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山から色彩が消えていく。ついこの間まであった多彩を尽くした絢爛たる秋の森の風情は、いつの間にか単色の色合いを濃くし、冬の趣きを一段と強めた。都会から聞こえてくる話題はまだ秋の季節を対象にしているようだが、立冬を過ぎた1800メートル前後の牧場では、自然も人も動物も冬支度に忙しい。
春は季節を逆行するような思いで登ってくるが、秋は季節を先取りするようにしてここまで来る。下ではまだ落葉しない木々、落葉松、モミジ、イチョウ、ケヤキなどなどの中でも、イチョウの葉は一際目に付く。
イチョウと言えば東京に暮らしていたころ、半蔵門から桜田門に至るお堀端のゆるやかなカーブをよく走ったが、あの辺りにはたくさんのイチョウの木が植わっていて、黄色く色付いた葉が記憶に鮮やかだ。いまではこの季節、東京を思い出すには最も懐かしい風景となっている。
折角たわわに実ってくれた柿の実も、もぐこともなく放置する者には切なく見える。もうすぐ「里の秋」も逝くだろう。
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初冬の入笠の、えも言えぬ閑寂な趣きが身に沁みる。この寂しさに慣れるころ、ここにも雪が降る。今朝、また1頭の鹿が罠に掛かっていた。
冬の山小屋「農協ハウス」とキャンプ場の営業に関しましては9月5、6日のブログをご覧ください。冬の森の中であなたの出会うのは雪の精か、はたまた森の精か。