ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

虫取りの成果

2019-11-22 11:54:00 | 日記

死んだ人には敬意を払うんだよ。

今でも覚えているのだが、私はそうお祖母ちゃんから言われて育った。妹たちは、それほど言われていないと思う。何故かと言うと、お祖父ちゃん、お祖母ちゃんの家の周囲にはお寺と墓地が沢山あったからだ。

墓地はともかく、お寺は木々が豊かで、私が大好きな虫取りには絶好の狩場であったからだ。そのことを知っていたお祖母ちゃんは、私に少しきつく言いつけたのだと思う。妹たちはお寺や墓所になんか行きたがらないから、言われないのは当然だろう。

私は幼少時、米軍基地に入り込んだり、打ちっ放しのゴルフ場に潜り込んだりする悪ガキであったが、お寺に入り込む時は可能な限り挨拶するなどして許可を取っていた。お寺に人がいない時だって、ちゃんとお参りの作法を真似した自分なりの挨拶をしていた。

そのせいか、どうかは知らないが、私はお寺や墓所で怖い思いをしたことはない。大人になった今でも、私のジョギング・コースは墓所の傍を通り抜けるのだが、例え深夜であっても怪しい経験など皆無だ。

ただ私の悪ガキ仲間は、そうでもなかったらしい。私が墓地や寺の森に入り込んで虫取りをしているのを気持ち悪そうにしていた。誘っても、絶対に乗ってこなかった。

このことも影響していたのだと思うが、後に子供たちの間に伝染病が流行し、児童が大量に入院した時、私は周囲からイジメの対象になったことがある。私が墓地に入り込んだから病気が流行ったのだと誹謗された。

私はそれが根拠なき妬みであると思っていた。だが、私の真似をして墓地に勝手に入り込んだ他のクラスの奴らが、住職から叱られていたのは知っていた。その仕返しだろうとも思っていた。そうでもなければ、そうそう他のクラスの奴らから目を付けられることはない。

正直言えば、当時私が苛めの対象となったことと、墓地やお寺に入り込んだことが無関係だと確信があった訳ではない。実際、無意識に私はその頃、虫取りを墓地や寺でやることを控えていたからだ。

怖いと思ったことは一度もないのだが、人間関係のストレスに悩まされるのは、お化けよりも怖いと思っていた。それでも転校して月日が経つと、私は再び虫取りをするようになっていた。

ただ残念なことに引っ越した先は、墓所などまったくない商業地であったから、当然に森や林は少なく、草っぱらさえ滅多になかった。そのこともあって、次第に虫取りをしなくなっていった。

やがて高校に入ると、ワンダーフォーゲル部に入部し、登山をするようになった。もう虫取りへの関心は失っていたが、やはり野山を歩くのは楽しかった。同時に私は自分の意外な才能に気が付いた。

一年生のころは分からなかったが、二年生になり下級生を先導するようになると、私は山道を見つけるのが上手いことを先輩から指摘された。私は野山に限らず、道を歩く時は視線を周囲に走らせる癖がある。

親からは落ち着きがないと注意されたが、これは幼い頃からの癖で、なんの為かといえば、それは虫を早く見つける為であった。その癖は十代半ばになっても残っていたようで、私は登山の時もキョロキョロと視線を回しながら歩くことが普通であった。

それは大学でのWV部でも同じで、私はトップに立って、パーティを先導するのが得意であった。特に迷いやすい藪道では、自分から率先して先頭に立って歩くほどであった。私は人の足跡や、動物などの踏み跡を見つけ出すのが得意なだけでなく、地図を読むのも得意であったので、難コースを楽しんでいた。

だからこそ、あの時は焦った。

四国の山間部を縦走していた時のことだ。正規の登山ルートではなく、稜線上の踏み跡を辿る難コースであった。冬場とはいえ、藪はけっこう濃くて、藪山としてはかなり難易度が高い山域であった。

酷い時は、3時間かけて500メートルしか進めないこともあった。途中ビバーグして、ようやく里に近づいたと思い、内心安堵していた。実際、木々の隙間から下方に林道と思しき光景が見えた時は、思わず歓声を上げたほどだ。

しかし、こんな時こそ慎重であらねばならぬ。パーティを止めて休憩させ、私は一人で偵察に出た。林道へ降るルートを探すためである。藪の薄いところに突っ込み、獣道と思しき踏み跡を見つけ降っていった。

藪を抜けたと思い、腰の高さにあった岩に手をかけて背伸びして前方を見ると、たしかに舗装された林道が間近に見えた。一人ガッツポーズをするが、ふと違和感を感じて周囲を見回して唖然とした。

墓地のど真ん中に私は立っていた。

私が岩だと思っていたのは、墓石に他ならず、同じような墓石が十数個、並んで安置してあった。どうやら近辺の里村のお墓であるようだ。動揺した私は、墓石一つ、一つにお参りをして回った。

頭の中にお祖母ちゃんの「お墓は大事にしなければいけないよ」の科白が久々に甦った。

断言しますけど、この時怖いとの思いとかは一切ありません。ただ懐かしいお祖母ちゃんの声が脳裏に再生されたことが、私的には修羅場でした。その後、落ち着いて林道に降る道を確認してから、パーティが待機している場所に戻った。

リーダーのKに林道と墓地のことを話し、墓地を迂回する形で林道まで降りた。ほぼ四日ぶりの舗装された道路であった。なぜだか、その時みんなで「万歳~!」と歓声を上げたことは良く覚えている。

ヒドイ藪に悩まされた数日を思えば、下級生たちが歓声を上げる気持ちは分かる。もっとも私は一人、林道から墓所を見上げていた。口には出さなかったけど、内心「一応、筋は通したよなぁ」と悩んでいたことは内緒である。

数日後、近隣の村役場に挨拶に行き、たどってきたルートを説明すると「よく、あの藪を抜けられたねぇ」と営林署の方に感心された。かろうじて踏み跡を判別できたのでと話すと「あんた、ハンターの免許でも持っているのかい」と言われた。

私が元々虫取り好きなのでと答えると、なるほどねと苦笑された。どうやら、この人も虫取りをよくやっていた口だろう。

今となっては、虫取りなどは全くしていないが、多分今でも踏み跡を辿るのは得意だと思う。まぁ、その能力が役立つ状況は、考えられないのですけどね。


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