対して序盤では優位に戦いを進めている。当時の日本は、接近して相手艦に乗り込んでの戦闘法が主流であったので、朝鮮海軍は有利に戦えた。
しかし船足が遅い上に、相手艦に乗り込むような接近戦が苦手なので、機敏な日本船を沈めることが出来ず、徐々に対応策を練られて苦戦する。はっきり言えば、序盤だけ戦って、後は逃げ回る戦い方に終始している。
おかしなことに、これは明軍が救援に駆けつけて共同戦線を張っても同じであった。まァ、遠方から駆け付けた明兵にすれば、異常に接近戦に強い日本兵との近接戦闘は避けたいのは理解できるが、故国防衛の朝鮮兵がそれでいいのか疑問である。
ところで李舜臣だが、日本に対して軍功を挙げたことから余計に上司に嫉まれてしまったようだ。中央に戻されると捕縛されて拷問を受ける始末。日本軍が再び現れたので、仕方なく釈放され前線に追いやられたのが実情だろう。
この人、決して無能ではないと思う。狭い海峡に船を並べて、多数の日本船を相手に奮闘するなどしているあたり指揮官としての優秀さが覗える。コリアの史書では、少数の船をもって日本船を殲滅したと記されているが、実際は日本船に追い回されて敗走し、遂には日本兵の汲ノ射殺された悲劇の将でもある。
最終的には日本は自らの意志で撤退しているのだが、戦闘で日本に打ち勝っての勝利ではない。普通、敗走する敵兵を追いかけまわして、二度と戦う気が起きないように徹底して打ち破る。
しかし、明も朝鮮もそれをしていない。停戦が決まって後、平気でそれを破り日本軍に襲いかかってきたが、逆に打ち破られて敗走している間に、日本軍は悠々と帰国の途に付いている。
戦国時代の末期、実戦経験が豊富な日本軍と異なり、安全な距離からの遠方攻撃しかやりたがらない朝鮮兵の弱さの証左である。でも朝鮮兵が脆弱な訳ではない。儒教の影響が強い朝鮮では、武官よりも文官有利の大原則が活きており、軍隊軽視の姿勢があったからこその弱さである。
そんな社会で、少し日本に勝っただけで妬まれて貶められた李舜臣は、本当に不幸な軍人であったと思う。彼にとっての本当の敵は、日本軍ではなく伝統的な儒教社会であった李氏朝鮮の社会そのものであった気がしてなりません。
最後は日本との戦いのなかで戦死していますが、もし生き残って凱旋したとしても、おそらく無実の罪で貶められての不幸な最後が待っていたように思えます。
そして最も不幸なのは、そんな彼の実態を知らせず、単に抗日の英雄として祭り上げるコリア社会の在り方でしょう。
他人事ではありませんぞ。日本だって同じようなことをやらかして、結果的に日本を敗戦に追いやっていますから。それは次回書きます。
前の亀甲船の記事とあわせて楽しく読ませていただきました。
李舜臣は、韓国のドラマにもあって、前から見たい見たいと思ってたのです。
ほぼファンタジーみたいになってるだろうとは思いますが・・。(;´∀`)
秀吉の朝鮮出兵は興味津々なんですよね。今度、何か本を読んでみようかな。お勧めの本ありますか?
それと、もし秀吉が亡くならなかったら、あの後、豊臣軍は南京(北京?)を落とせないまでも、迫る事は出来たんでしょうかね?
当時の国力は、日本が人口6千万ほど。朝鮮は2千万ですが、明は5億人の人口を抱える超大国です。戦闘で初期段階ならば勝てるでしょうけど、最終的には数の力に押されてしまうと思います。
ただ、中国東北部に女真族が勃興しており、これが後の清帝国となります。日本軍も一戦交していますが、その強さは驚異的であっさりと敗退しています。これは、日本軍が本格的な騎馬軍団との交戦経験がなかったからだと思います。たとえ秀吉健在でも、大陸制覇は無理だと思うのです。